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『支配者』

謹慎明け、魔王ナトはさっそくムトへ戦闘を申し込む。

魔力量に恵まれなかった彼女はどのように戦うのか。

「さあ!勝負しようぜ!」


謹慎明け。すぐさま少女の元へきた俺は呆れたといいたげな顔をしている少女に指を向けた。


俺が女子寮に突入したことは瞬く間に学院中に広まりはしたものの、実はナトはムトの事が好きなのだという情報が流入したことで私への評価は一気に好転した。

これが功を奏したのか謹慎期間も短くなっていた。


「放課後にどうでしょう。」

少女は仕方がないと言わんばかりに了承をする。


流石は勇者学院の生徒。渋々とは言え戦闘をこうも容易く受けるとは。


「ああ、構わないとも!」


ちなみに授業はしっかり受けるんですよ。としっかり釘を刺された。



「さぁ!勝負だ!」

最後の授業が終わり待ちきれなかった俺はすぐさま彼女の手を引き体育館に飛び込んだ。


放課後、体育館は大人気である。

授業を終え、戦闘に飢えた獣たちが一気に押し寄せるためである。


「焦らなくても私達が戦闘する場所くらい空いてるでしょうに…。」


かなりの力で引っ張っているはずなのに痛がる素振りをみせないあたり、やはり近接戦闘能力が低いと言うのも虚偽の可能性が高い。


さぁムトよ、その力の謎を引きはがしてやるぞ!


どこからか俺等の戦いを聞きつけたやつらがぞろぞろとギャラリーに集まってきた。

純粋に魔王の戦闘が気になる者、私がムトの事を好きだと思い込んで何かしらの恋愛模様が気になる者と多様である。

そんな外野の事は全く気にせず私は精神を落ち着ける。


そして彼女の準備が出来たことをしっかり見てから即座に戦闘を始める。


「それでは先に行かせてもらうぞ!」


こういうのはまず近距離戦で遊ぶものである。


「火よ、剣となれ。」

とりあえず火の剣を生み出し、風魔法で加速して急接近する。


ムトは避ける気は無いようだ。


先日の脱力から見るにエネルギーを奪う系の魔法を得意としているとみていた私はとりあえず容易くは奪いきれないように右腕に上位魔法クラスの魔力を注ぎ込む。


私では制御が難しい膨大な魔力を孕んだ火が大きく揺らめく。


その火の剣が彼女の首を刎ねんとした瞬間、ぞわっと体が震えた。


脱力感とは違う。


これは死の感覚だ。


俺は念のため剣を振るうのをやめて大きく距離を取る。



…しかし特に何かが起きたとは思えない。


目の前の状況は特に変わっていない。


訝しみながら再び剣を…

「…は?」

構えることは出来なかった。


俺の右腕は彼女の傍に落ちていたからである。


火の剣は俺の制御を外れただの火に変わっている。


念のため右腕を見ると断面は完全に焼き切れていた。


気付かないうちに右腕を同じく火の剣で切り落とされていたらしい。

「くっ!」

何はともあれ回復する時間を稼ぐ必要がある。

「火よ!」

比較的気軽に放てる火球を複数展開する。


とりあえずその場にとどめて置き相手の様子を伺いつつ回復を…

「あっっづっっ!!」

上空にあった火球が急に巨大化し術者である俺を焼き尽くした。


おかしい。


おかしい!


いくら俺の魔力制御が甘いからと言ってもあそこで膨張を始めるわけがない。

もちろん、魔力量も足りていないはずだ。


本当に何が起きてるんだ…?


観客もぽかんとしている人が多くみえる。


「あれが『支配者』…。」

しかしその中で特に気になる言葉があった。


『支配者』?そんな言葉聞いてねぇぞ。憎らしい同級生の顔が浮かび上がる。

あいつら…わざと言わなかったな?

強烈な殺意が沸き上がる。


『支配者』という二つ名の話は聞いたことがある。

確か非常に強力な魔力支配能力で時には相手の魔法を奪って攻撃することができるらしい。

恐らく先程は俺から火球の支配権を奪い、俺の魔力も奪い火球に与えて膨張させたのだろう。


とはいえ分かったところで具体的な対策が思いつくわけではない。


「もう少し魔力制御に集中したほうがいいと思う。」


目の前の少女、『支配者』は冷静に言葉を投げかける。

その言葉には全く侮蔑の意がないことが更に怒りに拍車をかける。


うるせぇ出来ないからこうなってるんだろとは流石に言えなかった。


「火よ!収束して立ち昇れ。火柱!」


俺は魔力制御は苦手だが決して高位魔法が使えないわけではない。


魔法は構成、維持が重要である。俺はこの二つの魔力制御の内、構成に重きを置き、維持の脆弱性を突破される前に膨大な魔力で倒してしまおうと言う戦略なのである。


流石にここら一帯を吹き飛ばす魔法を使うわけにはいかないが柱系魔法なら単体を打ち倒すには十分すぎるだろう。


防御魔法が未発達な古代においては実戦においてでも使うことが躊躇われた魔法ではあるが、

「無傷とは恐れ入った。」

苦々しい顔で火の中からこちらに歩いてくる少女を睨みつける。

防御魔法が十分に発展した世界では魔力支配能力が高ければ火傷痕一つすらつかない。


「そろそろ私もやらせてもらうよ。」


今まで防御に徹していた少女が右手を大きく振り上げる。


背後で立ち昇る俺の火柱が瞬く間に右手に収束する。


これはまずそうだ。


「エクスプロード」

「魔力障壁!!」


何とか防御魔法が間に合う。


「地よ!」

爆炎が周囲に離散する前に彼女は俺を中心に大きな窯を生み出した。


見事な窯焼きである。

俺は程よく日焼けしたイケ男になれるだろうか?


答えはNOである。真っ黒こげの死体が関の山である。


「我は運命に抗うものなり。

物語が終わりを迎えようとも我はその終結を否定する。

物語の新たな始まりを神に変わり我が認めよう!

蘇生魔法リザレクション‼‼」


凄まじい熱が魔力障壁を破るのと同時に蘇生魔法が発動する。


瀕死の肉体を即座に再生させてみせた。

なんとか間に合った…。



土の窯が崩れる時には無傷の俺が立っていた。

周囲がどよめく。

何より驚いていたのはムトであった。


魔法には最後の最後まで支配するタイプと途中からはある程度自然の法則に身を任せる魔法があるがおそらくムトの魔法は前者だったのだろう。


確実に殺したと思った相手が無傷で出てくればそれは驚愕するだろうな。

「ッ!火よ‼‼」


ムトは初めて焦りを見せ火球を生成する。


俺は大きく両手を上げて…


「降参!降参!!」


とみっともなく降参宣言をした。


勝てる気がしないと言うことと、これ以上魔法を明かすわけにはいかないと言うこともあり俺は降参することにしたのだ。

俺がこの学校に来て初めての大敗である。

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