第47B話 (4/19)
妹はほぼ毎日のように顔を出し、少年の様子を見に来ては最低限の世話をしてくれた。
自分にも三人の子どもがいるというのに、だ。
彼女の度重なる小言に押されて、ルシンダは少しずつ外に出るようになった。
煙の渦の中で一人沈む日々から、抜け出すきっかけになったのは間違いない。
街に出て、酒場を巡り、新しい人間関係を築き、人生を初めて自分のものとして楽しんだ。
現実逃避かもしれなかったが、少なくとも妹からの説教は聞かずに済んだ。
止まっていた時間が、ようやく動き出したのだ。
その一方で、少年はすくすくと成長し、人間らしい姿を少しずつ見せはじめた。
目の色を除けば、彼女とはまるで似ていなかった。
そのアクアマリンの瞳だけが、アブラ家の血を受け継いでいる証だった。
少年が三歳を迎えた頃、最後の社会補助金が支給された。
彼の髪はすでに深いバーガンディに染まり、ジャーメインが切り揃えたパッツンのボブカットをしていた。
ルシンダは、息子を見るたびに嫌悪感に襲われた。
「覚えが早いわね」ある日、ジャーメインが言った。「年齢のわりに小柄だけど、そのぶん理解力が高いのよ。あんた、誇りに思っていいのに。」
ルシンダはうんざりしたようにうめいた。「で?他にあたしに言いたいことでもあるの?」
ジャーメインは腕を組みながら言った。「来月からは、国が家賃を出してくれなくなるわ。仕事、探してるの?」
それを聞いたルシンダは、くくっと喉を鳴らして笑った。「は!誰があたしを雇うっての?」
「うちの店、レジ係が足りてなくて……」
「はあ?あんたの店で働けって?」ルシンダは聞き間違いかと思った。
「私の店じゃないよ。私もただの従業員。でも今、人手が足りてないの。あんたのこと、うまく推薦してあげられると思って。」
ルシンダは少し考えた後、鼻で笑った。「あー、なるほどね。そういうことか。」
ジャーメインはきょとんとした顔をした。「つまりさ、今まで家賃で儲けてたわけだ。だからこれからも、あたしに貢がせたいってわけ。」
「ちょっと!確かに家賃は払ってほしいけど、当たり前でしょ?他の住人もみんな払ってるのよ?でもあんたは妹だから、特別に家賃を下げてたの!
その分、長く支援金でやっていけるようにしてたのに!もう限界よ、そろそろ現実を見なさいよ!」
ルシンダは首を横に振った。「言い訳しても無駄よ。結局、あんたが一番大事なの。」
ジャーメインの頬に赤い斑点が浮かんだ。「違う!ずっとあんたを助けてきたじゃない!」
「ママ?」
その声に、二人は驚いて入口の方を見た。
そこには少年が立っていて、まっすぐジャーメインの元へと歩み寄ってきた。
「私はあんたのママじゃない。」ジャーメインはしゃがみこみ、優しく背中に手を添え、ルシンダのほうへ押し戻した。「この人が、あんたのママよ。」
少年がどれだけ笑顔を見せようと――
ルシンダにとっては、その存在自体が吐き気を催すものだった。