第14話 (2/9)
数週間後
第14,600年、
光時の79日目。
彼らは、地上への旅立ちの準備を進めていた。
園香は荷物を詰め、ウェザロンは叔父の旅行ドラゴンを盗み、ルディは武器を調達し、オミオは防寒服を用意した。
「やっぱり、誰かに話しておいたほうがいいんじゃない?」夕暮れ時、こっそりと一角獣農場を抜け出す際、ルディが不安げに口を開いた。
フェニックスの太陽の光が次第に弱まり、街全体を赤く染め上げた後、徐々に闇の帳を下ろしていく。
通気口のファンが静かに唸り、火山の内部へと新鮮な風を送り込んでいた。
園香は、胸いっぱいに冒険の香りを吸い込んだ。
花畑から吹き上げる冷たい風に乗り、バラの芳しい香りが鼻をくすぐる。
まるで、大地が彼女たちの旅を祝福しているかのようだった。
「バカか?」ウェザロンが即座に噛みついた。「大人たちにバレたら、絶対に止められるだろ!」
ルディは不安そうに指先をいじりながら、小声で言った。「でも…もし何かあったら? 誰にも言わなかったら、誰も僕たちを探せないよ…」
オミオは夜空のように深い青色の旅行ドラゴンの御者台に飛び乗り、鞍の上で堂々と構えた。「大丈夫だって! 俺たちにはパブロンがついてるんだからな!」
「自惚れ屋め。」ウェザロンはそう呟きながら、幌のない馬車に乗り込んだ。
この半密閉型の車体は、まるでドラゴンの背中にしっかりと抱きつくように設計されている。
この旅が終わる頃には、ドラゴンの不在が発覚し、ウェザロンには人生最悪の軟禁生活が待っているのは確実だった。
それを分かっていても、彼はこの無謀な挑戦に手を貸した。その勇気を、園香は密かに高く評価していた。
車内には向かい合わせの二列シートがあり、定員は四人。
ウェザロンは迷わず前列に滑り込み、園香はその隣に腰を下ろした。
後部座席にはルディが一人で座り、全員が安全ベルトをしっかり締めた。
シートベルトがしっかりと身体を固定し、いよいよ旅立ちの準備が整う。
「先祖の偉業を自分の手柄みたいに言うのは、やめなさいよ。」
園香はニヤリと笑った。
「そんなんじゃないさ! 狩猟は、俺の血に刻まれてるんだよ。」オミオは肩越しに振り返り、後部座席の乗客たちを見渡した。「だから安心しろ! 俺がちゃんと、お前らを守ってやる!」
「俺は、自分のことすらまともに守れないお前が心配だよ。」ウェザロンはうんざりしたように目を閉じ、批判の声をシャットアウトするかのように顔を背けた。
…そして、誰も彼と議論する気はなかった。
オミオが手綱を引き、ドラゴンを駆り立てると、彼らはゆっくりと上昇していった。
フェニックスの太陽の最後の輝きが消え、完全に夜が訪れる。
ちょうど夜の始まりとともに、彼らは街を後にした。
闇が園香を不安にさせる。
だが、その黒いベールには、どこか神秘的で美しい魅力もあった。
ルディが膝の上に地図を広げた。「南区の第二坑道から境界を抜ける。そのまま数キロ直進して、左だ。」
オミオは指示通り、ドラゴンを市境へと向かわせ、さらにその先へと飛び越えた。
クレーターの壁に開いた巨大な裂け目へと突入すると、街の喧騒は一瞬で途切れた。
聞こえてくるのは、遠くから響く鈍い振動音だけ。そして、それすらも換気システムの低いうなりにかき消されていく。
坑道の中では、ランタンの光が道を示していた。
まるで星が連なったかのように、壁沿いに沿ってトンネルの奥まで灯りが続いている。
園香がニューシティを離れるのは、これが初めてだった。
これは、一部の限られた者しか得られない特権。
大半の人間は、一度も月も、太陽も、星も見ないまま、一生を地下で終える。
その例外は、猟師と掘削者だけだった。
オミオはドラゴンをさらに煽り、速度を上げる。
風が彼らの髪をすり抜け、ランタンの光が一本の流れる光線のように見え始めた。
「そろそろ、国境検問所が見えてくるはずだ!」ルディが叫ぶ。
彼らは、さらに速度を上げた。
遠くの方に、赤白のストライプ模様の遮断機のそばに立つ警備隊員の姿が見えた。
遠目にはキャンディケインのようにも見えるが、果たして本当にあれほど脆いものなのか……?
