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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第4話「穏やかで平穏な日々が始まったけど、ここは日本ではなく異世界」

「はるのいぶき、が、かんじられ……」


 先輩が原稿を読み始めたと思ったら、今度は思い切り棒読み。

 声にまで緊張が宿っているのを感じられて、面白くて仕方がない。


「ふふっ」

「何、あれ」


 俺が発した声に注目してくれた生徒たちが、再び先輩を見て笑い出す。


(好きなだけ、笑えばいい)


 俺は、俺だけは、先輩のことを見放したりしない。

 先輩にも、俺のそんな気持ちが伝わっているのかもしれない。

 どんなに笑い声を浴びても、先輩は原稿を読むことをやめない。


(こんな先輩が、世界を救う存在になるんだから)


 ありがたく思えと、心の中で叫んだときのことだった。


「あー、入学試験の結果、最下位じゃなくて良かったわー……」

「俺も。入学初日から、あんな醜態を晒すことになるなんて耐えられない……」


 近くにいた男子生徒のやりとりが、耳に入った。


(え?)


 入学試験の結果、最下位じゃなくて良かった?

 少年たちの会話を復唱する。


(入学試験の結果、最下位じゃなくて良かった……って!)


 隣に着席していた、恰幅のいいおじいちゃん先生に掴みかかる。


「リョウ先生っ! どうかされまし……」

「つかぬ事をお聞きしますが……」


 掴みかかっている状態でも、言葉は冷静に紡ごうと思った。


「新入生代表の挨拶は、成績一位の方が任されるものでは……」

「ほっほっほっ、リョウ先生は面白いことをおっしゃいますな」


 いや、呑気にほっほっほっとか言っている場合じゃないです。

 俺は、あなたに掴みかかっているんですって!

 でも、初老の男性教師は完全に平和ボケをしていた。


「成績最下位の生徒に新入生代表の挨拶をさせて、奮起してもらうということで毎年話を進めているではないですか」


 生徒の根性も腐っていれば、この教師陣の根性も腐っていると思った。

 奮起させるどころの話ではなく、これはいじめの一種だと悟る。


「っ、俺、最低だ……」


 今も、壇上で原稿を読み続けている先輩。

 どんな気持ちで、どんな想いで、その場にたっているかと考えるだけで胸が痛くなる。


「せんせいがたの、あたたかい、ごし、どうを……」


 見上げた先輩の顔は、とても綺麗だった。


「…………」


 頼もしかった。

 かっこよかった。

 どんな異世界に転生しても、どんなに年齢は若返っても、先輩は先輩なんだって思った。


「っ」


 こっちの涙腺が揺さぶられるとか、すべてが計算外。

 ちっとも予定通りに進まない復讐計画に溜め息を吐きたくなる。


「リョウ先生」


 先輩が壇上から降りると、先輩の張り詰めていた緊張が一気に解けるのを感じた。

 放送部で綺麗な喋りをしていた先輩の姿はどこにもなかったのに、先輩が無事に新入生代表の挨拶を終えたことに安堵の気持ちが湧き上がる。


「少しは、頑張れたかな」


 俺も席を立って、教え子へと歩み寄る。


「先生がいたから、頑張れた」


 満面の笑み。

 百点満点だと言わんばかりの眩しい笑顔に、やっぱり涙腺が揺さぶられる。


「先輩……」

「リョウ先生?」


 俺たちの間には、式典の厳かな空気なんて存在しない。

 先輩の存在があるだけで、場の空気が穏やかに変わっていくのが分かる。


「俺……この世界、救いたくないです……」


 人の努力を嘲笑うような世界なんて滅んでしまえって思うのに、そんな世界のことすら先輩は許してしまう。


「リョウくん」


 小声での会話を利用して、先輩は俺のことを《《リョウくん》》と呼んでくれる。


「なんで、名前……」

「だって、今のリョウくんは、リョウくんだから」


 それが、急に涙腺を揺さぶる要因へと繋がった。

 なんでなのか分からなかったけど、先輩に()()()()()って呼んでもらえることを嬉しいと思った。


「リョウくん、生徒想いの先生だって話題だったよ」

「先輩が、俺のことを泣かせたからです……」


 入学式を終えた俺たちは、炎の明かりが柔らかく浮遊する廊下を歩いていた。

 魔法学園の教師としての日々が始まることに気合いを入れる学び舎の造りに感動しながら、俺は学園から与えられた個室の扉をゆっくりと押し開こうと扉の取っ手に手をかけた。


「はい、どうぞ」


 自分の手で扉を開くはずだったのに、扉は軽やかに開かれた。

 驚いて顔を上げると、そこには先輩の穏やかな表情があった。


「……ありがとうございます」

「どういたしまして」


 新入生代表の挨拶での愕然としてしまう出来だったはずなのに、先輩は短い言葉の中に気持ちを込めてくる。

 一連の動作があまりにも自然で、俺の魔法少女好きが全校に知れ渡ったことは夢だったんじゃないかと都合よく考えてしまう。

「……一応、先輩はお説教を受けるという流れですからね」


 魔法学園の教師には、個室が与えられるというお金持ち学校ぶりに驚かされる。

 個室を与えてもらえるほどの優遇っぷりに悪い気はしないけど、この世界で俺にできることはなんなんだろうってことは考える。


「お邪魔します」

「どうぞ……」


 俺に与えられた専用の個室で、担当する生徒のヒナに説教するというシチュエーションに持ち込んだ。

 先輩と二人きりになるための口実とはいえ、実際の先輩にお説教するところは見当たらない。

 上手く言葉を紡げるか心が焦り始めるけど、窓の向こう側に見える広大な学園の庭を彩る花々に心を癒してもらう。

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