第15話 (2/5)
1週間後
14,605年、
収穫期22日目。
園香が再び訪れたとき、佐琳はすでに亡くなっていた。
それを知ったのは、彼女の病室に足を踏み入れようとした瞬間だった。
葬儀屋たちが、容赦なく園香を追い払った。
しかし、一瞬だけ開いたドアの隙間から、彼女は見てしまった。
病に引き裂かれた佐琳の動かぬ身体を。
雪のように白い壁を汚す、残酷なほど鮮やかな赤を。
遺体はその日のうちに運び出される、と説明された。
二度と佐琳には会えない、と告げられた。
そして、今すぐ立ち去るように、と。
悲しみが、園香の胸を焼いた。
疑問が彼女の思考を浸し、溺れさせた。
何を間違えた?
すべては、自分のときと同じだったはずだ。
ビエラ・スタージス医師の指示通り、儀式を行った。
ならば、一体何を見落としたというのか?
なぜ、佐琳は死ななければならなかった?
なぜ、園香は生きているのか?
口の中に、鉄の味が広がった。
歯茎の傷だった。だが、その痛みは、佐琳が残した心の穴に比べれば、あまりにも取るに足らない。
彼女は、あまりにも若かった……
あまりにも……
園香は、荒れる呼吸をなんとか抑えようと努めた。
ここで泣いても、誰のためにもならない。
たとえ、もう佐琳がこの世にいなくとも——
園香には、まだできることがあった。
彼女の最後の願いを、叶えることが。
園香は受付で、佐琳の両親の住所を尋ねた。
普通なら、赤の他人にそんな情報を簡単に教えることはないだろう。
だが、園香が自分のフルネームを名乗ると、職員はすぐに協力してくれた。
またひとつ、自分の血筋ゆえに与えられた特権——それを嫌悪すべきかどうか、園香にはわからなかった。
だが、少なくとも目的は果たせた。
しばらくして、彼女はウィンチェスター家の玄関前に立ち、扉を叩いた。
出てきた女性は、佐琳とはほとんど似ていなかった。
もしかすると、笑った顔に面影があったかもしれない。
しかし、それを確かめる機会はなかった。
目の前の女は、ひどく険しい顔つきをしていたから。
その視線が、園香のドレスを値踏みするようになぞる。
レースをあしらったコルセットの部分で、しばし留まった。
「ウィンチェスター夫人?」園香は指先を鎖骨の上に添え、静かに言った。「私は、あなたの娘、佐琳を知っていました。」
「……あなたは誰?」
「佐琳の友人でした。彼女から伝言を預かっています。」
「私の娘に友達なんていなかった。」ウィンチェスター夫人は鋭く言い放ち、扉を閉めようとした。
だが、その瞬間——園香は足を素早く差し込み、扉が閉まるのを阻んだ。
揺るがぬ声で、彼女は続けた。「病気は不幸をもたらすものじゃない!それに、うつることもない!くだらない噂のせいで……」無意味な涙が、込み上げる。けれど、それはただ彼女の声を溺れさせるだけだった。
「くだらない噂のせいで、佐琳はあんなにも苦しんで……そして……」
ウィンチェスター夫人の頬が、怒りに染まる。「他人の家庭の問題に、口を挟むんじゃないわよ!」
「でも——」
「消えなさい!」
その瞬間、園香の足に容赦なく踏みつけられた。
反射的に後ずさると、目の前にあったのは——
無情にも閉ざされた、重い木の扉だった。
冷たい現実が、じわじわと意識の奥に染み込んでいく。
園香はその場に立ち尽くしていた。たった三十秒。けれど、何も理解できなかった。
足の指がズキズキと痛み、耳の奥で鈍い音が響いていた。
だが、それ以外に彼女ができることは何もなかった。
ただ、感じることだけ。
まだ自分の中に、衝撃で麻痺していない何かが残っているのかを探ることだけ。
しかし、そこには何もなかった。
もう、力が残っていなかった。
空っぽの心のまま、園香は帰路についた。
——少なくとも、そのつもりだった。
だが、思考はどうしても佐琳のもとへ引き戻される。
あの子のこと、そして、病院で浮かんだ数々の疑問。
答えのない問いが、頭の中を荒れ狂っていた。
半ばまで進んだところで、園香は旅行ドラゴンを反転させた。
向かう先を、スタージス家のシャトーへと変えた。
——ビエラと話さなければならなかった。