第20話 (1/2)
10年前
年は14,595年、
収穫期1日目。
初めての登校日、リサレはすぐに教室の中である一人の少年に気がついた。
他の誰とも違っていた。
周りの子たちは友達を作ろうと積極的に話しかけ合っていたのに、彼だけは誰とも関わろうとしなかった。
笑いもしなかった。
まるで、一人だけ別の場所にいるかのように。
それはとても奇妙に思えた。
誰もが学校に通えることを喜び、新しい友人を作ることを楽しみにしていたのに――
なのに、彼だけは違った。
休み時間になり、リサレはその少年が一人で静かに教室を抜け出すのを目にした。
彼は階段を上がっていった。
リサレの好奇心が刺激された。
彼女はこっそりと後を追い、少年が消えた扉の前で立ち止まった。
数秒待ち、意を決して少しだけ扉を開けてみる。
そこに広がっていたのは校舎の屋上だった。
そして、その一番奥の手すりにもたれかかりながら、少年がしゃがみ込んでいた。
彼は、声を上げて泣いていた。
何度も何度も、途切れることなく。
リサレはすぐに扉を閉めた。
これは、見てはいけないものだった。そう、本能が告げていた。
どうするべきかわからず、彼女はそのまま校庭へ戻ることにした。
廊下を歩いていると、同じクラスの男子数人が話しているのが耳に入った。
「なあ、あの変なやつ見たか? 俺、どこの家の出か聞いたんだけどさ、答えなかったんだよ。あいつ、障害者なんじゃね?」
「見た目もそんな感じだよな!」
周りの子たちが笑った。
――ただ、一人を除いて。
太くて立派な眉毛をした少年が腕を組みながら、じっと彼らを睨みつけた。
「じゃあさ、お前、それ本人に直接言えるのか?」堂々とした口調で言う。 「それに、もし本当に障害を持ってたらどうするつもりだ? それでもまだ面白いか? 弱い者をバカにして、そんなに楽しいのか?」
リサレは驚いた。
周りで聞いていた子どもたちも、同じように目を丸くしていた。
彼女は、その少年の中に何か特別なものを感じた。
胸の奥が、揺さぶられるような感覚だった。
――そうだ。
彼女の中で、ある考えが浮かんだ。
リサレはその太眉の少年に歩み寄り、そっと肩をつついた。
「ねえ、君。」リサレが声をかけた。「先生が呼んでるよ。」
少年は驚いたように顔を上げた。「俺?」
「そう、急いだほうがいいって。さあ、ついてきて。」
彼女は先に立ち、階段の方へと誘導した。
「先生が、すぐに屋上で待ってるって。」
「マジか……」
少年は太い眉を寄せ、ため息をついた。
「やばいな、初日から怒られるとか……母ちゃんに知られたら絶対まずいって……」
そう言いながらも、彼は素直に階段を上っていった。
リサレは彼の後ろ姿を見送り、微笑みながら校庭へと戻っていった。