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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第3話「前途多難な魔法学園の入学式で」

「勝手に、じろじろみないでください……」

「うれしい。嘘でも、放っておけないって言ってくれて」


 心臓が、落ち着きを取り戻してくれない。

 先輩が笑顔を向けてくれるようになったのは凄く嬉しいのに、それを素直に受け入れられない。

 自分でも捻くれていると思うけど、心の中が複雑なのは事実。

 早く先輩に物凄い嫌がらせをして復讐してみせるって思うのに、いちいち先輩の挙動ひとつひとつに心臓が痛くなるから嫌になる。


「……優しいね、柚木くん」

「そんな嬉しい言葉を言ってくれる先輩の方が、よっぽど優しいと思いますけど」

「そんなことない。柚木くんの方が、よっぽど優し……」


 目が合う。

 ただそれだけのことなのに、ただそれだけのことに心臓が跳ねそうになるのを感じる。


「ふふっ、何やってるんだろうね、私たち」

「ははっ、そうですね。変ですね、俺たち」


 お互いを褒め合って、俺たちは本当に何をやっているのか。

 何がしたいってわけでもなくて、ただ普通に会話をしているだけ。

 それなのに、なんだか楽しくなってくる。


「リョウ先生! 遅いですよ!」

「すみません」


 講堂に入り、先輩をステージ袖へと送り出す。

 そして、俺は同僚と呼ばれる教師陣の輪へと加わった。


「リョウ先生も大変ですね」

「いえ、自分のクラスの生徒のことなので」


 恰幅のいいおばあちゃん先生に話しかけられ、どこかの悪徳貴族を思い起こすようないやらしい目つきが苦手だと思った。


(教師ってことは、この人たちも魔法を使える……)


 俺たちが転生していた世界は、神様に選ばれた人間だけが魔力と呼ばれる魔法の源となる力を所持している。

 魔法使いを育成するための魔法学園に通うのは、未来の魔法使い候補である少年少女たち。教師の先生はみんな、魔法使いの資格を持っているということになる。


(魔法を使えても、肝心の戦力にはならないってことか?)


 オタク文化に精通している俺の転生が必要なほど、この世界は魔法の使い手を探していると察した。

 でも、やっぱり違和感が消えない。


(教師陣を、無理にでも戦場? に引っ張り出せば、ここにいる生徒たちは魔法を学ばずに済む……)


 今のところ、愛を喰らう化け物が世界をどれだけ脅かしているのかは分からない。

 女神様は世界情勢が緊迫している風な感じだったけれど、肝心の異世界を生きる登場人物たちに緊迫した空気は感じられない。


(化け物は存在する……けど、グロくはない……)


 言葉で説明されるのと、実際に体験するのとでは受ける印象がまったく違うと気づく。


(でも、愛情を食べられた人間が死ぬって……十分グロいよな……)


 穏やかな雰囲気のまま式は始まり、学園長の挨拶が終わった。

 そして、新入生代表の挨拶をする予定の先輩が登壇する光景が視界に入る。


(先輩……)


 あまりの緊張で、手と足が同時に出ている……。


(え、手と足が同時に出る人なんて見たことない……)


 瞳を擦って、自分が見ているものは幻だと思い込む。

 でも、思い込んだところで現実に変化は起きない。


「ね、何あれ」

「変なのー」


 緊張で体が硬直してしまっている先輩に対して、最初は笑いを堪えていた人たちもいた。

 けど、一人が声を上げて笑い出すと周囲も影響を受けて一緒に笑いだす。


(こういうのって、どこの世界も同じ……)


 人の失敗を応援しろとまでは言わないけど、人の失敗を笑うっていうのはどうなんだろうって思う。


(失敗している側が努力してるってこと、ここにいる人たちは誰も知らない)


 遺体だった先輩が目を覚ましてから、この講堂へと辿り着くまで。

 多くの時間は与えてもらえなかったら、それでも、その短い時間の中で先輩は繰り返し新入生代表の挨拶を練習してきた。


(結果を出さなきゃ、意味がないのは事実だけど……)


 先輩が練習の成果を発揮できていれば、こんなにも先輩が笑われることはなかった。

 でも、結果の出せなかった努力だって認めてやりたい。


『柚木くん、大丈夫』


 散々、努力が報われなかった俺のことを励ましてくれた先輩。


『次は頑張ろう! 次は!』


 見限られても可笑しくはなかったのに、先輩は俺のことを見捨てなかった。

 最後の最後まで、俺の手を離さないでくれたのが先輩だった。


(最後の最期で、思いっきり突き放されると……)


 こんなところで、魔法少女愛を否定されたことを思い出す。

 このまま全校生徒の笑いの的になってしまえって気持ちがないわけでもないけど、先輩の努力が否定されるのは見ていられない。


「ヒナっ!」


 多数の笑い声が広がる講堂。

 それらに打ち勝つほどの声を、自分は出すことができるか。

 少し不安はあったけれど、俺は女神様ポジションに任命された主人公。


「続けろ!」


 全校生徒の注目を浴びるくらいの大きな声を出せるという、根拠のない自信があった。


「リョウ先生……」


 感極まって、新入生代表の挨拶を読むことすらできないはず。

 やってやったって顔をしている自覚はあっても、こんなところで先輩は挫けないんだろうなって自信もあるから少し悔しい。

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