第22話 (2/2)
刈りたての草の香りが鼻をくすぐった。
通路の壁には昼光灯が並んでいたが、この緑の洞窟を支配するのは、やはり屋敷専用のフェニックスの太陽だった。
殺風景な天井からまばゆい光が降り注ぎ、短く刈り揃えられた芝生を照らしている。
広大な敷地はすでに刈り取られ、乾燥した草の山があちこちに積み上げられていた。
残された花々は、わずかばかりだった。
リサレは不満げな顔をした。
「どうした?」フレームが尋ねる。
「見当たらない。」
彼女は桜花の木陰から芝生の上へと踏み出した。「治療花が、どこにもない。」
フレームも後を追い、白い花の一つに手を伸ばした。「これじゃないのか?」
「違う。ほぼ透明で、百本ほどの星糸でできているの。」
「そんな花、聞いたこともない。」
フレームは白いロゼットの形をした花を見つめた。
どこかで見たことがある気がする――
~ビー!ビー!ビー!~
突如、警報が鳴り響いた。
二人は反射的に顔を上げる。
その瞬間、二人の警備員が駆け寄ってきた。
逃げるしかない。
フレームとリサレは踵を返し――目の前に、巨大な影が落ちた。
三メートルはある雪男。
背後から忍び寄ってきたのか。
本能的に、フレームはその目を見上げながら問いかけた。「お前の名前は?」
リサレが眉をひそめる。「そんな無駄なこと聞いてる場合?」
彼女もすぐに雪男へと向き直り、必死に訴えた。「お願い、私たちを逃がして! 私たちは病気を治すために来ただけなの!」
フレームは驚いた。
またしてもリサレに意表を突かれる。
「お前……モンスターの声も聞こえるのか?」
リサレは混乱した表情で彼を見つめる。「……は?」
しかし、雪男は怒りに満ちた声で咆哮した。
「貴様らなど、助けるものか!」
そのまま拳を振り上げる。
フレームとリサレは即座に飛び退いた。
警備員たちが追いついた。これで敵は三人。
見張りの男たちは武器を構えた。レールガン――電磁加速式の拳銃。
たった一発で、即死する。
フレームはサンダーガンを引き抜き、電圧を下げた。
一度に二人を無力化できれば――
その瞬間、雪男がリサレを抱え上げた。
「ダメだ!!」
フレームは慌てて銃口を向け、標的を変えた。
だが、引き金を引く前に、雪男の体から煙が立ち上った。
彼は耳をつんざくような悲鳴をあげ、リサレを放した。
燃えていた。
毛皮に火がついたのだ。
雪男は身を投げ出し、炎を消そうと地面を転がる。
しかし――
彼が転がった先は、乾燥した刈草の山の上。
次の瞬間、火は一気に広がり、シュートへの道を塞いだ。
もはや、正面から脱出するしかない。
その考えは、敵側も同じだった。
男たちは戦闘を中断し、刈り取られた草原を越え、洞窟の反対側へと駆け出した。
フレームは悪態をつきたかったが、そんな暇はない。
リサレが彼の手をつかみ、勢いよく走り出した。
「もっと速く走って!」リサレが叫んだ。「先に外に出られたら、ここを封鎖される!」
フレームも同じ不安を抱えていた。さらにスピードを上げる。
しかし、どれだけ走っても、すでに差は開いていた。
予想通り、警備員たちと雪男は先に梯子を登り、外側からハッチを閉めてしまった。
フレームは必死に別の出口を探したが、どこにも見当たらない……
その間にも炎が迫る。
煙が洞窟の天井まで充満し、いずれ息ができなくなる。
リサレはハッチの蝶番に両手を当てた。
しばらくすると、金属が煙を上げ始める。
「離れて。」
警告と同時に、熱された金属の塊が地面に落ちた。
フレームは目を見張る。
ハッチ全体が、まるでフライパンの上の氷のように溶けていく。
「触らないように気をつけて。」
リサレは外に這い出し、手を差し出した。
フレームは彼女に触れるのを避け、自力で外へと登った。
気がつけば、再び庭にいた。
だが、ここは電気柵のドーム内だった。
脱出するには、屋敷を突っ切るしかない。