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第17話 (2/5)

 

 フレームは地図をしまった。それは彼を、この漆黒の通路の最速の道筋で目的地へと導いてくれた。

 かつて、彼の父が通ったのと同じ道を。

 かつて、スノーのもとへと。

 フレームが門をくぐり、洞窟の大空間へと足を踏み入れたとき、彼は何も聞こえなかった。

 風の音も、葉擦れの音も、機械の駆動音すらもない。

 その静寂は、誰かに出くわすかもしれないという恐れすらも飲み込んでいた。

 あまりにも無音すぎて、彼には自分の血が耳の奥でうねる音しか聞こえなかった。

 彼は懐中電灯の光を左右に、そして上下に振った。

 そこにあるのは、葉と枝ばかり。

 木々と花々のほかには、何一つ生きていなかった。

 この場所は、心なき者たちの領域だった。

 四方の草生した土壁からは、幹や茂みが突き出していた。

 太い血管のように絡み合う根を、苔が覆い、緑の絨毯となっていた。

 スノーが撃たれたあの場所を、見つけることはできるだろうか?

 どちらにせよ、フレームが死ぬとき、それはこの近くになる。

 その亡骸は朽ち果て、大地の養分となるだろう。

 もう誰の負担にもならずに済む。

 もし、この隠された森がいつか人間に支配される日が来るならば、そのとき彼らが見つけるのは、せいぜい白く風化した骨だけだろう。

 フレームは一歩、また一歩と、夢遊病者のように歩みを進めた。

 この洞窟に終わりはあるのか――彼にはわからなかった。

 彼は、この地下の森がこれほどまでに広大であることを、今の今まで甘く見ていた。

 もし、あのときスノーが彼の足音を聞いていなかったら……そう考えたとき――

 音が静寂を切り裂いた。

 何かが、かさりとかすかに揺れた。

 ~どうやら、俺は一人じゃないらしい。~

 フレームは懐中電灯を回しながら周囲を照らしたが、光が届くのはただ木々の梢ばかり。

 この場にいる誰かは、彼の近くにはいない――もしくは、驚くほど巧妙に隠れている。

 もしかすると、かつて彼の父がこの地を「浄化」した際に、ひとつだけモンスターを見落としていたのかもしれない。

 あるいは、別の猟師がここで狩りをしているのかもしれない。

 テロン・ゴスターが終わらせることのできなかった「掃討」を、今になって完遂するために。

 その考えが頭をよぎった瞬間、フレームの口内に苦い胆汁がこみ上げた。

 ~警戒しろ。~

 フレームは息をひそめながら、音の残響が導く方へと静かに足を運んだ。

 ――~よく聞け。~

 父の声が脳裏にこだまする。

 ――~静寂なんてものはない。~

 まただ。微かに。

 慎重に、そっと近づいていくフレーム。

 だが、そのとき――

 何かに足を取られた。

 地面の小さな突起に引っかかり、前のめりに転びかける。

 だが、落下する前に何かが彼の体を締めつけた。

 次の瞬間、フレームは一気に引き上げられ、木々の梢へと宙吊りにされた。

 網だ。

 困惑しながら下を見下ろすと、茂みの奥からゆっくりと一つの影が姿を現した。


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