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第47B話 (6/19)

 

 彼はこれまでの人生をずっとあの小さなアパートで過ごしてきた。

 外に出た回数は少なく、そのすべてを今でもはっきり覚えているほどだった――

 そんな彼を、母親が初めて家の外へ連れ出した。

 嬉しくて、耳まで届くような笑顔がこぼれた。

 彼は通り過ぎる木を一本ずつ数え、街灯も見逃さずにチェックし、刈りたての芝生の香りを胸いっぱいに吸い込んで、フェニックスの太陽の光を全身で感じた。

「また迎えに来るからね。」そう母は言いながら、鉄でできたバラのアーチの前で立ち止まった。

 彼はその金属の花を二十個、数えた。

 玄関のドアが開き、ジャーメインおばさんが出てきた。

 彼は手を振って「いってらっしゃい」と母に挨拶したが、母は応えなかった。

 代わりに、カレンデュラのマークが描かれた箱をジャーメインに手渡し、何も言わずに背を向け、そのまま歩き去っていった。

「お母さんは、あんたのために働きに行くのよ。」ジャーメインはそう言って、箱を軽く振った。

 中でクッキー同士がぶつかる音がした。

「ちゃんと食べて、大きく強くなれるようにね。」

「ちゃんと食べるために?」

「そう。食べるためには働かなきゃいけないのよ。何もしなかったら、お腹は満たされないの。」

「ふうん。じゃあ、おばちゃんも働きに行かなきゃダメなんじゃない?」

 ジャーメインは笑った。「おばちゃんは週末に働いてるのよ。」

 彼女は赤いドアを開けて家の中へ案内した。

 最初に見せてくれたのはバスルーム。

 そのあと彼を子ども部屋へ連れて行った。

 部屋の中には、彼が見たこともないようなものが散らばっていた。

 ほとんどがプラスチックでできていて、人の形をしたものもあれば、そうでない不思議な形のものもあった。

 いくつかは、他の部品と組み合わせて遊ぶことができるようだった。

「紹介するわ。彼らはあんたのいとこたちよ。」ジャーメインは床に座っていた三人の子どもたちに声をかけた。「ママが迎えに来るまで、みんなで仲良く遊んであげてね。エコーに優しくしてあげて。」


 xxx


 三つ子たちから、エコーはたくさんのことを学んだ。

 プラスチックでできたあの物たちは「おもちゃ」と呼ばれていて、

 その中でも「フィギュア」と言われるものには「ドラゴン」という名前のものもあった。

 今までエコーは、ドラゴンとは「食べ物」のことだと思っていた。

 でも、どうやらドラゴンは「食べ物になる存在」らしい。

 きっと、大人たちが話す「仕事」と関係しているのだろう。

 夕方、ホリスターさんが部屋に入ってきて、三つ子たちにあいさつをした。

 手にはカレンデュラクッキーが乗った皿を持っていた。

 彼の視線がエコーに留まると、彼は目を細めた。ドラゴンのように。

「お前がルシンダの息子か。」おじさんは団子鼻をしかめて言った。「親みたいにならないよう、しっかりしろよ。」

 そう言い残し、彼は部屋を出て行き、ドアを静かに閉めた。


 xxx


「ねえ、ママ?」

 ルシンダはその日一日の疲れでソファに寝転び、フェアリーブラッドをグラスに注いで飲んでいた。

「なによ?」苛立たしげにうめいた。

「ぼくのパパって、どこにいるの?」

「知らないわよ。」彼女はグラスの中身に視線を戻した。

「パパも、魔法使いなの?」

「ちがう。」

「ねえ、ドラゴンって……」

「うるさいわね。くだらないこと聞いてないで、なんか食べなさい。

 桜の花のペースト缶、買っておいたから。」

 エコーは黙りこみ、床に転がっていた買い物袋の中から言われた缶を取り出し、それを母親に差し出した。

 開けてもらうために。


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