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第12話 (4/7)

 

 それが火山に戻る唯一の道だった。

 スイレンと30分間「会話」をした結果、エンギノはそう理解した。

 彼が出口について尋ねるたびに、スイレンは泉を指さすか、天井の穴を通って空の方向を示すかのどちらかだった。

 無理だな とエンギノは思った。

 クレーターの壁は塔のように切り立ち、滑らかな氷で覆われている。どんなに優れた登攀装備を使ったとしても、滑り落ちずに登ることは不可能だろう。

 次第に、エンギノはこの翼を持つ生き物のボディーランゲージを理解できるようになってきた。それは思ったほど人間の仕草と大きくは違わなかった。

 手招き、翼のかすかな動き、口元の表情、首のかしげ方、全体の姿勢――それらを組み合わせることで、明確な答えが読み取れた。

 注意深く観察し、適切な質問をすればいい。それをエンギノは実践した。

 そのおかげで、彼はすぐに理解した――ここに閉じ込められているのだ、と。地表のすぐ下に広がる辺境の地で、文明から遠く離れた、隔絶された地下の氷の巣に。

 やがて他の羽を持つ生き物たちも泉の周りに集まり始めた。

 彼らはエンギノを囲み、じっと見つめているようだった。その顔を目隠しのように覆う羽越しに、彼を見透かしているかのようだった。もしかすると、彼らには視覚器官があるのかもしれない。しかしエンギノにはそれは分からなかった。

 彼が確信を持って言える唯一のこと――それは、彼らには誰一人として鼻がなかったということだった。

 スイレンは他の生き物たちと何かを伝え合っているようだった。それを受けて、数体の生き物が群れから前に進み出てきた。そしてそれぞれの翼を蔓のようにしてエンギノの足首に巻き付け、彼をその場に縛り付けた。

 その瞬間、1体の生き物が彼に向かって飛びかかってきた。

 喉を鳴らしながら唸り声を上げ、鋭い牙をむき出しにしていた。

 その牙が彼の首筋に突き刺さるのは時間の問題だった。

 反射的にエンギノは目をぎゅっと閉じ、心臓が耳の奥で大きく脈打つ音を聞きながら神々に祈りを捧げた。どんどん速く、そして大きくなる鼓動の音――ドム、ドム、ドム、ドム。

 その刹那、スイレンが矢のような速さで間に割って入り、攻撃者にタックルを仕掛けた。二人はもつれるように地面を転がった。

 他のいくつかの羽を持つ生き物たちもスイレンを助けるために駆けつけ、攻撃的な仲間たちを脇へ押しのけた。

 そしてエンギノがバランスを崩して水に落ちないよう、彼をしっかりと支えてくれた。

「ありがとう…」エンギノは小さくつぶやいた。

 スイレンも起き上がり、攻撃してきた生き物に翼を差し出した。それはまるで和解の申し出のようだった。

 攻撃者はその翼を受け取り、牙をちらつかせながらその場を離れた。

 彼の仲間たちもそれに倣い、泉の場所から立ち去り、氷のトンネルの影へと消えていった。

 頭の中に大きな疑問符を抱えながら、エンギノは彼らの姿を見送っていた。

 しかしその時、再び別の生き物が彼の首に飛びついてきた――それは、彼が目を覚ました時に一緒にいたものだった。胸元の豊かな羽毛ですぐにそれだとわかった。

 その生き物は片方の翼をそっと彼の首に巻き付けて自分の体を支え、もう片方の翼を伸ばして進むべき方向を指し示した。

 他の羽を持つ生き物たちは散り散りになり、二人が通れる道を作った。

 エンギノがスイレンを見ると、彼女は肯定するようにうなずいた。

 彼はため息を飲み込み、不満を抑えながらその道を進み、攻撃的だった羽の生き物たちが消えていった氷のトンネルへと足を踏み入れた。

「君をデイジーって呼ぶよ、いいかい?君は柔らかくてまるでデイジー(雛菊)の花みたいだ。」とエンギノは胸に抱えた羽の塊に向かって言った。「それで、どこに行くんだい、デイジー?」

