第14話 (8/9)
一日後
第14,605年
収穫の時期 第2日目。
園香は暗闇の中で目を覚ました。
皮膚がちくちくと痺れる。まるで千本の針が突き刺さったようだった。
彼女は上半身を起こし、何気なく鏡へと目を向けた。
そこに映る自分の顔――フェニックスの月明かりに照らされ、頬はこけ、肌には虹色に輝く糸が絡みついていた。そして――
愕然とした。
彼女はその角を見つめた。
生え際から突き出す、それはどう見ても隠しようがなかった。
鏡の中に映る自分――それは、まるで脅威だった。
悪魔が、じっと彼女を睨んでいた。獲物を狙う狩人のような鋭い眼差し。
ラベンダー色の瞳が、冷たく光っている。
恐怖が園香の喉を締め付ける。
声にならない叫びが、喉の奥で押し殺された。
――鏡の中の"それ"が、動いた。
ぎこちない動きで、こちらへ向かってくる。
一歩。
二歩。
そして、突然――飛びかかってきた。
園香は跳ね起きた。
フェニックスの太陽光が部屋を満たし、窓から吹き込む風がカーテンを揺らす。
荒い息をつきながら、彼女は周囲を見回した。
冷たい汗が首筋を伝う。
――誰もいない。
再び鏡に目を向けた。
そこに映るのは、悪魔でも病の証でもなかった。
ただの自分自身。
ラベンダー色の瞳が、いつも通りの自分を映していた。
――焦りと不安に揺れる目。
だが、その奥に邪悪な影はない。
「……ただの夢。」彼女はそう呟き、布団の中に手を埋めた。
その手に、違和感が走る。
――自分の手。
園香の目が大きく見開かれる。
手の甲――それは、何の異変もなく、滑らかだった。