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勇者の卵達

勇者の卵である勇者学院の生徒、中でも上位の戦闘能力を持つ者達には二つ名が与えられている。

ナトに対して能力を開示したくない者もいれば『英雄』のような例外もいるようで…?

勇者学院にはムトの『支配者』のような二つ名持ちが他に九人おり、これは実戦で発揮できる戦闘能力上位10名に与えられている。

わざわざ実践と言っている通り、この名称は基本的にこの前の試合のように実際の戦闘に基づいて決定されているのだ。

これはこれが教員あるいは国から与えられた正式なものではなく、ただの通称に過ぎないからである。


よってこの序列はその順位も含めて必ずしも実情と一致しているとは限らない。戦闘能力で上位10名であっても知名度が無ければ二つ名が無かったりするのだ。


かなり昔、勇者学院に潜入したスパイが仕入れて来た勇者学院の上位10人の名簿の中から序列二位相当の者が抜けており、しかもそいつが暗殺者であったため、戦時中に将軍が数人ほど殺されると言う大事件が起きたこともある。


そうそう、この二つ名には基本的にその者の特徴が表れているのだが、一人だけ例外が存在する。

「おお、『勇者』様だ!」

お、ちょうどよい所に例外が来たな。


こいつ、序列一位『勇者』だけは二つ名が固定である。流石に次期勇者候補確実である序列一位は軍事機密と言う側面が大きいため『勇者』と呼ぶことが生徒内で暗黙の了解となっているようだ。


…まぁ子供は存外口が軽く、スパイによって能力が丸裸にされるので正直、意味はない。


「やぁ『勇者』君。」

私は人込みからひょいっと手を伸ばし『勇者』とハイタッチをする。

一瞬驚いたような顔をした『勇者』だったがすぐに表情を切り替える。


「魔王ナト、こんにちは。

学院生活は楽しんでいるかい?」

温和な笑顔を向けて当たり障りのない質問をかける。


「それなりだね。」

と私もあいまいな返事を返す。


流石に序列が高ければ高いほど温厚である。

というよりは極力対立しないように、あるいはこちら側の情報を出さないように上から言われているのだろう。

反面、序列が低ければ血の気は多い。


「そういうのは私ではなくて彼に言ったらどうでしょうか?『英雄』」


『勇者』と離れ周囲の人達を観察していると何やらもめる声が聞こえる。

「魔族の風習を知らないとは言わせないぞ。

私はなんとしても前回の恨みを晴らさないと気が済まないんだ。」


魔族の習性か、確かに下剋上システムを考えれば私に勝った『支配者』が私に対して自由に命令をできると勘違いしてしまうのは仕方のないことかもしれない。


「先日の戦いは彼も手加減してると言っていたでしょう?

たまたま私が勝ったからと言って従順に従うわけがない‥‥

むしろ従順だったらどれほど楽か…。」


この『英雄』のように序列持ちであってもほとんどの者は非常に好戦的である。


「やぁやぁ『英雄』君。入学の時以来じゃないか。」

俺は素早く彼の背後に回りにやにやしながら序列第五位『英雄』の頭をポンポンとする。

『英雄』は不愉快そうにその手を振り払う。


言っていなかったが『支配者』の序列は第七位である。

そしてこいつ、『英雄』は俺が勝てるギリギリのラインである。

そう、こいつは序列が二つも下の奴に大金星を奪われたと言うわけだ。

しかも私は序列四位にも負けているので序列五位である彼は一番悔しい思いをしているのだろう。


「序列が下位の者に負けたからと言ってかっかしてはいけないよ。

いつでも相手してあげるんだからさ。」


だがそんなことは知ったことではない、弱い奴が悪いのだ。

俺はへらへらを笑いながらそう声をかけた。

やれやれとムトが呆れたようにこっちを見る。


「…そこまで挑発するなら乗らねぇわけにはいかねぇな。」

『英雄』は意外にも待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべる。

どうやら嵌められたらしい。

とはいえ俺も久々に勝ちたかったのでのってやることにした。


「「いざっ‼‼」」


私と『英雄』が武器を構えようとするとバシィという音が響きわたった。

「外に出なさい…。」

眉をひそめたムトは外を指差した。


「「はい…」」

男二人はすごすごと外にでていった。



私達は仕切り直して構える。


入学当時のフルアーマーに真剣をたずさえて飛び掛かってきた彼はどこにいってしまったのか、『英雄』は木刀一本を構えるのみである。

何か策があるとみるべきか。


「水よ。」

私はすぐさま水の剣を生み出す。

『支配者』とは違い彼は魔力を完璧に操れるわけではない、ならば近接攻撃で攻めるのは有効だろう。

私は剣をもたぬ左手を地につけ駆け出す準備を整える‥ように見せる。


「地よ‼」

それに反応した相手が動き出すのに合わせて彼が踏み出した地面を隆起させる。

体勢が崩れたところをすぐさま水の剣で斬りかかる。


「水よ!」

体勢を整える時間を稼ぐためか大量の水が進行方向を塞いだ。

とはいえただの水の塊なら魔力を軽く放つだけで霧散できる。


「貫け!アースランス!」

それを見越して『英雄』が大地から槍を飛び出させる。

水を吹き飛ばすことに集中していたためか反応が遅れ、土の槍が左腕を半分ほど引き千切る。


「ふっ‼」

しかし幼少期から痛めつけられていた私はこの程度では決して動揺しない。

むしろ自分から腕を引き千切るくらいのイメージで前進する。


そして魔法の制御が甘く剣から水滴が飛び散るのも気にせず、水の剣を大きく振りかぶる。


「ッ地よ!」

流石に腕を犠牲に前進するのは予想外だったのか、少し焦った彼大地を隆起させ自身を後方に押し出させて距離を取ることを選んだ。


まぁ、通常ならばそれは最適解だろう。

通常なら、な。


「水よ!‥‥鞭となれ!」

俺はまだ距離があるのにも関わらず思いっ切り剣を振った。

と先程振りかぶった時に飛び散った水滴が鞭を形作る。


突然リーチが伸びた水の剣、いや鞭が『英雄』の顔を強打しノックアウトした。


本来魔法剣をよっぽどのことがない限り強く振っても火の粉や水滴などが飛び散ることはない。

しかし俺のように魔力支配が弱い者はどうしても制御仕切れず飛び散ってしまう。


ならばその飛び散ったものを利用してやろうと言うのが俺の魔法の真骨頂である。

魔法剣のようにさほど魔力支配能力を必要としない魔法も好んで使うからこそ生み出された技である。


憎らしいことに『支配者』にはこれらの小細工を全て見抜かれ、また逆に嵌められることもしばしばある。


とはいえ今回は完璧な勝利である。

久々に魔王の威厳を見せれたと喜んでおこう。

ふふん。

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