第14話 (3/9)
「一体、あなたたちに何が乗り移ったの!?」
園香は分かっていた。——母は、答えを求めていない。
彼女はいつものように完璧に着飾っていた。濃紺の髪は艶やかに肩へと流れ、一本の乱れも許されていない。
「見苦しさ」は、ブラックウォーター邸では決して許容されないものだった。なにせ、だらしのない姿は、家の名誉を傷つけるかもしれないからだ。だが——
そんなロッセレーヌでさえ、娘のこととなると、気が狂わんばかりに怒ることがある。
それは、ウェザロン、オミオ、ルディの家族も同じだった。
彼らの秘密の外出に対し、どの家も怒りを露わにしていた。
「お前は、今月まるごと外出禁止だ!」オミオの父親が怒鳴った。右頬に刻まれた傷跡が、その怒りをさらに鋭く見せる。
次の瞬間——
バチン!
彼は息子の耳を掴み、思いきり引っ張った。
「い、いってぇぇぇ!」オミオが片目をつぶって痛がる。
「むしろ、鞭打ちの刑にでもすべきじゃよ!」そう言ったのは、ルディの祖母だった。
彼女と孫を繋ぐものは、ただ一つ。
——氷のように冷たい灰色の瞳。おそらく、かつては美しい女性だったのだろう。しかし今、頬の肉は垂れ下がり、口元を隠すようにぶら下がっている。そして何より——
怒りに満ちたその表情は、彼女をさらに醜く見せた。
どれほど高価なダイヤモンドのイヤリングをつけていようとも。シャンデリアの光を受け、煌めいていようとも。
「この考えを出したのは、誰だ?」ウェザロンの父が問い詰めた。
メガネの片方に光が反射し、片目が白く覆われる。もう片方の目は、子どもたちを鋭く見据えていた。
それは、明るく熱を帯びた熾火のような輝きを放ちつつも、髪ほど赤くはなかった。だが、燃え立つような髪色を見れば、ウェザロンが父親譲りであることは、一目瞭然だった。
—— 園香も、少年たちも、沈黙を守った。
「リーダーがいるはずだ。さあ、誰が最初に地上へ行こうと言い出した?」ストージス家の当主の焼けつくような視線が、彼らを射抜く。
ひとつ確かなこと——彼らは、家族から逃れられない。
ウェザロンが一歩前に出た。「俺だ。」
その瞬間——
「何考えてんのよ!?」園香が肘でウェザロンの脇腹を小突いた。
「違う!俺が言い出したんだ!」オミオが素早く手を上げる。
ルディが口を固く閉じる。——そして、意を決したように、自分も手を挙げた。「僕だ。」
「なるほど。お前たち三人か。」ルディの祖母が、わざとらしく口をすぼめる。その瞳には、どこか獰猛な光が宿っていた。「それで? じゃあ、小さな園香は無実というわけね?」
「違います!」園香はきっぱりと首を振った。「私が説得したんです!どうか、私だけを罰してください!」
ウェザロンの父が、目を細める。そして、ゆっくりと、皮肉げな笑みを浮かべた。「ほう……お前たちの友情も、随分と深まったようだな。」