「ちょっと待って、まさか……!」
園香は、オミオがまったく減速するつもりがないことに気づいた。
彼は悪びれる様子もなく、ただ笑みを浮かべる。「速さがあれば、どんなものだってぶち抜ける!」
「それ、完全にデタラメだろ!」ウェザロンが叫んだ。
だが、すでに遅かった。
轟音とともに、彼らは遮断機に突っ込み、そのまま突破した。
警備隊員たちが何か怒鳴っていたが、もはや何を言っているのかは聞き取れなかった。
彼らはすでに、遥か先へと進んでいた。
坑道を疾走しながら、オミオが得意げに言い放つ。「な? 言っただろ?」
「運がよかっただけだ! 遮断機が頑丈に固定されてなかったから助かっただけだろ!」ウェザロンの声は、わずかに震えていた。
園香もまた、ほんの数秒前まで死の危険を感じていたことを、ようやく理解し始めていた。
「ドラゴンは無事か?」ルディが不安げに尋ねる。
「大丈夫、大丈夫!」オミオが軽く手を振る。「ドラゴンだぞ? ユニコーンじゃないんだ。いつのウロコは鋼鉄みたいに頑丈だからな!」
「鋼鉄じゃねえよ!」ウェザロンが即座にツッコミを入れる。「はぁ……俺、一体何やってんだ……」彼は深いため息をつき、園香の方に視線を向けた。「……そこまでして、星を見る価値があるのか?」
彼女は前を見据えたまま答えた。「今日は、誰も死なないよ。」心臓の鼓動がゆっくりと落ち着いていく。そして、ついに彼女の口元には、抑えきれない笑みが浮かんでいた。「だって、パブロンがいるじゃない!」
「お前、分かってるじゃねえか!」オミオが大笑いする。
その瞬間、ルディが声を上げた。「ここで右だ!」
一時間ほど地図のルートに沿って進み、南部の兵舎をやり過ごし、いくつものトンネルを疾走した後、彼らは隔離室ステーションへと辿り着いた。
オミオが旅行ドラゴンを停止させる。
四人は全員、防寒仕様のスノースーツに着替え、防護用の呼吸マスクを装着した。
ルディが馬車から飛び降り、セキュリティパネルの元へと駆け寄る。
園香もすぐに後を追い、彼の肩越しに覗き込んだ。
ルディは慎重にレバーを引き、ボタンを押しながら、制御システムを起動させる。
「オミオ!」作業を終えると、彼はオミオを呼んだ。
「何が必要なんだ?」パブロンが応じる。
「認証のために、ここに手をかざしてくれ。」ルディがセンサーのパネルを指差す。
「これはお前にしかできない。お前の承認なしじゃ、隔離ゲートは開かないんだ。」
ウェザロンは周囲を警戒しながら、指先で腕を軽く叩くようにドラムを刻んでいた。落ち着かない様子で、急かすように言う。「おい、さっさとやれよ!」
オミオは指示通りに手をかざした。「はいはい、これでいいか?」
直後に、最初の折りたたみ式のゲートが音を立ててスライドし始めた。
四人はすぐさまドラゴンの元へと駆け戻る。
「三十秒の猶予を作った。」ルディがそう言うやいなや、彼らはすぐに馬車へ飛び乗った。
