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魔力なき賢者

ようやく戦いを頼まれることが無くなった魔王ナトはひと時の休みを堪能しようとする。

しかしそれを邪魔する少女が現れた。

不愉快に思う彼だったがよく見てみると他の人間とは明らかに異質であることに気付く。

あー。しんどい。

入学早々何十連戦しただろうか…。


何度も何度も戦ってくれとせがまれ徹夜で戦闘をした。

確かに勇者の卵は血の気が盛んだと言うがまさか魔族と同じくらいひどいとは思わなかった。

魔族達はまだ魔王と言う立場と言う物があったから回避できたが…。

どうやら同盟国の王だからと言うことで見逃してくれると言うことはないらしい。



魔族の人間の領土への侵入を機に始まった人魔大戦。

人間、魔族双方に大量の死傷者を出し関係は最悪な状態にあった。


しかし、後に発生したギアの大乱で人間の勇者と魔族の魔王が手を組みギアを打倒したことで和平のための会合が行われ、人魔同盟が成立した。


後に人間の国が北東のボリク王国、北西のボンレ王国、南東のヒテリ魔導王国、南西のレヒヒ聖王国に分裂してもその同盟関係が崩壊することはなかった。


そしてその同盟の証の一つとして今年から入学したのが私、魔王ナトなのだ。


人間から見ても生まれてそこまで経っていない私が学校に入ることはさほどおかしい事ではないのだが、やはり一国の王が入学してくるというのは物珍しいのだろう。


もしくは魔王と言う立場の人間が思ったより幼くて驚いたというところだろうか。

そうだとすると人間には私の誕生の伝説を知らないということになる。

魔族の中だと私が、母含め数人の魔族を殺しながら誕生した日が満月であったことにちなんで、強者の誕生を示す血月と言う言葉が出来るくらいには血月王の伝説は有名なのだが…。



なにはともあれようやく訪れた静寂。

今日はよく寝れそうだと魔法の座学中に隅の席でうとうとしていると、とんとんと肩を叩かれる。

また戦闘をせがまれるのだろうか?

もうしばらくは戦いたくはないな。


とくに高速で動くフルアーマー野郎はなかなかにホラーだった。


いやなことを思い出してさらに不愉快になったので我関せずと無視を決め込むと今度は強力な脱力感が体を襲う。

暗殺か!?と思わず身をこわばらせると「起きてるんでしょ!授業しっかり受けなさい。」と小さな声が聞こえる。


なんだ起こそうとしてるだけかと再び夢の世界に旅立とうとすると再び、今度はさらに強力な脱力感が襲う。


「止めてくれ…」


いやいや顔を起こすとそこには銀…と言うには少し白すぎる髪の少女がいた。

誰だこいつと軽く見てみると驚くほど魔力量が少ないことに気付いた。


もちろん、見かけ上の魔力量はある程度魔力支配能力で抑え込むことができるが一般に、魔力量の多い生物は抑える量はほどほどに、ある程度の魔力は放出して相手を威嚇する習性がある。

それは魔族や人間にもよく見られるのだがこの者に関しては漏れている魔力の量がほぼ空気と同じ程度の魔力量しかないのだ。

一見、魔法が使えないのかと思うほどに…


考えられることとしてはただの弱者。

しかしさっきの脱力感が気のせいだとは到底思えなかった。


はたまた脱力に魔力を消耗しつくしたか。

しかし目の前の少女は消耗しているようには見えない。

一般に極度の魔力の消耗は生命に危機に直結するため呼吸が荒くなるなどの症状が発露するはずだ。


さて、彼女はいったい何者なのか。かなり興味を引かれた。

俺が考え込んでいると再び脱力感に襲われたので授業を真面目に受けることにした。



「さて授業も終わったし、聞き込み調査と行こうか。」


大きく伸びをし俺はとりあえずクラスメイトの女子達に聞いてみることにした。

まずはどんな情報でも欲しい。


「な~に?ムトに興味でもあるの?」

とニヤニヤ顔の同級生。


質問するまでは気付かなかったが人間、特に青年は恋愛やら何やらに非常に興味があるということを思い出した。


魔族は思いを忍ばさず、真正面から求婚し、真正面から叩き潰すという恋愛をするのでこういう行為が恋愛方面にとられるというのは衝撃的であった。


なんだか馬鹿にされた気がして思いっ切りぶん殴りそうになるのを必死に抑え、引きつった笑顔で

「ああ、いや。なんだか強そうな雰囲気がしてな。ぜひとも戦闘してみたいと思ったわけさ。」

とこっそり訂正しておく。


女子達はどうやらこれを照れ隠しと見做したようで喜々として話をしてくれた。

あまりに腹立たしい態度についつい殺意が湧くが何とか鎮める。


聞いた話では名前はムト、意味は月と言うことらしい。

どうやら俺の数年前に、同じく満月の夜に生まれたようだ。

とくにもらって喜びそうな物はないらしい。

いやそういう話を聞きに来たわけでは…

スリーサイズとかめちゃめちゃどうでもよいことを言い始めたので笑顔のまま、感謝を伝えつつ鳩尾に一発殴りを入れる。


悶絶する同級生をしり目に近くを通った男子生徒をとっつかまえて

「ムトの“戦闘能力について”聞きたいんだけどいいかな?」

と脅し半分に聞いて回ったところ、近接戦闘能力は女子の中では平均的、魔法は並以下と言うことだ。

どうやら絶望的に魔力が無いらしい。

それではどうやって魔法を使っているのかと言うと大気中や敵から魔力奪うことで魔力を補うのだとか。

ようやくまともな話が聞けてほっとする。


‥いやちょっと待て。しれっと言ってるが敵から魔力を奪うとか歴代魔王、勇者でもトップクラスの実力なのでは?

それでも弱いと言わしめる魔力量の無さには同情の気すら湧いてくる。

…まぁ魔力量が歴代最強で、魔力支配能力が歴代最低の俺が言えたことじゃないが…。



「ふむ。」


正直めちゃくちゃ興味が出てきた。

彼女とはまだ戦ったことはない。

だからこそ…


俺はいてもたってもいられず飛び出し女子寮に突入しムトに宣戦布告した。


「ムト!いざ尋常に勝負!!」


もちろん、女子寮は男子禁制である。

俺はしばらくの謹慎処分となった。

退学にならなくてよかった…。

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