第21話 (4/4)
フレームは裁判所の中庭を出た瞬間、その惨状の規模を痛感した。
彼はテラス通りの端まで歩き、手を欄干に添えた。
この高台からは、街全体を見渡すことができる。
大部分の区画は襲撃を免れたが、戦闘が繰り広げられた地域だけは、破壊の爪痕が支配していた。
あの一帯は、すべて一から作り直すしかない。
フレームの喉が詰まった。
――この火山の中は、人間が暮らすには狭すぎる。
今回の惨劇が、それを思い知らせた。
もし再び同じことが起これば、人々は逃げ場を失うだろう。
地表には、冷たい死が待ち構えている。
火山の奥深くには、灼熱のマグマが渦巻いている。
たった一匹の竜が、それだけで人類を滅ぼし得るのだ。
アトラスのような竜。
スノーのような竜。
たった一つの卵。
たった一枚のパンケーキ。
「おい!」突然、声をかけられた。
「お前、フレームじゃないか? 竜を手懐けたっていう!」
振り向くと、見知らぬ男が立っていた。
「えっと……違うと思うけど。」
「いや、そっくりだぞ! さっき裁判所で見た!」
フレームは、なぜティタニアが正体を隠せと言ったのかを理解した。
「すまない、人違いだよ。」そう言って、フードを目深に被り、顔を影に隠した。
男は腰に手を当て、残念そうにため息をつく。「ったく、あいつはすげぇよな! 竜が命令に従うんだってな!」
フレームの指が、無意識に拳を作る。「……もしかしたら、命令じゃなくて、ただお願いしてるだけかもな。」それだけ言い残し、彼は男を背にして繋留所へと向かった。
フレームが自分の狩猟竜に近づくと、23が声をかけた。「で? どうだった?」
彼は判決の内容を説明した。
すると、狩猟竜はため息をついた。「……それは、残念だったな。」
「俺もそう思うよ。」フレームは袖を引っ張った。布が腕の粘つく糸に擦れて、不快な感触を残す。
「昨日、リサレをどこへ運んだ?」
「今はスピタルで寝ている。」23が答える。「連れて行こうか?」
「いや。」フレームの視線はクレーターの底へと落ちた。
そこには、無数の花々が、亡骸の灰から芽吹いていた。
「俺は城へ行く。やらなきゃいけないことがある。」
23はその視線の先を追った。「……悪い知らせがある。」
フレームは口を開き、鋭く息を吸い込む。
もう分かっていた。
頭ではなく、胸の奥で。
体の奥にあった曖昧な緊張が、確信へと変わる。
23が続けた。「彼は助からなかった。ラヴァットは火葬場で、もう……」
フレームは狩猟竜の体に腕をつき、頭をうずめるようにして支えた。
膝をつかないように、必死で踏ん張る。
しばらくの間、23は何も言わなかった。
やがて、フレームはゆっくりと身を起こし、袖で顔を拭う。
震える声で尋ねた。「……他には?」
「いない。」23はすぐに答えた。「チームの他の仲間たちは、みんな無事だ。」
フレームは深く息を吐いた。
「追悼式はもう終わった。お前、間に合わなかったな。でも、どうせ移動するんだ、記念碑に寄るくらいの時間はある。」
「……そうしよう。」フレームは静かに言い、鞍にまたがった。
途中、花屋に立ち寄り、一輪の花を買ってから、二人はリングを旋回しながら螺旋状のルートを降下していった。
墓地の鉄細工の門の前で、フレームは狩猟竜を待たせ、一輪の花を手に静かに歩き出す。
墓標の間を抜け、やがて彼は石造りのモノリスの前で足を止めた。
――モンスター猟師の慰霊碑。
この記念碑はクレーターの縁にそびえ、その上には数階層上に広がる要塞の影が落ちている。
まるで守護神のように、岩の突端がこの墓を包み込んでいた。
滑らかな石の表面には、無数の名前が刻まれている。
それぞれが、一つの犠牲を示していた。
風に乗って、通気装置の気流にたなびく旗がはためく。
それを支える旗竿は、クレーターの岩肌から鋭く突き出し、こう叫んでいるようだった。
~猟師は、命を無駄にしない!~
……だが、時に命は猟師を無駄にする。
フレームの視線が、新たに刻まれた名をなぞる。
――ラヴァット・ゴールドマン
思わず、指先がその彫刻をなぞる。
「……少なくとも、お前は星を見ることができたな。」彼はそう囁き、祈りを捧げると、ジャスミンの花を他の花輪のそばにそっと置いた。
~神々よ、彼を迎え入れてくれ。~
涙を枯らしきった目で、彼は墓地を後にした。
23の首を軽く叩き、再び鞍に飛び乗る。
狩猟竜の背に乗ったまま、フレームはスタージス家の屋敷を目指し飛び立った。