第18話 (2/2)
現在
「でも、どうして?」フレームが尋ねた。
「ただ、心配だったの。」リサレは正直に言った。「だって、知ってるでしょ? 黒い迷宮に入ったら、誰も戻ってこないって……」彼女の視線は彼のものを避けるように逸れていた。「そんなの、悲しすぎるでしょ。」
「……なるほど。」
フレームの唇に、温かい微笑みが広がった。「お前は、優しい人間だな。」
「優しい人間が、人を殺せると思う?」
フレームの笑みが消えた。「……ああ。間違いなく。」
「それが、あなたの考えなのね。」
「違う。」フレームは静かに言った。「俺は知ってるんだ。誰も、生まれつき悪人じゃない。」彼は突然、吹き出した。「……ただし、ゴドの母ちゃんを除けばな!」
「ゴドの母親には会ったことがないけど……間違いなく、悪人はいるわ。」リサレの言葉は、ルビーの花のように苦々しかった。「例えば、私の両親を殺した人たち。」
「スタージス家か。」フレームは水たまりの縁に立ち、そこに映る自分の影を見つめた。縄で縛られたシルエット。
まるで、猟師でありながら、今やリサレの獲物となったかのように。
「もっと早く行ける道がある。」
「じゃあ、案内して。」
「お前の罠がどこだったか、大体覚えてるか? そこからなら案内できる。」
リサレは黙って頷いた。
彼らは罠の場所を確認すると、フレームはリサレを導き、門をくぐって闇の森を抜けた。
彼らは洞窟の通路を進みながら、一人の人影にも出会わなかった。これまでの年月と同じように、ニューシティの住人は誰もここに足を踏み入れようとはしなかった。
「お腹すいてる?」道の途中でリサレが尋ねた。フレームが答える前に、彼女はすでに籠を下ろし、小さな包みをいくつも取り出していた。葉に包まれた中には、ルビーの花、赤い菊、マーガレットが隠れていた。どれも乾燥させたものだった。
「なんでそんなに苦い花ばかり食べるんだ? 甘いものは嫌いなのか?」
「別に苦いとは思わないわ。この花を食べ続けていると、甘い花と酸っぱい花、辛い花、それに本当に苦い花の違いがわかるようになる。『これらの花は全部苦い』なんて、ただの思い込みよ。」リサレは指先で一輪の花をくるくると回した。「苦味の中にだって、隠れた甘さがあるのよ。」
「なるほどな。俺にもルビーの花をくれないか?」
「いいわよ。」
それが当たり前のように、リサレはフレームの口に花を運び始めた。縄を解くこともなく。
フレームはなんだか情けない気分になった。
彼女は一輪ずつ、丁寧に彼の口へと運ぶ。その途中で指が誤って彼の顎に触れたとき、フレームは気まずそうに視線をそらした。
だが、リサレはまるで気にしていない様子だった。「まだ食べる?」
「いや、大丈夫だ。先を急ごう。それと、そろそろ手を解いてくれないか? もうお前に逆らうつもりはない。」
「いい試みね。でも悪いけど、もう信用しない。」リサレは一瞬黙った。「私はもう、人間を信じない。」
出口に近づくにつれ、二人の会話は減っていった。フレームは心の中で準備を進めていた。タイミングを見計らい、縄を振りほどいて逃げる準備を。リサレを巻き込むわけにはいかない。彼女を危険から遠ざけなければならない。もう二度と、失いたくはなかった。
突如、トンネルの先から強烈な光が差し込み、目を焼くように眩しかった。しかし、黒い迷宮を抜けた先に待っていたのは、晴れ渡る陽射しではなかった。
悲鳴が響き渡っていた。
焦げた臭いが鼻を突く。
人々がパニックになりながら、街の通りを四方八方へと走り回っている。
騎乗竜たちが上空を飛び交い、混乱のあまり衝突し、空中で事故を起こしていた。
目の前で、一頭が壁に激突した。
騎士は即死だった。
しかし、頑丈な竜は地面に叩きつけられながらも、何とか立ち上がった。
「……あれ……」リサレが震える指で空を指した。
巨大な氷竜が彼らの頭上を飛び越え、街の反対側へと向かっていく。
次の瞬間、それは口を開き――
灼熱の炎を吐き出した。
幾十もの家々が、一瞬にして瓦礫と化した。