旅行ドラゴンの背に乗り、隔離室の内部へ突入する。
背後で内扉が閉まり、次に外扉が開くまでさらに三十秒。
彼らの冒険は、次の段階へと進もうとしていた。
ついに、その時が来た。園香の夢が、現実になろうとしていた。
コンソールの温度計が、一気にマイナス64度まで急降下する。
彼女は視線を前へと向けた。
鋼鉄の枠に守られながら、パネルが開いていく。
その先に広がるのは、黒い闇が口を開け、彼らを飲み込もうとする世界だった。
冷気が吹き荒れる。強烈な風が彼らに襲いかかり、鋭い刃のように頬を打とうとする。だが、その突風は無力だった。防護マスクがすべてを遮断する。
シートベルトが彼らの身体をしっかりと固定した。
もしオミオに感謝すべきタイミングがあるとすれば、それはまさにこの瞬間だった。
しかし、パブロンは集中していた。彼は旅行ドラゴンを駆り立て、上昇を開始する。
—— 目の前に広がる、世界。
園香の瞳が大きく見開かれた。
火山の闇よりも、地上の暗闇のほうが何千倍も輝いていた。
果てしなく広がる雪原が、夜の光を反射し、幻想的な輝きを放つ。
「あれは……」ルディが息を呑む。「……星だ!」
園香は満面の笑みを浮かべた。
それはオミオも同じだった。
無数の小さな太陽が、天空を照らしている。
煌めく星々の向こうには、色とりどりの光のヴェールが広がっていた。
青、緑、紫、そして金色。その光は、闇に溶け込むことなく、まるで夜空そのものを彩る絵筆のようだった。
「すごく綺麗……ねえ、ウェザロンもそう思うでしょ?」園香が彼を振り返ると——
彼はじっと雲を見つめていた。そして、一筋の涙が頬を伝い、バイザーの縁で止まった。
園香の視線に気づくと、彼は赤面し、そっぽを向いた。
「な、なんだよ!? そ、そうだよ!」
—— その時だった。
何かが、彼らを追い越していく。
巨大な影。
それは、彼らのすぐ真下にいた。
——家ほどの大きさを持ち、鋭い爪を備えた獣。
——尾は氷柱の刃のように尖っている。
「だ、だ、だ、だ……!」ルディが恐怖で硬直する。
「引き返すぞ! 早く!」ウェザロンが叫ぶ。
すると、オミオが後部座席へと手を伸ばし、ルディに向かって言った。「悪いけど、銃を貸してくれない?」
「まさか戦う気か!? 銃は非常時のためにだけ持ってきたんだろ!? 逃げることだってできるのに、なんで……!」
「これは非常時だ!」オミオが鋭く言い放つと同時に、旅行ドラゴンを旋回させ、方向を変えた。
氷のドラゴンが、真正面から突っ込んでくる。
「早く!」オミオが急かす。
ルディの手が震えながらも、彼は銃を差し出した。
オミオは素早くそれを受け取ると、電源を入れ、腕を前に突き出す。
—— バシュン!
エンターフックが一直線に放たれ、鱗に覆われた巨体の喉元、気管のすぐ下に突き刺さる。
ジジジジッ!!
