第20話 (2/2)
現在
火炎の奔流が途切れた。残されたのは、立ち込める煙。やがて、それもゆっくりと消えていく。
フレームは涙を滲ませながら霧の向こうを凝視した。
やがて、薄れていく煙の中から、ぼんやりとした影が現れる。
そのシルエットは――
まっすぐ立っていた。
霧が完全に晴れ、姿がはっきりと見えた。
リサレだった。
ただ立っているだけではない。
――彼女は無傷だった。
唯一、白いマントの布が焦げているだけで。
「ど……どうして……?」フレームは震える声で言った。
目を見開き、彼女を見つめる。
理解しようとするが、理屈が追いつかない。
何が起こった?
なぜ彼女は……?
「フレーム、大丈夫? 早く、武器を!」リサレが叫ぶ。
フレームは我に返った。
すぐに身を起こし、サンダーガンを引き抜く。
そして、躊躇なく氷竜の眼に狙いを定めて引き金を引いた。
電撃が炸裂し、鋭い爪のような衝撃が竜の虹彩を切り裂く。
「……勝ったな、人間よ。」氷竜は低く唸るように言った。「さあ、殺せ。」
フレームは周囲を見渡した。
目に映るのは、破壊の跡ばかり。
焼け落ちた建物、瓦礫の山、燃え盛る炎。
どこもかしこも救助隊が駆け回り、火を消し、生存者を探している。
リサレは疲れ果て、その場に膝をついた。
そして、フレームの足元に身を横たえた。
フレームは唾を飲み込んだ。
「……さあ、電撃を流せ。」氷竜が迫るように言う。「殺せ! 何をぐずぐずしている?」
フレームはフックを外した。
氷竜の眼は無残に損傷していた。止まらない血が、白い眼球を真紅に染めていく。
「お前を殺しはしない。」フレームはそう言い、武器をしまうと、リサレの胸元に手を当て、鼓動を確かめた。
――生きている。
「たとえ、お前のことが大嫌いでもな。」彼は氷竜を見上げた。
「……なぜだ?」氷竜が問いかける。
「俺はもう、誰も殺したくない。」フレームはリサレを抱え上げた。「猟師たちが来る。」彼は竜の背後を見やる。
空には、数え切れないほどの狩猟竜の編隊が迫っていた。
「俺の言うことを聞けば、お前は殺されずに済む。」
氷竜は残った片目を閉じ、静かに地面に身を横たえた。「フレーム……それがお前の名だったな?」彼は低く言った。「俺の名はアトラス。お前は今日、俺を殺した。ならば、俺の命はこれよりお前のものだ。」
「俺の指示に従うか?」
「お前の命令に従う。」
その時、フレームの腕の中でリサレが咳き込んだ。
同時に、猟師たちの部隊が到着した。
「死んでるのか?」誰かが尋ねる。
猟師たちは氷竜を取り囲んだ。
「生きている。ただ、もう危険はない。」フレームは答える。「武器を下ろせ。」
「そんなこと、できるわけがないだろ!」誰かが反論した。
「俺が彼を手なずけた。もう俺の言うことを聞く。」
猟師たちの間に、ざわめきが広がった。
誰一人として、それが本当に可能だとは思えなかった。
「ふざけるな。全員、構え――撃て!」キャプテンの号令が響いた。
フレームは同時に叫ぶ。「跳べ!」
サンダーガンのフックが宙を裂いた。しかし、着弾するものはない。
巻き戻すまでに、わずかな時間がかかる。
フレームはその隙をついた。「戻れ、アトラス!」
氷竜はすぐに反応し、彼のもとへと身を寄せる。
――沈黙。
驚愕した猟師たちは、その光景を目の当たりにしながら、ただじっと竜を見つめた。
今なら殺せる。
だが、誰も動かない。
全員が、キャプテンの指示を待っていた。
そして、ついに一人の女性が、静かにフレームへと歩み寄った。彼の腕には、未だ眠るリサレが抱かれている。
「……お前は、何者だ?」そう問いかけたのは、かの「ティタニア・スレイヤー」――キャプテン・ティタニア・パブロンだった。