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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第9話「異世界魔法少女問題」

「この世界……」


 魔法を使用する際に、呪文が必要ないことに気づく。


「呪文がいらない……」


 魔法少女といえば、幼い女の子たちが真似したくなるような魅力的な呪文の数々が魅力のひとつ。

 それなのに、頭でイメージしたことが魔法で再現される世界設定に頭を悩ませることになった。


「いや、魔法初心者にとっては、ありがたい世界だけど!」


 その場に屈みこむ俺と、この場に反響する情けない感想文。


「魔法の杖問題に、衣装問題に、呪文問題……」


 先輩は大きな化け物烏と対峙しているのに、俺は異世界に備わっていない魔法少女設定に愕然とするだけなんて情けない。


(魔法少女の設定が備わってないなら、魔力に限界があっても可笑しくない……)


 俺たちが転生させられた物語を異世界転生と仮定するのなら、各々に魔力の限界値というものが設定されているはず。

 ただ、VRMMOでもない限り、自分たちの魔力の限界値を知る術はない。


(先輩が弱キャラなら、そろそろ……)


 遠目からでも、先輩の表情を確認すると体調が悪そうに見える。

 先輩の表情を伺う余裕があるのなら、戦いを早く終わらせるために時間を使うべきだと頭が働き出す。

 自分が抱えている想いすべて、敵と戦う力にぶつけてみたい。


「先輩っ!」


 俺が主人公って立場なら、確実に先輩の助けになるための方法を知っている。

 けど、主人公でもなんでもない俺はオタク知識を働かせるしかない。


「仲間ができるまで、二人で(しの)ぎましょう!」


 この真っ暗闇の中、何をどうすれば教室を見つけて帰ることができるのか。


「いきますよ!」

「呪文とか……」

「今まで呪文なしで戦えたので大丈夫です!」


 俺が抱いている疑問は何一つ解決されないまま、俺たちは大きな烏らしきものを撃退するための魔法を構築していく。


「よしっ」


 目が眩んでしまうほどの光に包まれた敵は、見事に錯乱状態に陥った。


「あ、こんな風に戦うんだ……」

「みたいです! 魔法は、妄想の力でなんとかなるみたいです!」


 魔法の使い方もよく分かっていない状況でも、頭の中のイメージを膨らませることで思い通りの魔法を発動させることができた。


「小さい頃に見た、魔法少女アニメを思い出して……」


 弱キャラクター呼ばわりしたことを、先輩に謝罪しなければいけなくなるような展開の到来。


「いきますっ」


 先輩は新入生に配布された魔法の杖を掲げて、勢いよく敵に振り下ろす。

 どんな魔法が発動するのか期待すると、ろうそくに灯した火のような小さな炎がゆらゆらと漂いながら敵へと向かっていく。


「先輩……」

「リョウくんの嘘つき……イメージした通りの魔法なんて、発動しない……」


 俺が使った魔法で視界を奪われた敵は、今も錯乱状態に陥っているらしい。

 けれど、先輩の放った小さな炎はあまりにも火力が弱すぎて、敵は自分の体に小さな炎が当たったことすら気づいていない。


「これが弱キャラ……」

「リョウくんが、魔法少女になればいいと思う……」

「俺に、魔法少女のような輝きはありませんから」


 魔法少女たちが力を合わせて敵を倒すような展開にも憧れていたけど、先輩の力が開花するのを待っていたら敵が体力を回復させてしまう。

 そんな危険を招くわけにはいかず、俺は魔法少女アニメで見たような煌びやかな光を杖から誕生させて敵へと投げ打った。


「魔法少女は、輝く力を持つ人だけの特権です」


 漆黒をまとった巨大な烏からは青白い光が溢れ出すけど、その光が俺たちに危機をもたらすことはない。

 むしろ、敵が放とうとしている力を利用して、相手に向かって跳ね返すという荒業を思いつく。

 敵を切り裂いた光が消滅すると同時に、愛を喰らう化け物も姿を消した。


「魔法少女を輝かせることができなくて、申し訳ございませんでした……」


 魔法少女を活躍させる場すら用意することができず、俺はマスコットキャラクターの分際で敵を見事に退けてしまった。

 次に瞼を上げた頃には敵と称していたもの自体が消失していて、俺たちは昼食を食べていた部屋へと戻ってきた。


「私たち、廊下にいたはず……」

「それも謎展開ですけど、魔法少女の力もなしに敵に勝利できたことへのがっかり感が半端ないです」

「それは、リョウくんが頑張ったからだよ」


 たった一回の瞬きをしただけで、世界は元通りの平和な場所に戻っているとか、どそういうからくりなのか。

 世界を夜だと錯覚させた、あの暗闇はどこへ消えてしまったのか。

 考えても考えても答えの出せない異世界設定に戸惑うけれど、敵を倒したことへの安堵の気持ちは戸惑いを大きく超えてくる。


「思ってたより、あっけないですね」

「死ぬよりはいいんじゃないかな」

「そうなんですけど……」


 人間の愛を喰らう化け物。

 血飛沫(ちしぶき)だらけの戦闘にならないのはありがたいけれど、こんなにもあっさりと事件が解決されては世界が大ピンチと聞かされても納得できない。


「この世界の人たちは、魔法を使うことができないとかですか?」

「でも、私たちが通ってるのは魔法学園だと思うけど」

「魔法の力を修得するために、魔法学園に通うのでは?」

「でも、この世界は積極的に戦おうとしない」


 女神様がくれた最低限の情報をだけを頼りに、俺たちは異世界生活を成立させなければいけない。

 あれやこれやと妄想を広げることはできるけど、その妄想に答えを返してくれる人は現れない。


「謎だらけなことを嘆いても、仕方がない」


 俺たちを異世界へと誘った女神様に、聞きたいことがたくさんある。

 疑問なんてもの用意しようと思えばいくらでも用意できるくらいの出来事が起こっていた。

 それなのに、先輩は今という時間を大切にできる人らしい。

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