高圧電流が、光のように滑らかにドラゴンの体内を駆け抜けた。
その瞬間、氷の獣は進行方向を乱され、制御を失う。
だが、遅かった。ドラゴンはすでに至近距離まで迫っていた。
電撃に貫かれたまま、巨体が墜落する。
そして、そのまま——
夜空のように深い青の旅行ドラゴンと、その乗客たちを巻き込んでいった。
重力が彼らを掴み取り、闇へと引きずり込んでいく。
オミオの体が鞍から弾かれ、宙へと投げ出された。
一方、他の三人は固定されたシートベルトに引かれ、ドラゴンとともに急降下していく。
自由落下の中、オミオは電源を切り、エンターフックを巻き戻した。
同時に、ウェザロンはシートベルトを外し、前方の御者台——鞍のある場所へとよじ登る。
強烈な上昇気流が、何度も彼をドラゴンから引き剥がそうとするが、彼は歯を食いしばり、全身で風に抗いながら前へ進んだ。
「こうなるって分かってたんだよ!」彼は手綱を掴み、ぐっと引く。「次こそは、俺の言うことを聞け!」
その間に、オミオは再びエンターフックを発射した。
狙いは、馬車の鋼鉄製の手すり。
フックがしっかりと絡みつくと、彼はワイヤーを巻き戻し、一気に空中を飛び越えた。
ウェザロンは旅行ドラゴンの操縦を引き継ぎ、地上に激突する寸前で、見事に旋回する。
直後、すぐ隣に氷のドラゴンが轟音を立てながら氷の大地に墜落し、それが雪崩を引き起こした。
——オミオはその雪の奔流の真っただ中へと消えた。
彼の指が、冷たい風に晒されながら、一本ずつ力を失っていく。
ついに最後の指が滑り、彼はワイヤーから手を離した。
それでも、サンダーガンのスチールワイヤーは巻き戻され続けた。
—— 「カチン!」
巻き戻された銃が、すでに馬車の手すりに食い込んだエンターフックにぶつかる。
ルディの目の前には、持ち主のいない銃だけが戻ってきた。
「オミオ……いや、嘘だろ……!」彼の声が震え、膝が崩れる。絶望が彼を押し潰し、彼はその場で泣き崩れた。
しかし——園香には悲しむ暇などなかった。いや、悲しむつもりなど、最初からなかった。彼女はルディの手からエンターフックを奪い取る。「私が助けに行く。」
「待て、お前、それの使い方分かってんのか!? 俺にやらせろ!」ウェザロンが手を伸ばした。
彼女の全身が警鐘を鳴らしていた。
「やめろ!」と叫ぶ声が、頭の中でこだまする。
—— だが、園香は耳を貸さなかった。
彼女は、オミオと同じ行動を取る。
——エンターフック、発射。
金属のワイヤーが放たれ、馬車の底部の鉄柵をしっかりと掴んだ。
園香はサンダーガンを握りしめたまま、ドラゴンから飛び降りる。
「クソッ!」ウェザロンは慌ててドラゴンの速度を落とし、彼女が地面に引きずられないようにした。
彼女のブーツの底が雪面に触れる寸前、園香は自らフックを解除し、勢いよく飛び降りた。
—— ザクッ!
転倒。
彼女の身体は雪に飲み込まれ、膝まで深く埋まった。
「くそっ!」ウェザロンが舵を切る。
だが、園香自身に深刻な怪我はない。衝撃は感じたが、痛みはなかった。
—— それよりも、全身を駆け巡るアドレナリンのせいで、すべての感覚が研ぎ澄まされていた。
彼女はすぐに起き上がり、雪の海の中を進もうとする。
だが、想像以上に動きにくい。
まるで、大地そのものが「ここから逃がすものか」と言わんばかりに、彼女の足を掴んでいるようだった。
—— その時だった。
遠くで、何かが動く。
雪の中から、頭が一つ——。
「オミオ!!」彼女の声が、吹雪に溶け込む。
遠くで、氷のドラゴンがまだ白い地表を転がっていた。
やがて、完全に動かなくなる。
その長い尾が最後の一掃ぎを放ち、雪を巻き上げた。舞い上がる白銀の塊が、園香の視界を埋め尽くす。
彼女は咄嗟に腕を顔の前に掲げ、防御の姿勢を取る。
—— しかし、その雪崩が彼女に届く前に。
—— 誰かの手が、彼女の腕を掴んだ。
そのまま、身体が空へと引き上げられる。
驚いて顔を上げると、視界には、ルディの氷のような瞳があった。
—— 溶けかけた雪のように、わずかに潤んでいた。
彼は、か細い腕に込められる限りの力で園香を引き上げた。
そのまま、夜空のように深い青の旅行ドラゴンは高度を上げる。
