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魔法少女とモブ(主人公)は、遅れすぎた青春を取り戻す!  作者: 海坂依里
第2章「魔法少女が転生した意味」
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第7話「私を、魔法少女にしてくれる?」

「美味しすぎて、感動してます」

「そんなに喜んでくれるなら、前世でも、お弁当作ってあげれば良かったね」

「そこまで贅沢できません!」


 俺の話し相手になってくれるだけでもありがたいのに、先輩の手作りお弁当まで甘えるわけにはいかない。

 そうは思うものの、先輩が差し出してくれる優しさが嬉しすぎて心が痛い。


(泣きそうになるくらい、美味い……)


 本当は、前世でも先輩の手作りご飯を食べてみたかった。

 正直に自分の気持ちを伝えられない自分にがっかりしつつ、話を広げないでくれた先輩に感謝の気持ちを抱く。


(いつかは、本音でぶつかっていけるようになるかな)


 そのとき先輩は、俺のことを受け止めてくれるのか。

 やっぱり、先輩に甘えたな面倒くさい後輩のままなのか。


「あの、ね」


 俺に真っすぐ視線を向けていたはずの先輩が、ほんの少し視線を逸らした。

 避けられているんじゃないかって感じるほど、距離が遠ざかったわけじゃない。

 でも、これから話しづらいことを話すんだっていう先輩の覚悟が伝わってきて、俺は息を吞んだ。


「……誰かに、ご飯を作るの初めてだったから……その、良かった。嬉しいなって」


 口の中に含んでいた食事に、むせてしまうところだった。

 けど、俺は頑張って口に含んでいた食事を飲み込んだ。


「やっぱり優しいね、リョウくんは」


 俺は、母親以外の手作り料理を初めて口にする。

 それを伝えたい。

 互いに初めての経験をしているんですよって伝えたい気持ちはあるのに、口は思うように動いてくれない。


(そんな恥ずかしいこと言えるか……)


 コミュニケーションに長けた人物を召喚して、ここはどうやりとりをする場面なのですかと尋ねたい。

 でも、それが不可能だって分かっているから、自分の物語は自分の手で作り上げるしかないと覚悟を決める。


「とりあえず、さっさと食べて作戦会議をしましょう……」


 まるで、作戦会議という言葉が扉を開くきっかけだったのかと思わざるを得ない。

 俺が作戦会議という言葉を口にした瞬間、俺たちが使用していた教室の扉が勢いよく開かれた。


「異世界に来て、初めての戦闘でしょうか」


 扉の向こうには薄暗い通路が広がっていて、さっきまで平穏に過ごしていた魔法学園の光景はどこへやら。

 扉の先を凝視してはみるものの、先から異形の何かが現れる気配はない。


「なんで、そんなにうれしそうなの……」

「うれしくはないです」


 先輩に指摘されて、表情の作り方が上手くできていないことに気づく。

 世界が平和でないことを喜べるほど、俺は落ちぶれていない。


「絶対に世界を救わなきゃっていう使命感? 高揚感に駆られています」


 席から立ち上がり、扉の向こう側の世界を確認しに向かう。

 部屋の入り口には、異世界語で俺の名前を示すプレートが掲げてある。

 そういう変化のない部分もあることに安堵したいものの、窓の存在すら確認できない通路から吹き込んでくる冷たい風が足を竦めるために動き出す。


「まるで別世界ですね……」

「敵がいるって、こういう感じ……?」

「前世は平和だったんだなってことを、思い知らされます」


 太陽の光があるかないかってだけで、瞳に入ってくる情報には雲泥の差がある。

 月明かりと星明かりを頼りに先へ進むような夜の暗さを連想させて、広がる暗闇に背筋がぞくっとなる。

 せめて廊下の明かりを付ければ恐怖が和らぐんじゃないかと思っても、そもそも廊下に設置されている照明器具の類も浮遊する炎の明かりも見つからない。


「先輩」

「うん」


 部屋の中だけは、拳をぎゅっと握り締める先輩の様子が確認できる。

 それだけの明るさが部屋に残っていて、ここはしばらく安全な場所だと願いたい。


「進む勇気がないなら、ここで待っていてください」


 俺は主人公ではなく、魔法少女を戦いに巻き込むマスコットキャラクター的ポジションへと変更。

 だから、確認する。

 先輩の意志を、尊重する。


「これは、俺が決めた異世界転生ですから」


 穏やかに昼食を食べていた部屋から、一歩だけ先へと進んで通路の踏み心地を確かめる。

 闇が広がる世界は泥のように歩きづらいということはなく、なんの困難もなく先へと進むことができそうだった。


「だから、先輩は……」


 たった独りで挑む戦いもいいかもしれない。

 先輩が待っている教室を振り向いて、そんな風にかっこつけてみる。

 すると、前世でかっこいいかっこいい先輩っぷりを発揮していた先輩が一歩踏み出す。


「私を、魔法少女にしてくれる?」


 そして、俺の隣へと並ぶ。


「魔法少女育成のレッスンですね!」

「レッスンは、ちょっと……」


 オタクに対して恐怖を抱いているような、そんな軽蔑的な眼差しを向けてくる先輩。

 自分が嫌われていることを再確認するけど、いちいちそこで怯むような俺ではない。

 もちろん前世では落ち込みまくったかもしれないけど、ここは異世界という新天地。

 落ち込むだけ、時間の無駄のような気がする。


「ちょっとした火を使うとか、水を使うとか、そういう魔法しか使えないけど……」

「多分、負けます。でも、弱キャラを補強するために、俺がいると思うので」


 これが女神様に与えられた異世界転生というものだとしたら、そこまで無理難題を吹っかけてくることはないと思う。

 俺たち二人がいるから、なんとかなるように世界ができていると信じたい。


「その言葉、すごくかっこいい」

「俺は異世界に、魔法少女文化をもたらすと決めたんです」


 部屋にいた頃は太陽が煌く昼間だったはずなのに、まるで夜を思い起こすような暗さってだけでも異常。

 更に異常ポイントを加えるなら、空気が重い。

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