表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

215/218

第47B話 (4/19)

 


 妹はほぼ毎日のように顔を出し、少年の様子を見に来ては最低限の世話をしてくれた。

 自分にも三人の子どもがいるというのに、だ。

 彼女の度重なる小言に押されて、ルシンダは少しずつ外に出るようになった。

 煙の渦の中で一人沈む日々から、抜け出すきっかけになったのは間違いない。

 街に出て、酒場を巡り、新しい人間関係を築き、人生を初めて自分のものとして楽しんだ。

 現実逃避かもしれなかったが、少なくとも妹からの説教は聞かずに済んだ。

 止まっていた時間が、ようやく動き出したのだ。

 その一方で、少年はすくすくと成長し、人間らしい姿を少しずつ見せはじめた。

 目の色を除けば、彼女とはまるで似ていなかった。

 そのアクアマリンの瞳だけが、アブラ家の血を受け継いでいる証だった。

 少年が三歳を迎えた頃、最後の社会補助金が支給された。

 彼の髪はすでに深いバーガンディに染まり、ジャーメインが切り揃えたパッツンのボブカットをしていた。

 ルシンダは、息子を見るたびに嫌悪感に襲われた。

「覚えが早いわね」ある日、ジャーメインが言った。「年齢のわりに小柄だけど、そのぶん理解力が高いのよ。あんた、誇りに思っていいのに。」

 ルシンダはうんざりしたようにうめいた。「で?他にあたしに言いたいことでもあるの?」

 ジャーメインは腕を組みながら言った。「来月からは、国が家賃を出してくれなくなるわ。仕事、探してるの?」

 それを聞いたルシンダは、くくっと喉を鳴らして笑った。「は!誰があたしを雇うっての?」

「うちの店、レジ係が足りてなくて……」

「はあ?あんたの店で働けって?」ルシンダは聞き間違いかと思った。

「私の店じゃないよ。私もただの従業員。でも今、人手が足りてないの。あんたのこと、うまく推薦してあげられると思って。」

 ルシンダは少し考えた後、鼻で笑った。「あー、なるほどね。そういうことか。」

 ジャーメインはきょとんとした顔をした。「つまりさ、今まで家賃で儲けてたわけだ。だからこれからも、あたしに貢がせたいってわけ。」

「ちょっと!確かに家賃は払ってほしいけど、当たり前でしょ?他の住人もみんな払ってるのよ?でもあんたは妹だから、特別に家賃を下げてたの!

 その分、長く支援金でやっていけるようにしてたのに!もう限界よ、そろそろ現実を見なさいよ!」

 ルシンダは首を横に振った。「言い訳しても無駄よ。結局、あんたが一番大事なの。」

 ジャーメインの頬に赤い斑点が浮かんだ。「違う!ずっとあんたを助けてきたじゃない!」

「ママ?」

 その声に、二人は驚いて入口の方を見た。

 そこには少年が立っていて、まっすぐジャーメインの元へと歩み寄ってきた。

「私はあんたのママじゃない。」ジャーメインはしゃがみこみ、優しく背中に手を添え、ルシンダのほうへ押し戻した。「この人が、あんたのママよ。」

 少年がどれだけ笑顔を見せようと――

 ルシンダにとっては、その存在自体が吐き気を催すものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