第12話 (3/7)
エンギノが目を覚ますと、身体に暖かくて柔らかい何かが触れているのを感じた。
朦朧としながら目を開けると、彼の視界には無数の羽が広がっていた。
非人間的な顔が彼の上に覆いかぶさっていた。その顔を背後から翼が抱き込むように覆い、目を隠していた――いや、そもそも目があったかどうかも怪しい。
鼻はなく、そこにあるのはただ笑みを浮かべる口だけだった。その唇は雪のように白かった。
その青白い姿はゆっくりと後退し、宙に浮かびながら離れていった。
その存在の腕や脚はその名に値しないものだった。どの四肢も完全に白い羽毛で覆われており、まるで6枚の翼を胴体に縫い付けたかのようだった。
手足の代わりに関節は翼の先端で終わっていた。
その身体は子供ほどの大きさしかなかったが、明らかに危険なオーラを放っていた。
その姿は、エンギノにとって懐かしさと未知の感覚が入り混じったものだった。一度も見たことがないという確信があるのに、それでも彼はその存在を恐れていた。その脈拍の速さが、それを物語っていた。
エンギノは自分がどこにいるのか全く分からなかった。
ただ一つ分かっているのは、心臓が激しく鼓動しているということだった。彼を動けなくするのは恐怖だった。
呼吸さえも恐れるほどだった。
手首にあったはずの拘束具はなくなっていた。それは、何かが彼に起こった証拠だった。
エンギノはその姿が完全に去るまで、一分間じっと動かずにいた。そして恐る恐る周囲を見回そうとしたが、その急な動きが激しい頭痛を引き起こした。
痛みに圧倒されないように、彼はじっと静止するしかなかった。
エンギノはポンポンの花でできた巣の中に横たわっていた。場所は氷の洞窟のようだった。
滑らかな鏡のような壁が、青く輝くメモリーストーンの結晶が放つわずかな光を反射していた。
彼の周りには無数の翼を持つ存在が寄り添い合い、暖を取るようにして眠っており、エンギノはその真ん中にいた。
エンギノは慎重に上半身を起こした。
そのとき初めて、自分の上にふわふわした生き物が乗っていることに気がついた。
その生き物は翼をしっかりと彼の身体に巻き付け、まるで息を詰まらせるかのようだった。
もしかして、自分はこの生き物の獲物なのか?
そう思うと、エンギノは冷や汗が出てきた。
彼はその生き物を胸から引き剥がそうとした。
肩を掴んでみると、その身体がどれほど軽く、そして力のないものかが分かった。
その瞬間、生き物が目を覚ましたように身じろぎし、口を開けた。
しかし、何の音も出さなかった。
そして突然、エンギノに飛びつき、再び翼をしっかりと彼に巻き付けた。
その攻撃にエンギノは全く準備ができておらず、慌てて両腕をばたつかせてその生き物を振り払おうとしたが、そこで気づいた。
この羽だらけの生物は自分を傷つけるつもりはないのだ。
ただ彼を抱きしめているだけだった。
エンギノは困惑して、その自分にしがみつく存在を見つめた。
それまで感じていた恐怖は、古びた塗装が剥がれ落ちるように消えていった。
彼は顎を胸元に落としながら言った。「お願いだから、離してくれないか?」
それは首を彼の方に向け、唇を動かした。しかし、またしても音は出なかった。そして彼を放す気配もなかった。
エンギノはため息をつき、翼の生き物を胸に抱えたまま立ち上がった。
周囲に寝ている者たちを踏まないよう注意しながら、そっと彼らの間を歩いた。
視線を眠っている存在たちに向けると、同じように互いを抱きしめ合うようにして眠っている個体がいくつもいることに気がついた。
「なあ…」エンギノは下を見下ろしながら言った。「寒いのか?俺のことを湯たんぽにしてるのか?」
その羽だらけの塊は答えなかった。
「それとも、俺を暖めようとしてるのか?」エンギノは考え込んだ。「俺は厚いスーツを着てるから凍えたりしない。でも、もし君が寒いなら…」
羽毛の塊はその腕を解き、ふわりと飛び去っていった。
呆然としたまま、エンギノはその姿を見送った。
すると、先ほどトンネルを通って去っていったもう一つの生き物が戻ってきた。
その翼の先端で折りたたまれたスイレンの葉を抱えていた。その葉には、水蒸気のように湯気を立てる水の華が包まれていた。その羽毛に包まれた存在は、エンギノの鼻先にその葉を差し出し、彼の反応を待っていた。
エンギノはためらいながら、自分の顔から呼吸用マスクを外し、花の冠を一つ取り出した。
そして息を吹きかけ、一口かじった。
それは熱くはなく、ぬるい程度だった。
苦みとスパイスのような風味が舌の上に広がっていく。
それは意外にも美味しかった。
彼は飲み込んでから言った。「ありがとう。」
それを聞くと、真っ白な唇がふわりと微笑みに形を変えた。
エンギノは、これらの生き物が自分の言葉を理解しているのではないか、という不安な感覚に襲われた。「君、名前はあるか?もしないなら、スイレンって呼ぶよ。水の華にちなんでね。」
スイレンはふわりと宙に浮かんで遠ざかっていった。
「待ってくれ!」とエンギノは追いかけようとしたが、激しい頭痛に襲われた。一瞬立ち止まり、脈打つ痛みが和らぐのを待ってから、再び歩き出した。
「どうやってここに来たんだ?ここはどこだ?町まで遠いのか?ニューシティに戻る方法を知ってるのか?それと…」
スイレンの後を少し距離を取って追いながら、エンギノは言葉を続けた。「もし君たちが俺の言葉を理解できるなら、なぜ答えないんだ?」
スイレンはエンギノの質問を無視して、ひたすら前へと浮かび続けた。
それでもエンギノは諦めなかった。忍耐強くスイレンの後を追い、ついに追いついた。
トンネルは別の洞窟へと繋がっていた――少なくとも、そう思えた。
しかし近づくにつれ、エンギノは天井に大きな穴が開いていることに気づいた。
その広い裂け目から見えるのは、その先に広がるものだった。
霧が白い雲を覆い隠し、空全体を単色の灰色に変えていた。
エンギノは驚きのあまり見上げ、温かいフードを被り直した。「ここは地表だ!すごいな!」
~チャプン!~
エンギノは足元に目を向けた。
そのとき初めて、自分の前に広がる池に気づいた。
それは泉がクレーターを満たしてできたものだった。
水面には無数のスイレンが浮かんでおり、その中央にはスイレンがいた。羽を持つその生き物が水面から顔を出し、一つの翼を振ってエンギノに手招きをしていた。湯気が立ち上り、霧のようにその体を包み込んでいた。
「俺も入れってことか?」エンギノは推測しながら尋ねた。
それを聞いてスイレンは微笑んだ。
エンギノも微笑み返したが、首を振った。「いやいや、遠慮しておくよ。俺が入ったら、みんなの食欲を台無しにするかもしれないしね。」
彼は楕円形の葉の間で太陽に向かって伸びる白と青の花をじっと見つめた。
スイレンは翼で下を指し示し、彼が水に入ることを強く勧めるような仕草をした。
「下に出口があるのか?」エンギノは考えながら言った。
その唇が再び笑みを浮かべ、スイレンはもう一度手招きした。
「深いのか?水の中じゃ息ができないぞ。このマスクを着けてても無理だ。」
スイレンは手招きを止めた。
それは明らかだった。エンギノはため息をついた。「でも、それが火山への唯一の道ってわけじゃないよな?」