園香は馬車の側面に足をかけ、ルディの手を頼りに、必死に這い上がる。
園香はウェザロンの文句を覚悟していた。
だが、彼は何も言わなかった。その代わりに、彼は沈黙のまま旅行ドラゴンを操縦し、オミオのもとへ向かう。
彼は今まさに、白い死の中から這い出ようとしているところだった。
ドラゴンが着地すると、三人はすぐさま彼の元へ駆け寄った。
「骨、折れてない!?」園香が焦ったように尋ねる。
オミオは笑って首を振った。「大丈夫だ。お前らは?」
ルディは、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をくしゃくしゃにしながら、すすり泣く。「もう、早く帰ろうよぉ……!」
「ルディの言う通りだ。」ウェザロンが短く言い放つ。「急ぐぞ!」
彼らは旅行ドラゴンへと向かおうとした——
その時だった。
—— 大地が揺れた。
四人全員がバランスを崩し、雪の上に叩きつけられる。
その直後、ルディの背後の雪が吹き飛んだ。
—— 氷柱の牙を持つ獣が、その頭をもたげる。
もう一体の氷のドラゴン。
園香、ウェザロン、オミオの三人はすぐさま立ち上がり、走り出した。
だが——
ルディだけが動かない。
彼はまるで、見えない鎖に足を縛られたかのように、その場に凍りついていた。
「走って!!」園香の絶叫が響く。
しかし——
彼は、一歩も動かなかった。
氷のドラゴンが、巨大な顎を開く。
鋭く並んだ牙が、寒空の下に剥き出しになる。その奥で、長く粘り気のある舌が動く。
唾液の糸が牙の間に張り、発酵したスミレのような刺激臭が鼻を突いた。
オミオは園香の手から銃をひったくり、引き金を引いた。
——バシュン!
金属の鉤爪がまるで伸びる手のように、ルディへと向かって飛んでいく。
フックは彼の腕にしっかりと絡みついた。
オミオはすぐさまエンターフックを巻き戻す。
二人の体重がほぼ同じだったため、ワイヤーが張り詰め、二人は互いに引き寄せられた。
しかし——
それでも、氷のドラゴンとの距離は縮まらない。
その巨大な顎が、今にも彼らを丸呑みにしようとしていた。
「お願い!!」園香は必死に叫んだ。目の前の巨大な龍の瞳を、まっすぐに見つめる。その眼球は、まるでローズクォーツのように澄んでいた。
「お願いだから、生かして!!」
「無駄だ!」ウェザロンの声は、風のようにかすれ、今にも掻き消されそうだった。「モンスターに言葉は通じない!」
しかし、今この状況で彼女たちを救えるのは、そよ風ではなく、嵐だった。—— 奇跡の嵐。
「お願いだから、私たちを見逃して!ここから出して!」園香は声の限りに叫んだ。「私たちは……ただ星を見たかっただけなの!」
その瞬間——氷のドラゴンが、動きを止めた。
顎を大きく開き、——噛み砕くのか、それとも火を吐くのか。
狩りの最中の獣が、決断を下すように、一瞬の静寂が降りた。
——その隙を、オミオは見逃さなかった。彼はすでにワイヤーを巻き取り終えていた。
今度は、銃口をまっすぐに向け——そのまま、ドラゴンの開いた口の中へと、引き金を引いた。
——バシュン!
鉤爪が粘膜に深く突き刺さる。
次の瞬間、オミオは電源を入れた。
ビリビリビリ!!!
致命的一撃。
雷光のように駆け巡る高圧電流が、龍の体を貫いた。
モンスターは、その場で崩れ落ちた。
終わった。星を見て、氷のドラゴンを二体殺した。
—— それも、卒業前に。
帰り道、四人は誰一人として口を開かなかった。
虚無が彼らの衝撃を踏み潰し、瞳の輝きを奪っていく。
園香には、何を感じればいいのか分からなかった。
心は凍りついたように動かず、それでもまだ鼓動を打ち続けていることが、不思議でならなかった。
外門に到着すると、オミオが再び手をセンサーにかざし、認証を通す。
重いパネルが開き、彼らを迎え入れた。
—— そして、最後のパネルが背後で閉じた瞬間。
肩にのしかかっていた、この一時間の重圧が、一気に崩れ落ちた。
最初に泣いたのは、ルディだった。
それを合図にするかのように、園香も、他の二人も、次々と涙をこぼした。
やがて、ウェザロンが呟く。「いつか……俺たちは地上に住むことになるんだろうな。そして、毎晩、星空の下で眠るんだ。」