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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第10話「復讐心から始まった異世界生活は、前途多難」

「リョウくん」

「はい」

「ハイタッチ」


 俺は放送部で機械操作を担当する方で、きちんと機材を動かすことができたときに、こうして先輩は満面の笑みを浮かべてハイタッチを促してきたことを思い出す。   

 それが先輩らしくて、どんなに異世界に馴染んでも先輩は先輩なんだって思うことができるけど……。


「リョウくん?」

「先輩」


 体を震わせてしまうくらい怖い思いをさせてしまった先輩を、放っておけない。


「先輩が、生きていて良かったです」


 先輩を引き寄せて、先輩の体重全部を俺に預けてもらう。

 先輩を支えるように、背中にそっと手を回す。

 これは先輩を抱き締めているとか、そういうことではない。

 手のひらで、先輩の背中を撫でているだけのこと。


「……私、ちゃんと生きているよ」

「当然です」

「リョウくんも、ね」

「簡単には死にません」


 先輩も、俺が無事かどうかを確認しているだけ。

 だから、先輩も俺の背中に手を回そうとしてくれているけど、そこに好意というものは存在しない。


「っ」


 先輩の指で体に触れられると、体中の熱が上昇していくように思えた。

 体も頭の中も熱を帯びすぎて、思考がうまく働かなくなっていく。

 早く先輩を解放してあげたいのに、先輩は相変わらず俺に触れることをやめない。


「……怖かった、ですよね?」

「敵と戦うことより、リョウくんが死んじゃうことの方が怖い」


 先輩の体が小刻みに震えているのに気づいたから、ちょっと気を遣おうと思った。

 でも、俺の気遣いなんて先輩は軽く乗り越えて、倍以上の優しさを返してくる。

 俺がこの世からいなくなったとき、こんなに悲しんでくれる人がいるってことなのかもしれない。


「先輩、俺……」

「リョウくん」


 背中を擦る先輩指の動きが止まる。

 先輩が顔を上げて、俺の瞳を覗き込んでくる。

 先輩の瞳をこんなに間近で見る機会なんてなかったけど、そんな経験がない俺だってこれだけははっきり分かる。

 先輩の瞳は、いつだって物凄く綺麗に見えるってこと。


「先輩を支えられるように、そんな教師になれるように頑張ります」


 先輩を安心させてあげたいと思ってはいても、上手く言葉を運ぶことのできない自分を悔やむ。


「私も、先生に頼ってもらえるような生徒を目指す」


 そこでようやく先輩の体が俺から離れていくけど、そこで本当に離してしまって良かったのかとまた後悔した。


「先輩、昔からかっこつけすぎです」

「ふふっ、だって私は、リョウくんの先輩だから」


 小刻みだろうがなんだろうが、彼女の体が震えていたのは事実。

 ここは強引に腕を引いて、先輩が落ち着くまで抱き締めてあげたいと思うのに。

 一旦、離れてしまった距離を埋める勇気が俺にはなかった。


「あー、悔しいです!」

「え? 何が?」

「先輩は、異世界に転生しても先輩だってことです」


 情けない。

 せっかく教師って立場を手に入れたのに、結局は先輩に助けてもらう立場ってものになるらしい。

 一緒に世界を救いましょうねって言葉を言うことですら、調子の良い人を演じるってことに繋がりそうで俺にはできない。


「俺を助けてくれるのは、前世でも異世界でも先輩なんだなって」


 こんなことしか言えなくて、ごめんなさい。

 俺がこんな風にもたもたしている間に、先輩は魔法少女へと進化を遂げていくのかもしれない。

 あのとき先輩に魔法少女レッスンをしておけば良かったって、そんな後悔を抱く日が来るのかもしれない。

 今は先輩に対して何もできない俺だけど、これだけは絶対に伝えたい。


「俺が生きているのは、先輩が助けてくれたおかげです」

「……そんなこと言われたら、自惚れちゃうよ」


 再び、先輩の瞳が潤んでいるような気がする。

 先輩の不安を取り除いた世界を、いつかは作ってあげたいなって思う。


「リョウくん」

「はい?」

「順番が逆になっちゃったけど……」

「はい」


 こんなヘタレ後輩を、よく先輩は見放さないでないでくれたとあらためて思う。

 部活動だから? 毎年行われている後輩の指導だから、仕方なく?

 世の中探せば、もっとできる後輩はいたと思う。

 先輩ほどの立場だったら、指導する後輩を変えてくれって部長や顧問に頼むことはできたはず。

 それなのに、先輩はその選択肢を選ばなかった。


「世界を救うために、ご指導のほどよろしくお願いします」


 先輩に、いつもらしい優しい笑みが戻って来た。

 もう大丈夫だって思うと同時に、寂しさが湧き上がるのはどうしてなのか。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 尊敬していた先輩を真似るところから始まった、人に優しく計画。

 いつかは先輩の指導がなくても優秀な機材班として仕事ができるんだってところを見せつけるために、優しい人間であろうとしたけど数日も持たなかった。


「……あらためると、照れるね」

「照れないでください……こっちが恥ずかしくなっちゃいますから」


 結局、俺は先輩の優しさに絆されてしまうのかもしれない。

 先輩への復讐心から始まった異世界生活は、やっぱり前途多難なのかもしれない。

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