第48A話 (1/2)
9年前
14,596年
闇の時期 第11日
「またタバコなんか吸って……。」
キエロがタバコを手にしているのを見つけた父親――大佐は、怒りながら注意した。
「パブロンの名に相応しくない行為だぞ。」
彼はキエロの手からタバコを取り上げ、空の皿の上で揉み消した。
エンギノはその様子を食い入るように見つめていた。
キエロが何かするたびに目を輝かせる――いつもそうだ。
あいつの頭の中は空っぽの花瓶より軽い。何でもかんでもすぐに感動して、めちゃくちゃうざい。
呼吸してるだけでも感動できるんじゃないかと思うほど、どこかイカれてるガキだった。
「お前に関係ねーだろ。」キエロはふてくされたように腕を組んだ。「普段は俺らのことなんかどうでもいいくせに。」
物心ついたときから、弟の面倒を見るのはキエロの役目だった。
両親はいつも家におらず、やることが山ほどあるとか言って、
結局ちっこいクソガキの世話は兄貴に押しつけられたままだった。
キエロはもう、ママごっこにうんざりしていた。
パブロンの血を引く者として課せられる義務や制約、そのすべてにうんざりだった。
父親は鋭い目で彼を睨みつけた。
「もう一度、“愛されてない”なんて口にしてみろ。本当にそうだったら、どうなるか教えてやる。」そう言い残し、父は部屋を出て行った。扉が閉まる直前、彼はこう叫んだ。「弟のこと、ちゃんと見ていてやれ。」
「チッ……」
キエロは皿の上の潰れたタバコを見下ろし、残念そうにソファへと沈み込んだ。
そして、ズボンのポケットから隠していたタバコの箱を取り出し、新しい一本に火をつけた。
煙が肺に届いた瞬間、彼の意識はトランス状態に入った。
何度も何度も、彼の中で「一番幸せだった記憶」が再生される。
――その意識を破ったのは、母親の絶叫だった。
「起きて!起きなさい!」母は泣きながら叫び、すすり泣きながら弟の背中を叩いた。「どうして弟を一人にしてたのよ!?吐き出しなさい、エンギノ!」
エンギノはゲップをした。
キエロは眉をひそめた。「おい……まさか、お前……俺のタバコ食ったのか?」
エンギノの瞳孔が開いた。「きみは……だれ?」
その瞬間、キエロの中にパニックが広がった。
タバコの煙を吸ったときの精神的影響についてはある程度知っていた。
だが――食ったらどうなるのか?
その影響までは想像がつかなかった。
もしもこのせいでエンギノに後遺症が残ったら……
それは、完全に自分の責任だった。
「座れ。」キエロはそっと弟の腕を取り、ソファへと導いた。「大丈夫か……?」
それから一時間、キエロと母はエンギノの記憶を呼び戻そうと必死になった。
やがて、エンギノは疲れ果てて眠ってしまった。
医者を呼んでいる最中、ちょうど到着したタイミングで、エンギノはまるでスイッチが入ったかのように目を覚ました。
「ママ?どうして先生がいるの?僕、病気なの?キエロが病気なの?」寝ぼけまなこで、そんなことを呟いた。
母もキエロも驚いて、何度も呼びかけた。
どうやら、彼の様子はもう正常に戻っているようだった。
エンギノは、煙草を飲み込んだ瞬間までのことをすべて覚えていた。
医者は彼の全身を隅々まで診察したが、異常は見つからなかった。
「神々に感謝を……!」
母はエンギノを強く抱きしめた。
――その日から、キエロは罪悪感を抱え続けた。
それ以降、弟のことを決して目から離さなかった。
預かる時は、常に全力で向き合った。
話しかけ、本を読み聞かせ、一緒に遊び、子どもが笑うためにできる限りのことをした。
そして、もう二度と――タバコに手を出すことはなかった。