 これまでと同じように、デイジーは口を開けたものの、そこから音が出ることはなかった。

 エンギノは大きくため息をつき、ただデイジーの指示に従って進むことにした。

 何度か道を曲がりながら進んでいくうちに、地面が次第に下り坂になっていった。

 道はどんどん下へと続き、洞窟の奥深くへと導かれていた。

 左右にはメモリーストーンが光を放ち、道を照らしていた。

 その結晶のような光のおかげで、エンギノはトンネルの終点を見つけることができた。

 それはまた別の洞窟だった。大きな洞窟。

 そして、そこにはさらに多くの水があった。

 驚きながら、エンギノはその広大な空間へと足を踏み入れた。そこは、氷のドラゴンが3体眠れるほどの広さを持つカバーンだった。

 8つの湯気を立てる温泉が寄り添うように集まっており、それぞれが花でいっぱいだった。すべて淡い青色のスイレンで、ところどころに白い睡蓮の花が浮かんでいる。

 天井は小さな穴を除いて閉じられており、氷が壁を飲み込むようにして張り付き、岩肌がまるでダイヤモンドのように輝いていた。

 鏡のような壁面は温かな湯気で曇り、その霞が水面にキスをするように漂い、雲となって上へ上がり、換気口から消えていった。

 デイジーはエンギノから離れて横に浮かび、羽の塊が彼に道を譲るかのようだった。

 背後で何かがガサガサと音を立てた。

 エンギノが振り返ると、翼を持つ生き物たちが何体か後をつけてきたのが見えた。

 突然、そのうちの2体が彼の方へ飛びかかってきた。

 彼らはエンギノのスーツをいじり始め、翼の先端で彼のジッパーを引き下ろすと、手際よくスーツを脱がせていった。

 数回の動作で、彼はショーツ姿になってしまった。

 するとデイジーが素早く彼の方に向かって突進し、背中を押した。

 エンギノは前に倒れるように進み、温泉に落ちた。

 暖かな水が頭上にかぶさり、睡蓮の葉が彼の肌を撫でるように触れた。エンギノは息を止め、足をばたつかせながら浮かび上がった。「おい、なんだこれ…」と声を上げた瞬間、水が彼の顔に跳ね返った。

 次々と翼を持つ生き物たちが互いに引っ張り合いながら温泉に飛び込み始めた。彼らははしゃぎ、そして…笑っている?

