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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第2話「先輩の、こういうところに惚れこんだ時期もありましたが」

「新入生代表の挨拶は、名誉なことですよ」

「名誉なんて、欲しくないよ……」


 先輩も新入生同様の真新しい制服を着ているものの、その表情には不安と緊張が色濃く表れていた。

 彼女は新入生代表の挨拶で読む原稿をぎゅっと握り締め、一人で不安と格闘しているようだった。


「先輩、まずは肩の力を抜きましょう?」


 先輩一人で背負うものなんて、何もない。

 勝手に異世界転生の話を進めた俺にも、先輩の荷物を背負わせてくれてもいいのにと思う。

 けど、先輩は、抱えている不安を吐露してくれない。


「柚木くん……変わったね」


 異世界転生したあとの俺は今も、魔法少女を好きだって想いを引きずり続けているキモい系男子という烙印を先輩に押されているのかもしれない。


「一応は、教師なので」


 今の俺は魔法のローブを身にまとっているはずなのに、少しも先生らしくない。

 前世と変わらない容姿を先輩に笑われないためにも、俺は堂々と胸を張ってみた。

 それすら自分らしくなくて、格好がつかない自分が益々、惨めになっていく。


「うん、すっごく教師っぽい」

「……相変わらず、先輩はお世辞が上手ですね」


 素直にお世辞を受け取ることができない自分を、可愛くないとは思う。

 でも、俺は自分のことが好きじゃないから、可愛くなくてもいいと開き直る。


「緊張で動けなくなってる私を救ってくれるのなんて、柚木くんくらいだから」

「っ、それは、ここが異世界だからです」


 先輩と、新しく教師と生徒って関係をやり直せばいいのかもしれない。

 でも、前世の記憶がはっきりしている分、頭のどこかで抵抗を示している自分がいるのも事実。


「魔法少女オタクだったので、流行のアニメとか……そそういうのに、ほんの少し詳しいだけです」


 下へ下へと、向いていく視線。

 誰と話しているんですかって尋ねたくなるくらい、俺は床との睨めっこを始める。


「自分なりに努力したつもりでも、緊張しすぎて物凄く気分が悪い……」

「いつものかっこいい先輩は、どこにいったんですか……」

「私を優しいって言ってくれるの、柚木くんくらいだよ」


 先輩の背中を優しく擦ると、彼女は深呼吸を繰り返しながら落ち着きを取り戻していく。


「現実は……ちょっとした努力では何も変わらない」


 ちゃんと酸素を取り込んでいるはずなのに、先輩は苦しそうな表情を浮かべた。


「マンガのような奇跡的な展開なんて、私みたいな普通人には用意されていないってこと」


 先輩らしくない言葉の数々に、ただ驚く。

 先輩には入学したときからお世話になっていて、先輩がいなかったら俺はとっくに放送部を辞めていたかもしれない。

 それくらい先輩には助けられたはずなのに、肝心の先輩は自分に自信を持ってくれない。


「俺は、先輩に救われましたよ」

「私が、お節介なだけ……」

「謙遜しないでください。本当に、本当に、本当に助けられましたよ」


 なるべく感謝の気持ちが伝わるように、明るい表情を浮かべながら言葉を大切に伝えていく。

 自分が上手く表情を作れないせいか、先輩の背中は益々、丸みを帯びていってしまう。


「先輩のこと、放っておけないんですよ」


 入学式が開かれる体育館……恐らく魔法学園的には講堂へと向かうために、先輩と一緒に歩を進めようと思った。でも、話し相手になってくれていた先輩は、急に足を止めてしまう。このままでは、講堂に辿り着くまでにどれだけの時間を要することになるのか分からない。


「先輩、初日から怒られちゃいます……」


 体勢を整えて、先輩の方を振り向き直す。

 先輩はどこか一点を見つめるかのように、ぼーっとしてしまっていた。


「先輩?」

「え、あ、ごめん! 放っておけないなんて言われたから、その……びっくりしちゃった」


 先輩を上手く形容する言葉が見つからないけど、不器用な人なのかなと思った。


(他人優先に考えて、自分で処理しきれない役割まで引き受けちゃうから……)


 いつも、他人のことを優先して考えてしまう人だと思っていた。


(だから、みんなから頼りにされて……)


 しかも、引き受けたことは、すべて完璧に片づけてしまう。

 周囲もそんな先輩がいてくれるから、遠慮なく甘えられるのだと思う。

 もちろん先輩をずっと観察していたわけじゃないけど、先輩に指導してもらう機会が多かった。

 だから、そんな観察力まで身についてしまった。


「俺……やっぱり先輩のこと、放っておけないです」

「駄目だよ」


 俺は、今も昔も先輩に注意されてばかりかもしれない。

 これから入学式が執り行われる学園内は騒がしくて、先輩の小さな声は聞き逃してしまうほど。

 それなのに、俺の聴覚はいつだって、先輩の声を聞き逃すことがない。


「放っておけないって言葉は、好きな人に伝えなきゃ」

「あ……」


 そこでようやく、先輩が何を言いたいのか理解した。

 放っておけないという言葉は、好きな子にしか向けてはいけないのだと学ぶ。

 むやみに口にしてしまっては、俺が先輩に好意を抱いているってことになってしまうらしい。


「あ、すみません! そうですよね、先輩は、違う……」


 先輩への好意は、一切ない。

 だからこそ、誤解されるようなことは口にしてはいけないと一人反省会。


「ふふっ、謝る必要もないけどね」

 異世界という別世界に転生した先輩は、混乱と緊張で顔を強張らせていたはずだった。

 でも、先輩は自然と柔らかい笑みを浮かべられるようになっていた。


「先輩が笑った……」

「私だって、笑うよ」


 先輩の優しい笑みを奪ったのは、勝手に異世界転生という新しい人生を選んだ自分のせいだと思っていた。

 でも、勝手に選ばれた人生の中で、先輩は前世と変わらない優しい笑みで俺のことを見てくれた。


(って! これは先輩に復讐するための物語! 何が反省会だよ! 異世界転生を選んだことに、何ひとつ後悔はない……!)


 一人で考え込む時間が長かったらしい。

 十六歳の少女へと転生した先輩は優しい眼差しを俺に向けながら、俺の様子を伺ってくる。

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