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第26話 (3/4)

 

 現在

 


 園香は、自分の中でかつての温かな感情を冷えさせたいという願いが芽生えているのを感じた。

 もう、この熱い痛みを感じたくなかった。

 オミオ、佐琳、この街の人々――

 彼らの記憶が、心の奥で燃え続けていた。

 もう何も感じたくない。心の炎を消してしまいたい。

 その瞬間、園香の全身が冷え切った。

 ――銃弾が、太腿に命中した。

 しかし、それは貫通することなく、弾かれた。

 ――え?

 目を見開き、撃たれたはずの場所を見下ろす。

 そこにあるべき傷が、ない。

 その間に、猟師が電流を発動させた。

 そこで初めて、園香は気がついた。フレームが、敵の兵士にエンターフックを命中させていたことを。

 ~バチバチバチッ――!~

 強烈な電撃が兵士を襲い、彼は意識を失って崩れ落ちた。

 猟師が、心配そうに彼女を覗き込む。「園香? 大丈夫か? やられたか?」

 園香はゆっくりと、撃たれた部分を確かめた。

 ズボンには、小さな弾痕だけがぽっかりと空いていた。

 だが――

 そこから血も膿も、何も滲んでいなかった。

「……え? いや……大丈夫……」

「なら、さっさと行くわよ。」同行者の女性が手を振り、彼らを先へと促す。

 彼女の白い三つ編みが背中で揺れた。

 園香はそれ以上、言葉を交わす暇もなかった。

 とにかく、走るしかない。

 全速力で、新たな仲間たちの後を追った。

 息が切れ、肺が焼けるような痛みを訴えても――

 それでも、走り続けた。

 彼らは、何層にも重なる階層を下り続け――

 ついに、活気に満ちた商店街へとたどり着いた。

 人々の流れに紛れ、追手の姿は完全に消えた。

 園香は、息を整えながらマフラーを顔に巻いた。

 口元を隠すために。

 だが――

 息がますます苦しくなるだけだった。

「……ちょっと、一旦休ませて……」彼女は、肩で息をしながら懇願した。

「なら、あっちの裏通りで隠れるぞ。」猟師が顎をしゃくり、裏道を示した。

 彼の先導で、彼らは入り組んだ路地を抜け、一軒の酒場へと入る。

 それは、メインストリートから少し外れた場所にあったが――

 店内は、思いのほか賑やかだった。

 人々はグラスを掲げ、鐘の花を頬張りながら談笑している。

 笑い声が響き、軽口が飛び交い、様々な話題が飛び交っていた。

 誰も、こちらに注意を払わない。

 ――ここなら、少しは休めそうだ。

 彼らは空いている席に腰を下ろした。給仕がメニューを持ってきた際、彼は何度か猟師の方をちらりと見た。「あなた、もしかしてドラゴン討伐者じゃありませんか?」

 猟師は微笑んだ。「それは人違いでしょう。」

 給仕はそれ以上何も聞かず、代わりに飲み物の注文を取り、厨房へと戻っていった。

 園香は信じられないように猟師を見つめた。「あなたがドラゴン討伐者なのね!あなたって……」

「シッ!」フレームが唇に指を当てた。

 彼の同行者は落ち着かない様子でテーブルを指先で軽く叩いていた。「時間がない。治療薬はどこにあるの?」

「医者の診療所に届けた。そこから病人たちに分け与えてもらうようにしている。そこに行けば、お前も治療できる。」園香はフレームを見つめた。「私もスタージスたちのやり方には賛成できない。だからこそ、今日あそこに行ったの。」

 白髪の女性は苛立たしげに窓の外を見た。フェニックスの太陽は沈みかけ、街を暗闇が包み始めていた。「その診療所はどこ?」

「遠くないわ。ただ……」園香は、あの頑固な木骨造の建物のパステルグリーンに塗られた扉にかかっていた営業時間の看板を思い出した。「……今日はもう閉まってるはず。明日の朝、行くのがいいと思うわ。」

「ダメよ。もう時間がない。」

 彼女の視線が、フレームの額へと向けられた。


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