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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第5話「自分に何ができるんだろうって思い知らされる瞬間」

「なんで入学試験で最下位設定だったこと、話してくれなかったんですか」

「よ……」

「よ?」


 踏み台を使って、茶葉のようなものとお茶会のセットのような類を見つける。

 先輩をもてなす用のお茶を用意しようと、低い身長で悪戦苦闘しているときのことだった。


「読めないよね……異世界語なんて……」


 先輩は頭を抱えるように、盛大に息を吐き出した。


「読めます……が」

「え? リョウくん、読めるの……?」


 俺は異世界語を日本語と同等に扱うことができるけど、先輩にとっての異世界語は暗号の羅列にしかならないという事実を知らされる。


「読み書きだけができないってことですよね……?」

「……私ばっか、かっこ悪い」


 自分の部屋に置かれてあった書物を適当に漁り、恨めしそうに見てくる先輩の前で異世界語の書物をすらすらと朗読してみせる。


「リョウくんは、主人公ポジションなのかもね」

「え……?」

「主人公って、いろいろ特殊能力が付与されてるものでしょ?」


 せっかく異世界に転生して魔法学園に入学したのに、肝心の言葉が分からなければ授業についていくことなんてできない。

 女神様はほんの少し愛情の量を増やすという特典をくれたけど、それなら先輩に読み書きの力を授けてほしかった。


「だから、リョウくん、主人公ポジションなのかと……」

「俺が世界を救うのではなく、俺は魔法少女を育成するために転生を選びました」


 先輩が信じられないといったような顔つきで俺のことを見てくるけど、先輩の視線は痛くも痒くもない。

 前世で俺の魔法少女愛を否定してきた先輩に復讐してみせると意気込んで、俺は教職という立場を利用しているのだから。


「リョウくんが、物語の主人公になるチャンスなんじゃないかな」

「無理です……俺、その、主人公の資格、何もないので……」


 机があって、椅子があって。

 そんな設備は日本の学び舎と変わりがないのに、さっきから個室内に浮かび上がる魔法の紋様が淡く輝いて幻想的な空気を作り出す。


「俺はマスコットキャラとして、先輩や……魔法少女の女の子たちを支援したいんです」


 何かしらの魔法が発動するわけでもないのに、魔力が秘められた個室というだけで、俺の体がびくついてしまう。

 そんな人間が魔法少女になって、世界を救えるはずがない。


「俺のことよりも、先輩のことです」

「私?」


 手で触れなくても、勝手に書物が宙に浮かび上がる。

 驚きと感動に包まれた個室には、かつての人生では叶わなかった夢のような空間が広がっている。

 でも、異世界に転生したからといって、臆病な俺は臆病なまま。

 魔法少女になる資格がないと自覚のある俺は、わざと話題を変えるために口を動かす。


「先輩は読み書きができないので、いわゆる弱キャラクターというポジションになると思います」

「火とか水なら、使えるよ?」


  入学生に配布されている木の枝で作られた魔法の杖を使って、先輩はなんの苦労もなく何もないところから炎を呼び寄せた。


「それ、魔法少女じゃないですっ!」

「私は魔法少女じゃなくて、魔法使い候補だから……」

「あ……すみません……」


 異世界への転生は、異世界魔法少女育成計画を始めるきっかけになると思っていた。

 強大な魔法を操り、敵を打ち倒し、世界を救う。

 そんな壮大な物語が待っていると思ったけれど、現実は違った。


(戦力が……)


 世界を救うという使命を与えられたはずなのに、俺たちが迎えた現実は前途多難なような気がしてしまう。


「魔法の杖を作り直すところから、ですね」

「プラスチックって、魔法で作れる?」


 女神様との会話を思い出す。

 確かに俺は先輩よりも少し能力値的なものが優れている気がするけど、決してチート能力が授けられたわけではない。


「俺、天狗になってました……」

「そんなことないよ。文字が読めるだけでも、十分……」

「だから、俺は主人公にはなれないんですって……」

「リョウくーん」


 女神様と俺が、どんな会話を繰り広げたかを先輩は知らない。

 俺が勝手に先輩を異世界に転生させて、俺が勝手に世界を守るための戦いに巻き込んだ。

 だから、俺は特別な力を授かって、異世界転生をしたわけではないということを先輩に説明していく。


「《《魔法少女になってくれ》》って頼むマスコットキャラだって、視点を変えれば主人公になれるんじゃないかな」

「マスコットキャラ……」


 先輩に指摘されることで、俺はようやく自分が望んでいたものが手に入ったことに気づく。


「それって、最高に素敵です」

「どこかの誰かが、誰だって主人公になれるって言ってたよ」


 両手で顔を覆いながら、口を押さる。

 その、手のひらの向こうでは、口角が上がっている。

 それを先輩に悟られないように、心がける。

 自分の望んでいた展開を迎えられたことが、嬉しくて仕方がない。


「俺、一人でも多くの魔法少女を勧誘してみせます!」

「その意気で、私のことを助けて」


 マスコットキャラクターが、少女を魔法少女に勧誘しなければ物語は始まらない。

 それは魔法少女作品にとって基本中の基本のはずなのに、いざ自分がマスコットキャラクターの立場に立たされると胸が痛い。

 自分に何ができるんだろうって思い知らされる瞬間、心がずきずきと痛む。


「お昼、食べよっか」

「はい……」


 心の中では、俺の魔法少女愛を馬鹿にしたいはずの先輩。

 それなのに、何もなかったかのように振る舞ってくれる不可解さに、また心が痛む。


(先輩に、無理させてる)


 いつも先輩に丸め込まれてしまうのは、前世で俺たちが先輩と後輩の間柄だったからなのかもしれない。


(先輩に、復讐するって思ってたのに)


 俺は教員という立場を利用して、まだ何ひとつ先輩に復讐できていないことに気づかされる。

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