 エンギノは唖然として彼らを見つめた。

 スイレンが彼の隣に浮かびながら微笑んでいた。

「ここに出口はないんだろう?」エンギノはおずおずと手の甲で頬をこすりながら言った。

 スイレンは口元を軽く引きつらせるような仕草で彼の言葉を肯定した。

 エンギノは水を素手ですくい、その冷たさと温泉の心地よい暖かさを交互に感じていた。

 空気は冷たいが、泉の湯はとても心地よく温かかった。

 その時、スイレンが翼を水中で動かし、勢いよく水をエンギノの頭に浴びせた。

「こいつ!」エンギノは反撃し、水をスイレンに向かって跳ね返した。

 水のかけ合いを楽しんだ後、エンギノはふと例の彼を唸り声で威嚇した生き物を見つけた。心の中で彼はその生き物を「トガリバ 」と名付けた。

 トガリバとその仲間たちは向かいの温泉で湯浴みをしていた。

 彼らの頭はエンギノの方をまっすぐ向いていて、不機嫌そうな様子が口元から見て取れた。

 彼らがエンギノを嫌っていることは明らかだった。

 エンギノは視界の端で、数体の翼を持つ生き物たちが泉に浮かぶ花の冠をむしり取って口に運び、のんびりと咀嚼しているのを観察した。

 彼らはまるで自分が食べ物と一緒にスープの中に浸かっていることを気にする様子もなく、ゆっくりと咲き乱れる花を噛みしめていた。

 スイレンもそれに倣い、水面から2つのスイレンの花を手に取り、満足そうに音を立てながら咀嚼した。

 その時、スイレンは顔をエンギノに向け、まるで「お前も食べろ」と言わんばかりの仕草をした。

 エンギノは礼儀として、自分も花を1つ口に入れた。

 お風呂の後、エンギノは明らかに気分がさっぱりし、満腹感もあった。それに加え、頭痛も完全に消えていた。

 彼が制服に袖を通した時、ポケットから何かが落ちた。

 それは金色の細長い金属製の筒で、チェーンが付いていた。その表面には「25」という番号が刻まれていた。

 エンギノはその物体を手に取り、あらゆる角度からじっくりと観察したが、それが何なのかは分からなかった。

 ただ、不思議と見覚えがある気がした。彼はそれを再びスーツのポケットにしまい、ジッパーでしっかりと封をした。

 その時、スイレンが彼に近づいてきた。彼女は両方の翼を彼の耳に当て、髪をかき分けて彼の傷を確認し始めた。

 すると突然、グルグルと音が聞こえたかと思えば、スイレンが彼の頭に何かを吐きかけた。

 次の瞬間、翼の先端でその粘液を頭全体に塗り広げた。

 エンギノはあまりの衝撃に言葉を失ったが、彼の目は雪玉のように大きく見開かれていたことだろう。

 スイレンが満足したように離れると、その羽を持つ生き物は得意げにニヤリと笑った。

 少なくとも彼女は幸せそうだった。

 エンギノは緊張しながら湯気の立つ温泉を見つめ、ふとある考えが浮かんだ。

「なあ…もしかして、お前が俺を風呂に入れたのって、この傷を洗うためだったのか?」

 スイレンはただ微笑むだけだった。

 次第に他の翼を持つ生き物たちが温泉から上がり始めた。

 彼らは羽毛をふくらませ、勢いよく身体を振って水気を飛ばし、乾かした。

 その後、背中の翼を広げて飛び立っていった。

 翼がたくさんあるにもかかわらず、実際に羽ばたくのは背中から生えている2枚だけだった。残りの翼は風を切るように流線型にたたまれていた。

 デイジーもまた宙を舞い始めた。

 羽の塊は太陽の周りを回る惑星のようにエンギノを一周してから、仲間たちに続いて氷のトンネルを抜け、カバーンを後にした。

 エンギノはスイレンに目をやった。

 その翼を持つ生き物はデイジーたちを追うようにと彼に合図を送った。

「まあ、いいか。」そう思い、エンギノは腰を上げた。

 彼が後を追っている間、スイレンは彼の隣を漂うように飛んでいた。

 今回はエンギノも特に質問をせず、どんな状況が待ち受けているかを覚悟しながら進んだ。

 そしてさらに驚いたのは、4つ目のトンネルを抜けたところで待っていた光景だった。

 次の氷の洞窟には、ほとんど何もなく、ただ浅い窪みがあるだけだった。

 翼を持つ生き物たちはその周りに集まった。

 彼らはまるで歌い出そうとするかのように口を大きく開け、喉の奥に光を溜め始めた。

 ドラゴンのように、それぞれが眩しい光線を吐き出した。

 その集中した光の炎で地面に溝を刻んでいた。細くて小さい溝を。

 エンギノは何にもっと驚くべきか分からなかった。

 エネルギー光線という自然の奇跡なのか、それともその攻撃が驚くほど非効率的である事実なのか。

「これ、新しい泉を作ろうとしてるんだよな?このペースだと永遠にかかるぞ。スコップとか、そういうの持ってないのか?」エンギノはスイレンを見つめながら言った。「要するに、掘るための道具とかさ。」

