第51A話 (1/2)
別の方向から、炎のブレスが空を裂いた。
だが驚くべきことに、それはフレームを狙ったものではなかった。
標的は――ディリーと99を飲み込んだ、あの氷竜だった。
巨大な顎が開き、彼女たちは胃袋に落ちる直前、間一髪で外へと飛び出した。
あのブレスは……
フレームの視線は煙を追い、その発射源を探した。
そして、ついに目にした――
同族に牙を剥いた一体の氷竜。
その背中、つららのような鋭い突起に覆われた鱗の上には、
一人の人影が乗っていた。
猟師だ。
フレームは視界をはっきりさせようと、目を細めた。
――猟師“だった”。
いや、猟師“彼女”だ。
ようやく、はっきりと確認できた。
あれは――キャプテン・ティタニア・パブロンだった。
アトラスを、騎乗用のモンスターとして従えている。
迎撃された氷竜は、援軍の登場に激怒し、攻撃を仕掛けてきた。
だがティタニアは、一人ではなかった。
雲の中から、モンスター猟師の部隊が続々と出現する。
すべての隊員が戦闘態勢に入り、高速飛行する狩猟竜の背に乗って敵陣へ突入していく。
その間にも、フレームの砕けた身体は再生を進めていた。
ついには最後の爪まで元通りになった。
――ただし、かつて失った足の指だけは、戻ってこなかった。
鈍い痛みを引きずりながら、フレームは上体を起こし、立ち上がろうとする。
そのとき、23が彼のそばに着地した。
「お前、本物の魔法使いだったのか……」
彼は感嘆と共に言った。
「完全に死んでたぞ。俺、見たんだ。」
「俺たち二人とも、すぐに死ぬかもしれない。助けてくれ。」
フレームは顔を少し動かし、視線で示した。
――その先、地平線の彼方から押し寄せる、無数の野生モンスターたち。
狩猟竜は身を低くし、フレームが乗りやすいように態勢を整えた。
再生のおかげなのか、それともそのせいでか、フレームはひどく目が回っていた。
それでも意識を集中し、エネルギーを高めることに全力を注いだ。
「絶対に……絶対に……!」
もう二度と、仲間が食われる姿なんて見たくなかった。
だが、敵の氷竜は今もなおディリーを狙っている。
何度も何度も、彼女に食らいつこうとしていた。
いまはまだ、彼女は回避できている。
今のところは――
そのとき、アトラスが部隊から離れ、急降下してフレームと23の前に着地した。
そしてその背に乗る女騎士が、厳然と言い放った。「あなたたちを拘束します。国家への反逆罪の容疑で。」
「マジかよ……本気で言ってんのか、こいつ……」アトラスがぼやいた。
フレームの脳内にさらに多くの疑問符が浮かぶ前に、ティタニアが説明を始めた。
「君の言う通りだったよ、竜を従えし者。生まれたばかりの子には、言葉は通じない。でも……」
彼女は鞍の上に立ち、アトラスの背中に並ぶつらら状の棘のひとつに手を添えた。
「……大人には、通じる。」
「君が人とモンスターの戦争を終わらせようとしていることは、私たちも知っている。
そして、私たちはその目的を支援する。」
フレームは唖然として口を開けたままだった。
「……パブロン家、全員が……?」
「違うわ。」
その一言は、冷たい刃のように空気を切った。
「私だけ。そして、私に従う者たちだけ。」
ティタニアは腕を組んだ。
「モンスターも、人間と同じ“人”であるなら……」
銀髪の隙間から覗く紅い瞳が、強い決意で輝く。
「共に地上を分かち合えるはずよ。」
「……本当に、そんなことができると?」
フレームの中に、疑念が芽を出していた。
血に染まった手を見下ろし、
エコーの言葉が、彼の頭の中を何度も何度も踏みつけるように鳴り響いていた。
――「敵を殺すのは簡単だ。
でも、敵を生かして捕らえることは、はるかに難しい。
とくに、その敵が“服従するくらいなら死を選ぶ”タイプだった場合はね。」
「私は、その困難に挑んでみたい。
君がすでにやってのけたことを、私も成し遂げたいの。
……まあ、私は“悪評”を失うわけにもいかないしね。」
ティタニアは、片方だけ口角を上げて笑った。
伝説の女――ティタニア。
あの「ティタニア・スレイヤー」。
彼女の心変わりは、フレームの胸を深く揺さぶった。
だが同時に、彼の中のもう一つの声が、強く否定しようとしていた。
ティタニアが今からやろうとしていること。
それをフレームは、できなかった。
むしろ――惨めに、失敗した。
捕らえることに最も向いていない人間がいるとすれば、それはフレームだった。
彼らが雪と氷の下に埋めた「第一国家魔法使い」の遺体が、それを何より雄弁に物語っている。
……だが、次こそはうまくやれるのかもしれない。
もしかすると、次こそは――
本当に、自分をそんなに強いと思ってるのか、ゴスター?
エコーの声が、再び心の奥底から響いてきた。
「……次」なんて、あると思っていいのか?
また失敗したら……?
フレームは絶望のように、強く目を閉じた。
――答えは、分からなかった。