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第22話 (1/2)

 

 ドームは圧巻だった。

 まるでスノードームのように、城をすっぽりと包み込んでいる。

 だが、その膨らんだ電気柵の内側で降るものがあるとすれば、それは誰かが鋼線に触れた瞬間に散る火花だけだった。

 どの方向からも、フレームが密かに侵入することは不可能だった。

 流れる電流に触れずに済む方法はない。

 唯一の出入り口は正門であり、当然ながらスタージス家の関係者以外立ち入り禁止だった。

 フレームは通りを行ったり来たりしながら、突破口を探したが、答えは見つからなかった。

 そのとき――

 通りすがりの誰かが、彼にぶつかってきた。

 その人物も、フードを被っていた。

 ――見覚えのあるフードだった。

「……何してる?」

 フレームの視線が、編み込まれた緩い髪から、革のチュニック、擦り切れたマント、そしてブーツのつま先へと滑る。

「お前、ベッドで寝ているはずだろ。」

 リサレは無表情のまま答えた。「平気。」

「お前、竜の炎をまともに浴びたんだぞ。」

「だから?」

「お前……」

 フレームは目を逸らした。「普通なら死んでるはずだ。」

「でも、死んでない。」

 リサレは腕を背中で組み、「……ほら、ついてきて。」

「親父がどうやってここに入ったか、教えてやる。」

 フレームは微動だにしなかった。「どうやったんだ? あの炎を耐え抜いたのは?」

 リサレは髪の束を耳の後ろへとかき上げた。「正直、私にもよく分からない。でも……」

 彼女は一歩踏み出し、そっと手を伸ばしてフレームの頬に触れた。

 フレームは一瞬戸惑い、頬が熱くなるのを感じた。だが、それは自分が赤くなったからではない。

 リサレの手が、どんどん温かくなっていく。いや、むしろ熱くなっていた。

 痛みを感じる直前で、彼女は手を引いた。「……こういうことができる。これのおかげで、森の寒さにも耐えられた。」

 そうか。確かに、普通の人間なら闇の森で一夜を過ごすなんて不可能だった。

 あの冷え込みは、表層で眠るのと同じくらい危険だ。

 それなのに、リサレは三年間も生き延びた。

 こんな力、聞いたことがない。

 驚愕しながら、フレームは彼女を見つめた。「お前……熱くなるのか?」

 まるで当たり前のことのように、リサレは淡々と答えた。「そう。」

 彼を追い越しながら、手招きする。「それより、もう行くよ? あまり時間がない……」

 そう言いながら、彼女は自分の額に指を当てた。

 フレームはふと問いかけた。「まだ俺の知らないことがあるか?」

 リサレは一瞬瞬きをし、「靴のサイズは26センチ。」

 フレームはため息をつき、彼女の後を追った。

 しかし、意外なことに、リサレは城の方ではなく、九十九折れへと向かっていた。

 二人は階段を降り、居住区を通り抜け、ある場所で足を止めた。

 それは、今は使われていない廃工場だった。

 ちょうど、スタージス家の屋敷が建つ丘の真下に位置している。

 二人は柵を乗り越え、工場の建物を抜けて裏庭へと忍び込んだ。リサレは茂みの枝をかき分け、木々の間をすり抜けながらクレーターの岩壁へと進んだ。

 草むらに隠れるようにして、岩肌にぴったりと張り付いた板があった。

 リサレがそれを持ち上げ、フレームも手伝って脇へとずらすと、隠された通路が姿を現した。

 それほど大きくはないが、身をかがめれば通れる高さだった。

「お前の親父は、どうしてこれを知っていた?」

「父の友人だった工場の従業員が教えてくれた。でも、その後すぐに姿を消した……」

「スタージス家は、どうして治療薬を隠し続けるんだ?」

「金の亡者だからよ。」リサレは即答した。「人々の無力さを利用して、効果のない薬を関連会社で売りつけ、大儲けしてる。」怒りに満ちた表情が、彼女の顔を歪めた。

 フレームは完全に納得したわけではなかったが、彼女の感情の昂ぶりを感じ取り、反論はしなかった。

 公式には、この病を治す薬は存在しないことになっている。そして当然のように、怪しげな商人たちが偽の妙薬を売りつけている。

 だが、火山の中に住む者なら誰でも、それがまったく効果のない詐欺商品であることを知っていた。

 フレームが考える限り、スタージス家が本当に金儲けを目的とするなら、むしろ本物の治療薬を高値で売るほうが合理的だった。

 テロンなら、エノリアを救うためにどんな額でも払っただろう。

 そして、彼のような人間は決して少なくないはずだ。

 理由が何であれ、命を救う薬を独占することに正当な理由などない。

 もし富裕層がそれを市民と分かち合っていれば、どれほど多くの人々が生き延びられたことか。

 エノリアも、ゴドも、リサレの両親も……

 フレームは、盗みが悪であることは理解していた。しかし、この場合、盗まないことのほうがはるかに罪深いと感じた。

 時間がない。

 彼は、自分の髪の下で、角が少しずつ成長し、もみあげの隙間を押し広げているのを感じた。

 服の下では、肌が銀色の糸のように裂けていく。

 病の進行は止まらない。

 残された時間は、もうわずかだった。

 彼はフードを下ろし、帽子を深く被った。

 黒い布が、悪魔の刻印を好奇の目から隠してくれるように。

「着いた。」

 通路の突き当たりには、一枚のハッチが隠されていた。

 二人はそれを開け、身を屈めながら通風口のような狭い空間へと這い進んだ。

 四つん這いのまま、長方形のトンネルを進む。

 やがて、鉄格子が道を塞いでいた。

 格子の隙間から覗き込むと、そこには庭園が広がっていた。

 ――まるで別世界だった。

 そこには、フェニックスの太陽の複製があり、洞窟全体を照らしていた。

 その光を受けて、花畑が生き生きと輝いている。

 フレームは鉄格子を揺らした。

 しかし、びくともしない。

 開ける方法を考えていると、リサレが無言で格子の四隅に手を添えた。

 ジジッと音が鳴り、白い煙が立ち上る。

 金属が溶け、じわじわと崩れ落ちた。

 バタン。

 鉄格子は外れ、道が開かれた。

 フレームは思わず目を丸くした。「……お前、本当に熱いんだな……」

「今は急ぐよ!」

 そう言いながら、リサレは躊躇なくシュートから飛び降りた。

 ――スタージス家の秘密の庭へと。


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