第26話 (4/4)
まだ追われているため、大通りを避け、路地の影を縫うように進んだ。いくつか遠回りをした末、ついに目的の細い木骨造の建物の前に立った。予想通り、診療所の扉はすでに閉ざされていた。
リサレは何の躊躇もなく、鍵に手をかざし、そのまま溶かし始めた。
「ま、待って……今の……」園香は息を詰まらせながら言った。「それって……魔法……?」
「さあ?」リサレは軽く答え、パステルグリーンの扉を開いた。
この時間帯では、当然ながら診療所には誰もいなかった。
彼らは治療薬となる花を探し、全ての部屋をくまなく調べた。
ついでに、建物の一階にある編み物店と、最上階の美容院にも足を踏み入れた。
しかし、どこにもそれらしきものは見当たらない。
「……浅野先生、自宅に持ち帰ったのかも。」園香が結論を出す。
「で、どこに住んでるの?」リサレが腕を組み、指で軽く叩きながら聞いた。
「知らない。」
「じゃあ、待つしかないな。」フレームが言う。「朝になれば、先生が来るだろ。」
他に手段もなかったため、二人もその提案に同意し、待合室の椅子に腰を下ろした。
互いにネズの木の椅子に腰掛けながら、フレームはブラックウォーターの娘を観察した。
彼女の貴族の血筋は、一目で分かるものだった。
整った身なりに、滑らかで艶のある濃紺の髪。
清潔で傷一つない肌。
クリスタルブロッサムが施された金の腕輪は、肩に掛けられた絹のショールと同じくらい高価に見えた。
ただ、一つだけ違和感があった。
彼女が身につけていたコルセット――それだけは、どこにでもあるありふれた品だった。
「……どうして家族を裏切った?」
「いい質問ね。」園香は淡々と答えた。「たぶん――自分だけが生きていることに、耐えられなくなったから。」
その言葉が、フレームの胸に突き刺さる。
その感情は、痛いほどよく分かる。
彼は母のことを思い出した。
スノーのことを。
あの人魚を。
ゴドを。
ラヴァットを。
そして、自分が生き延びてしまったすべての人々を――
「……どうやって、治療薬の存在を知った?」
フレームはリサレの方を見やる。
彼女がどこまで話すつもりなのかを、読み取ろうとした。
しかし、彼女は小さく首を振る。
「お前を信用できるかどうか、まだ分からない。」フレームはそう告げた。「スタージスじゃないとしても、ブラックウォーターならば、それに近い立場にいるはずだ。」
「分かってるわ。」園香は静かに応じた。「だったら――私の知っていることを、すべて話す。治療薬について、私が知っているすべてを。」彼女の瞳に、影が落ちる。「……もし私が家族に捕まれば、また幽閉され、何もできなくなる。だから、少しでも多くの人に、この薬を託したいの。病に苦しむ人々のために、あなたたちができる限りのことをしてくれると――信じていいかしら?」
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園香が語り終えると、フレームとリサレは呆然と彼女を見つめた。
「治療薬が、ずっと目の前にあったなんて!」リサレは悔しそうに声を上げた。「ごめん、フレーム。私、なんて馬鹿だったの……。」
「俺だって、もっとよく考えれば気づけたかもしれない。お前のせいじゃない。」
「違う、私のせいよ。もしあのイエティを燃やしていなければ……そしたら……」
「……それでも、結果は変わらなかっただろう。」フレームは静かに言った。「園香のおかげで、まだ地上の花が残っている。浅野先生さえ来れば、治療薬は手に入る。」
彼はブラックウォーターの少女に向き直った。「お前の尽力に感謝する。お前の友達――オミオの死を無駄にはしない。」
園香は虚ろな目で床を見つめた。「……ありがとう。」
フレームは膝に肘をつきながら、ふと問いかけた。「ただ、一つだけ聞きたいことがある。お前……さっき言ってたな。ドラゴンの声が聞こえたって……それは、どういう意味だ?」