第21話 (2/4)
「これより、裁判を開始する。」
群衆は三人の裁判官に一礼し、席についた。
一人は老齢、一人は肥満体、もう一人は小柄だった。
フレームは静かに廷内を見渡した。
一方の側には、筆記官、法廷画家、そしてスキャンダルを求めるジャーナリストの群れが木製のベンチに陣取っている。
もう一方には、市長、大統領、そしてニューシティを支配する四大貴族家の代表者たちが並んでいた。
彼らは、議会と共に政府を構成する最重要人物たちだった。
ニューシティで発言権を持つ者は、全員この場に集まっていた。
そして、市長の隣には――
整えられた髪が仄かに桃色に輝くその隣に、リサレの両親を葬った男が座っていた。
ドクター・ピーター・スタージス、その人だった。
フレームにとっては、新聞記事以外で初めて目にする人物だった。
丸い眼鏡をかけ、穏やかな微笑みを浮かべた男。見る限り、優しげな印象を与える。
病の治療薬を守るためなら、どんな非道も厭わぬ男には到底見えなかった。
だが、人の本質は行動にあり、見た目に表れるとは限らない。
それは、裁判官たちも十分に理解していた。
「被告人は、氷竜に対し、市街襲撃の命令を下した罪に問われる。」小柄な裁判官が起訴状を読み上げる。
「貴様自身が証言した通り、あのモンスターはお前の命令に従うのだろう?よって、国家への重大な反逆行為とみなし、その刑罰は――死刑とする。」 裁判官の声が、厳かに響き渡る。「フレーム・ゴスターよ。貴様は、この罪を認めるか?」
その瞬間、フレームの隣に座っていた弁護士が勢いよく立ち上がった。
ミスター・ピッツバーグ。
高級なツイードジャケットを身にまとい、完璧に剃り上げられた顔。
そして、強烈に香る法外に高価なシェービングローションの匂い。
彼の父がこの弁護士を雇ったのだ。
フレームは確信していた。テロンが守ろうとしたのは、自分ではなくゴスターの名誉だった。
~強く、冷静で、そして巧妙であれ。~
それが、ゴスターという名の意味であると、テロンは何度も彼に叩き込んできた。
「無罪を主張します!」ミスター・ピッツバーグは、人差し指を振り回しながら声を張り上げた。
「検察側の主張は、時間の経過という要素を考慮していない!氷竜がゴスター・ジュニアの命令に従うようになったのは、彼が竜を打ち倒した後の話だ!彼がモンスターを服従させる力を得たのは、あくまで敗北した竜に慈悲を与えた結果にすぎない!元々、私の依頼人はモンスター猟師として当然の義務を果たし、この怪物を討伐するつもりだったのです!」
「ならば、なぜ最初から殺さなかったのだ!」肥満体の裁判官が怒鳴った。「もし最初から規則通りに怪物を処理していれば、こんな裁判は必要なかったのだ!これは命令違反にほかならん!」 彼は苛立った様子で、証言台へと手を振った。「――将軍閣下! 貴殿はどう思われる?」
すべての視線がグラハム・パブロン将軍に集まる中、彼は前に進み出た。その顔は赤らんでいた。まるで、涙を流した直後のように。頬の紅潮が、彼の傷跡の恐ろしさを和らげ、どこか脆さすら感じさせた。しかし、それでもなお、彼の声は鞭のように鋭く法廷内に響き渡る。
「猟師は、時間を無駄にしない。猟師は、獲物を無駄にしない。猟師は、命を無駄にしない。これが、我々モンスター猟師に課せられた基本理念である。フレーム・ゴスターは、このすべてを破った。奴は、氷竜を殺すべきだった。迷うべきではなかった。……この氷竜は、私の息子の命を奪ったのだ。それなのに、怪物はまだ生きている。そしてオミオはもういない。……だが。」将軍は静かに言葉を切った。「私はゴスター・ジュニアが意図的にこの怪物を我々に差し向けたとは思っていない。モンスターとは、元来獰猛で、危険で、邪悪なものだ。奴らは命じられるまでもなく、人を襲う。そういう生き物なのだ。」
彼の生きた方の目は観衆の中を鋭く見渡した。その視線の先にはテロン・ゴスターがいた。しかし、その一方で、彼の義眼は微動だにせず、まっすぐフレームを見据えていた。
「さらに言えば、フレームは由緒正しき猟師の家系の出だ。そのような血筋を持つ者が、街を焼き払うことで何か得をするとは思えん。」
「ご証言、ありがとうございました。将軍、席へお戻りください。」年老いた裁判官が言った。
「だが、たとえ被告が猟師の家系であろうと――人間の出自が、無罪や道徳的正しさの保証となるわけではない。では、フレーム・ゴスターが社会にとって危険な存在ではないと、どうすれば確信できる?」
テロンが立ち上がり、発言しようとした。しかし、年老いた裁判官は手を差し出し、それを制した。そして、自ら話を続ける。
「ゴスター大佐から聞けるのは、息子に対する賛辞ばかりでしょう。それは十分承知しています。だからこそ、私は彼の訓練期間中に直接関わった者の意見を聞きたい。サージェント・テスロ、証言をお願いします。」
指名されたテスロが前へ進み、一つ咳払いをする。
「は、はんっ。フレーム・ゴスターは、そうだな……まるでサプライズ・エッグだった。訓練生時代の成績は、常に最下位。怠慢、鈍重、無能、そして野心など欠片もなし。だが、卒業後は意外にも優秀な猟師となった。……私の見解では、彼の資質は、まさしく父親の教育の賜物だ。」
テスロは横目でテロンを見ると、唾を吐く仕草をしながら話を続けた。
「私の意見を言わせてもらうなら――ゴスターの坊やは、相当ヤバい。どんなモンスターも、彼の前ではひれ伏して命乞いをすることだろう。まるで、かつての父親にそうしたようにな。だが、息子には決定的に足りないものがある。それは……闘志と野心だ。氷竜が生き延びるために必死に媚びているのも、そこまで驚くことじゃない。私は、これまでの狩猟経験で何度も見てきた。モンスターは馬鹿だ。だが、そこまで馬鹿ではない。相手の決意が揺らいでいると悟れば、そこにつけ込もうとするものだ。」
群衆の間に、ざわめきが広がった。
年老いた裁判官が槌を鳴らし、法廷内の静寂を促した。「ご協力、感謝します。あなたも席について結構です。」彼の視線はフレームに向けられた。「今回の襲撃で、数百人が命を落とし、千人以上が重傷を負った。犠牲者の数は、かつてのバーニングマン惨劇に匹敵する。弱いこと自体は罪ではない。だが、殺人者を裁かないのは、それこそ正義の冒涜だ。」
彼は再び槌を打ち鳴らした。「よって、ここに被告人を無罪とし、氷竜に対し死刑を宣告する。そして、その執行人は――この竜を打ち倒した者だ。フレーム・ゴスター、あなたです。私たちと同じ側の人間であることを、証明しなさい。」
フレームは勢いよく立ち上がった。「でも……」
ミスター・ピッツバーグがすぐに彼を椅子へ押し戻そうとする。「拒めば、お前の忠誠心を疑われるぞ!」
フレームは歯を食いしばり、息を鋭く吐いた。
――ピッツバーグの言う通りだ。
彼は、無言のまま椅子に沈んだ。
「死刑執行の監督はキャプテン・ティタニア・パブロンに委ねる。」裁判官はティタニアへと頷く。「彼女に、フレーム・ゴスターと氷竜の監視および責任を一任する。」