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第15話 (3/5)

 

 城は、一滴の水のように園香を呑み込んだ。

 園香は交差リブ・ヴォールトの柱の間を駆け抜け、革靴のヒールが花崗岩の床を打ち鳴らす。

 タッ、タッ、タッ。秘密を暴く時だ。

 ビエラ博士の書斎に近づくと、中から声が聞こえてきた。

 園香はノックしようとした手を止め、動きを凍らせ、耳を澄ませた。

「メモリーストーンの採掘を、さらなる刺激策で促進しなければならない。現在、いくつもの採石場が放置されたままだ。安全にたどり着ける者がいないせいでな。掘削者たちの進みは遅く、新たな坑道を掘ろうにも、古い坑道の崩落を避けるのがますます困難になっている」ウェザロンの声だった。

「わかった。お前が対処しろ」ビエラがため息をつく。「それで、次の風車をすぐに建てられるなら、私は構わない」

 園香は息を呑んだ。次の風車?

 その瞬間、彼女が寄りかかっていたオーク材の扉が軋み、体重を支えきれずに前へとよろめいた。目の前には——ドクター・ビエラ・スタージス。彼女は扉のノブに手をかけたまま、じっと園香を見下ろしていた。

「えっと……こんにちは!」園香はぎこちなく言った。「ちょうど、お話がしたくて……」

 ビエラは、思いがけない来訪に対する喜びを顔に出すことなく、半ば閉じた瞼の奥へと隠した。「悪いけれど、今は忙しいの」

 園香が何か言う前に、ビエラはすでに彼女の横を通り過ぎ、廊下へと向かい、そのまま角を曲がって姿を消した。

 スタージスさんは、自分の息子だけをその場に残していった。

 園香はウェザロンを見つめる。「……風車って、どういうこと?」

 彼の口元が歪んだ。「お前には関係ない。忘れろ。」

 その声の冷たさが、園香の腹に鋭く突き刺さった。

 まるで殴られたように、痛かった。

 特に、こんな一日を過ごした後ではなおさら——

「昔は、何でも話してくれたのに……」彼女は力なく囁いた。

 その瞬間、彼の顎が強張った。

 眉間に刻まれた皺が、不安の色を浮かび上がらせる。

 そして、まるで追い詰められたかのように問いかけた。

「俺と結婚する気か?」

 ——彼の声には、焦燥が滲んでいた。

「……結婚?」園香は目を瞬かせた。「なんで今そんなこと聞くの?どうしたの、誕生日を迎えてからずっとおかしいよ?」

「それが答えか?」彼は沈んだ表情のまま、窓の外を見た。庭の白樺の木々の間で、緑の草原が砂に溶ける水のように揺らいでいる。 「お前はオミオを選ぶんだな……?」

 園香は気まずそうに手首を握りしめ、腕輪にあしらわれた白金の花を指でなぞった。

 ~他の者たちは戦争をするだろう。でも、お前は~

 母の言葉を、園香は忘れられなかった。

 あの日以来、胸の奥にずっと重たい圧力がのしかかっていた。

 その圧力は、わずかに芽生えそうになる幸福すら、ことごとく締め付けていた。

 彼女は知っている。

 両親が望む未来の夫が誰なのか。

 そして、それが自分の望む相手ではないことも。

 もし、自分の意思で選べるのなら——

 だが、その先を考えることが怖かった。

「……まだ決めてないよ。」

「俺は、あることについては家族の者としか話せない。もしお前が俺を選んでいたなら……全部話せたのに。」

「なんで……過去形なの?」

「お前がそんなに迷うってことは、それが答えだろう。オミオのところへ行け。」

 園香はすでに佐琳のことで泣きそうだった。

 それでも、なんとかこらえていた。

 だが——もう、耐えられなかった。

 涙が次々と溢れ出す。

「ウェザロン、お前はとんだ大馬鹿者だ!」そう叫ぶと、彼の愚かな助言に従い、オミオを訪ねることにした。


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