第50A話 (1/2)
現在
テントをたたみ、荷物をすべて収納したあと、彼らは飛び立った。
ディリーは99に乗り、エンギノは104の背にある御者台に腰を下ろした。
最初は快晴で空も澄み渡っていたが、間もなく雲が日差しを遮り始め、大地に影を落とした。
雪の結晶が次第に増えていき、視界が悪くなっていく。
だが、嵐の気配はなかった。コンソールの中に咲いたシルバーアザミは、まだ元気に花を開いていた。
灰色の空の中を飛び続けておよそ三十分ほど経ったころ――
フレームのすぐ隣に、騎手の乗っていない狩猟竜が姿を現した。
鞍も手綱もないその姿に、フレームは不審を覚えた。
「名前は? 君の猟師はどこにいる?」
その竜は低く唸り声を上げ、23の脇腹に頭突きをかました。「オレが猟師だ!」
フレームはその衝撃で鞍から振り落とされそうになったが、とっさに鞍の角を掴み、身体を持ち上げた。
さらに別の野生の狩猟竜たちが次々と姿を現した。全部で七体――
どれも好戦的で、執拗に飛行ルートを妨害してくる。
ディリーと99は巧みに回避を続けていた。
さすがはランク12。
もし解体訓練でフレームが足を引っ張っていなければ、もっと上にいっていたかもしれない。
「先に行け!」フレームはエンギノと104に向かって叫んだ。「隔離ゲートで合流だ!」
エンギノは一瞬ためらったが、すぐに手綱を鳴らして、素直に飛び去っていった。
「話をしよう!」フレームは野生のモンスターたちに向かって叫んだ。「俺たちは、君たちを傷つけに来たわけじゃない!」
左にいた狩猟竜が、面白がるように鳴いた。「でも俺たちは、お前らを傷つけに来たぞ!」
彼と仲間たちは再び編隊を組んで、突撃態勢に入った。
23は敵の突進を避けるため、急な飛行機動を取りながら、フレームは叫び続けた。
「俺たちは、モンスターと人間の間の言葉の壁を壊したいんだ!人間全員に、君たちの声が届くようにしたい!俺たちは、戦いたくない!頼む……邪魔をしないでくれ!俺は君たちを殺したくない!」
その瞬間、彼の頭によぎったのは――父の言葉だった。
~言うべきは、やりたくないことじゃない。やりたいことを口にしろ。~
フレームは息を詰め、叫んだ。「俺は、君たちの友達になりたい!」
突如として、狩猟竜の群れが一斉に散った。
フレームの言葉が、彼らの心に届いたのだ。
彼は何かを変えた――そして、エコーは間違っていた。
対話によって、衝突は回避できる。
そう、思っていた。
……だが、その考えはすぐに打ち砕かれることになる。
突如、彼の顔に深い影が落ちた。
フレームが頭上を仰ぐと、そこにはアトラスの二倍はあろうかという巨大な氷竜がいた。
その翼の羽ばたきに合わせて、空気が振動する。
――最悪だ。
いつも陽気なディリーですら、その怪物の姿を前にして笑顔を失った。
「人間が我らの友になることなど、決してない!」氷竜が口を開き、低く響く声でうなった。
その喉奥に集まり始めたブレスは、ディリーを真っ直ぐ狙っていた。
「伏せろっ!!」フレームが必死に叫ぶと同時に、炎が吐き出された。
ディリーと99は急降下に移り、燃え盛る死の直撃を間一髪でかわした。
フレームも彼女たちの軌道に続き、必死に距離を取ろうとした。
さらに三本のブレスが追いすがるように放たれた。
フレームが後ろを振り返ると、最初の個体に加えて、同じくらい巨大な氷竜があと二体――
合計三体が空を支配していた。
「クソッ……またかよ……」フレームはうめき、汗が首筋を伝って流れ落ちる中、武器のグリップに手をかけた。
彼は23を操り、敵の正面へと切り込んだ。
必要とあらば、殺す覚悟で――
モス、ディリー、そしてパブロン兄弟の命を守るために。
出力を最大にまで引き上げた。
こんな巨大な鱗の怪物には、生半可な一撃では効かない。
下手をすれば五十発は必要だろう。
それでようやく、致命傷に届くかどうかといったところだ。
だからこそ、猟師たちはこうした大型種に対して、複数人で同時にエンターフックを撃ち込む。
雷撃の連打が集中すれば、どんなに巨大な竜でも地に堕ちる。
だが今、フレームは――
たった一人だった。いや、正確にはほぼ一人。
彼の隣には、ディリーと99が並走していた。
戦う覚悟を決め、彼を支えるように飛んでいた。
三人は氷竜の胴体周囲を旋回しながら、炎の直撃を避けようとしていた。
「怪我してるじゃないか!ここは僕に任せて!」フレームが叫んだ。
「大丈夫だって。」ディリーは二丁のサンダーガンを抜き、かつてフレームがアトラスを撃ち落としたときの戦法を真似た。
ちょうど両翼が中央で打ち合わさるその瞬間を狙い、翼の先端へ照準を合わせる――
電撃の衝撃により、氷竜はバランスを崩し、滑るように落ちていった。
持ち直すかどうかは、様子を見ればわかる。
だが、悠長に見届けている余裕はなかった。
炎が襲ってくる前に、二人は次のモンスターへと素早く飛び移った。
ディリーは再び射撃の構えを取り、フレームはただ祈った。
さっきの氷竜が、簡単に立ち上がってこないように――と。
次の相手では、フレームも援護に回った。
二人はタイミングを計った。
いち、に、いち、に……
翼が垂直に立ち上がったその瞬間、
四つのエンターフックが翼の先端に同時命中し、怪物を急降下させた。
残るはあと二体の巨竜。
そして、野生の狩猟竜たち。
フレームは浅く息を吸い、次の標的に意識を集中した。
そのとき――
地平線の向こうから、さらなるモンスターの群れが雲の間を突き破って現れた。
――なんてことだ。
心臓が一拍、止まった。
遥か彼方の点は、無数のドラゴンだった。
少なく見積もっても二十、いや四十はいる。
しかもそのすべてが、こちらに向かって突き進んでくる。
~本当に、自分をそんなに強いとでも思ってるのか、ゴスター?~
エコーの言葉が脳裏に甦る。
――警告はされていた。
人類を滅ぼすことしか頭にない、憎しみに満ちた何百ものモンスターの存在を。
その瞬間、フレームの頬を一筋の涙が伝い――
火炎の直撃を受けて、鞍から吹き飛ばされた。