 スイレンは考えるように首を傾げ、それから振り返ってエンギノに手招きした。

 またしても、彼はその後を追いかけることになった。

 間もなく、スイレンは彼を別の洞窟へと案内した。

 それは一般的な食料庫ほどの広さしかない小さな洞窟だった。

 しかし、そこにあったのは缶詰や食料品ではなかった。

 そこにはサンダーガンの山が積み上げられていた。

 その合間にはブーツや壊れたアイスグライダー、人間が作った様々なものが散らばっていた。

 エンギノは目を見開きながらその発見物を見つめた。そして頭の中にある疑問が浮かび上がった。

 ~これらの武器の持ち主だった猟師たちはどこに行ったんだ?~

 彼の視線は自分のふくらはぎへと下がっていった。

 ~そうだ。~

 自分もピストルを奪われていたのだった。

 その事実が恐怖を呼び起こし、彼の脈拍は急上昇した。

 目覚めたときに感じたあの同じ恐怖が胸を締め付けた。

 そのせいか、彼の感覚は一気に鋭敏になった。

 頭皮に感じる湿った唾液が、まるで燃える氷のように熱く感じられた。

 そして彼は突然思い出した――トガリバはスイレンが間に入らなければ、すでに自分を殺していただろうと。

 スイレンとその仲間たちは自分を守ってくれた。

 ここでは、危険は迫っていない。

 その事実を理解するとともに、エンギノのパニックはすっと消えていった。

 スイレンが彼をこの場所に連れてきたのは、スコップを探すためであって、脅すためではなかった。

 それは、頭に残る粘液の感触と同じくらい確かなものに感じられた。

 エンギノはそこで、壊れたアイスグライダーの1つを手に取った。それがスコップ代わりに使える最適な道具だった。

 彼はそれを持って再び作業現場へと戻り、地面を掘り始めた。

 翼を持つ生き物たちが使ったエネルギー光線のおかげで、土はすでに柔らかくなり、掘りやすい状態だった。

 エンギノは地層を一層一層と剥がしながら、額から汗が滴り落ちるまで作業を続けた。

 彼が掘り下げたのはたった30センチ程度だったが、それでも広い範囲を処理できた。

 周囲では、翼を持つ生き物たちが彼を取り囲み、まるで舞台の観客のように興味津々で彼の作業を見守っていた。

「楽しんでるのか?」とエンギノが問いかけると、スイレンが翼をぱたぱたと動かして答えた。

 その合図で、翼を持つ仲間たちは洞窟の外へと素早く飛び出していった。

 再び戻ってきたとき、彼らの何体かは物置からアイスグライダーを持ち出していた。

 彼らはエンギノの真似をして地面を掘り始めた。

 しかし、その中の1体は別のものを持ち出していた。

 それはサンダーガンだった。

 その生き物は好奇心旺盛に銃のグリップをいじり回していた。

 すると突然、発砲音が響いた。

 エンターフックがまっすぐ群れの中に向かって飛んでいった。

「ダメだ!やめろ!」エンギノはその翼を持つ生き物を守ろうと飛び込み、電撃の餌食になりそうだった彼をかばった。

 エンターフックがエンギノの肩を掴み、彼は地面に倒れ込んだ。

 恐怖で唇を震わせながら、エンギノは痛みが襲ってくるのを待った。しかし…待てども痛みは来なかった。

 困惑したまま、彼はゆっくりと目を開けた。

 スイレンと仲間たちが心配そうに彼の上に身を乗り出していた。

 その隣にはトガリバが身を縮め、震えていた。

 エンギノは四つん這いになり、自分の身体を確認した。

 どうやら無事だったようだ。

 彼は立ち上がり、銃を持った生き物からサンダーガンを取り上げ、それを注意深く調べた。

 電流が流れていなかったことを確認し、彼はほっと肩の力を抜いた。

 そして、エンターフックを収納しながらこう言った。「こういうものには絶対触らない方がいいぞ。分かったな?」


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