表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/218

第22話 (2/2)

 

 刈りたての草の香りが鼻をくすぐった。

 通路の壁には昼光灯が並んでいたが、この緑の洞窟を支配するのは、やはり屋敷専用のフェニックスの太陽だった。

 殺風景な天井からまばゆい光が降り注ぎ、短く刈り揃えられた芝生を照らしている。

 広大な敷地はすでに刈り取られ、乾燥した草の山があちこちに積み上げられていた。

 残された花々は、わずかばかりだった。

 リサレは不満げな顔をした。

「どうした?」フレームが尋ねる。

「見当たらない。」

 彼女は桜花の木陰から芝生の上へと踏み出した。「治療花が、どこにもない。」

 フレームも後を追い、白い花の一つに手を伸ばした。「これじゃないのか?」

「違う。ほぼ透明で、百本ほどの星糸でできているの。」

「そんな花、聞いたこともない。」

 フレームは白いロゼットの形をした花を見つめた。

 どこかで見たことがある気がする――

 ~ビー!ビー!ビー!~

 突如、警報が鳴り響いた。

 二人は反射的に顔を上げる。

 その瞬間、二人の警備員が駆け寄ってきた。

 逃げるしかない。

 フレームとリサレは踵を返し――目の前に、巨大な影が落ちた。

 三メートルはある雪男。

 背後から忍び寄ってきたのか。

 本能的に、フレームはその目を見上げながら問いかけた。「お前の名前は?」

 リサレが眉をひそめる。「そんな無駄なこと聞いてる場合?」

 彼女もすぐに雪男へと向き直り、必死に訴えた。「お願い、私たちを逃がして! 私たちは病気を治すために来ただけなの!」

 フレームは驚いた。

 またしてもリサレに意表を突かれる。

「お前……モンスターの声も聞こえるのか?」

 リサレは混乱した表情で彼を見つめる。「……は?」

 しかし、雪男は怒りに満ちた声で咆哮した。

「貴様らなど、助けるものか!」

 そのまま拳を振り上げる。

 フレームとリサレは即座に飛び退いた。

 警備員たちが追いついた。これで敵は三人。

 見張りの男たちは武器を構えた。レールガン――電磁加速式の拳銃。

 たった一発で、即死する。

 フレームはサンダーガンを引き抜き、電圧を下げた。

 一度に二人を無力化できれば――

 その瞬間、雪男がリサレを抱え上げた。

「ダメだ!!」

 フレームは慌てて銃口を向け、標的を変えた。

 だが、引き金を引く前に、雪男の体から煙が立ち上った。

 彼は耳をつんざくような悲鳴をあげ、リサレを放した。

 燃えていた。

 毛皮に火がついたのだ。

 雪男は身を投げ出し、炎を消そうと地面を転がる。

 しかし――

 彼が転がった先は、乾燥した刈草の山の上。

 次の瞬間、火は一気に広がり、シュートへの道を塞いだ。

 もはや、正面から脱出するしかない。

 その考えは、敵側も同じだった。

 男たちは戦闘を中断し、刈り取られた草原を越え、洞窟の反対側へと駆け出した。

 フレームは悪態をつきたかったが、そんな暇はない。

 リサレが彼の手をつかみ、勢いよく走り出した。

「もっと速く走って!」リサレが叫んだ。「先に外に出られたら、ここを封鎖される!」

 フレームも同じ不安を抱えていた。さらにスピードを上げる。

 しかし、どれだけ走っても、すでに差は開いていた。

 予想通り、警備員たちと雪男は先に梯子を登り、外側からハッチを閉めてしまった。

 フレームは必死に別の出口を探したが、どこにも見当たらない……

 その間にも炎が迫る。

 煙が洞窟の天井まで充満し、いずれ息ができなくなる。

 リサレはハッチの蝶番に両手を当てた。

 しばらくすると、金属が煙を上げ始める。

「離れて。」

 警告と同時に、熱された金属の塊が地面に落ちた。

 フレームは目を見張る。

 ハッチ全体が、まるでフライパンの上の氷のように溶けていく。

「触らないように気をつけて。」

 リサレは外に這い出し、手を差し出した。

 フレームは彼女に触れるのを避け、自力で外へと登った。

 気がつけば、再び庭にいた。

 だが、ここは電気柵のドーム内だった。

 脱出するには、屋敷を突っ切るしかない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