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第47A話 (4/5)

 

 3年前


 14,602年

 収穫期 第75日



 氷河の天井にできた裂け目から、ぽつぽつと雪の結晶が降り注いでいた。

 鏡のように滑らかな氷の壁は、差し込む光を反射している。

 クリスタルの洞窟は、まるで炎に照らされた研磨済みのダイヤモンドのように輝いていた。

 モスはアイスグライダで荒野を滑走していた。

 彼のすぐ後ろには、二人のチームメンバー。

 ――だけではない。他の複数のチームも彼らの後を追ってきていた。

 その中には、もちろんエンギノのチームもいた。

 モスはため息をついた。

 こんなガキの遊びに付き合ってるヒマはねぇっての。

 視界の端で、ジモンが別ルートを取ったのを確認した。

 頭のいい子だ。

 モスは、追っ手をまくことに決めた。

 彼は斜面を滑り降り、一瞬の間、他のチームは視界を失った。

 モスはアイスグライダから降り、背中のマグネットにカチャリと固定した。

 仲間の二人も同じように続いた。

 三人はこっそりと反対方向へと移動した。

 肩越しに振り返ると、他の取り巻きどもは躊躇なく偽のルートを進んでいった。

 おそらくその先は、トゲバラの茂った森――つまり、行き止まりだ。

 煩わしい尾行者から解放されたモスたちは、氷と雪の中を進み、再びクリスタルの洞窟を抜けていった。

 ――と、モスは思っていた。

 だがその背後で、何かが擦れるような音がした。

 まるで、誰かが後ろから滑走してきているような音だった。

 彼らの目の前には凍りついた湖が広がっていた。

 本来の計画では、その湖の岸辺を慎重に歩いて進むはずだった。

 ――だが、もし尾けられているのなら、そんな悠長なことは言っていられない。

 モスは追い抜かれるわけにはいかなかった。

 ランクを落とすなんて、論外だった。

 そして、仲間たちもまた、10ランクアップのチャンスを手放すつもりはなかった。

 三人はすぐに意見を一致させた。全力でスピードを上げると決め、再びアイスグライダに飛び乗った。

 勢いよく滑走し始めたそのとき、追跡者たちが姿を現した。

 言うまでもなく、それは――エンギノ・パブロン。パブロン家の末っ子である。

 彼とそのチームが、モスたちに遅れをとらぬよう速度を上げてきたのだ。

 だが、モスと違って、エンギノは授業をちゃんと聞いていなかった。

 本来なら、凍った湖の岸辺に沿って移動すべきところを、

 パブロンさんは氷の湖面をショートカットしようとした。

 その瞬間、アイスグライダの下で氷がミシミシと音を立て始めた。

 そして、たった3メートル進んだところで――氷が割れた。

 ばしゃん、という水音が響き渡り、モスは即座に振り返った。

「マジかよ……」

 モスは呻き声を上げ、即座に逃走を断念することにした。

 エンギノの仲間たちは、溺れている彼に近づこうとしてさらに氷を割り、状況を悪化させていた。

 湖面のあちこちで氷が割れ、冷たい水がその姿を現す。

「そこから離れろ!」モスは叫ぶと、岸辺の中で最も安全に立てそうな場所に立ち、リュックをまさぐった。

 そして、ロープを見つけ出した。

 エンギノは水の中で必死にもがきながら、呼吸をしようと苦しんでいた。

 モスはロープを投げた。

 ロープは氷の割れ目のすぐ手前、数センチのところに落ちた。

「右だ! 右にある! それ掴め! そして落ち着け、小さな人魚!」

 この侮辱が効いた。

 エンギノがそれを聞き逃すはずがなかった。

 必死でロープの先を掴もうと手を伸ばし、ついに掴んだ。

 モスのチームメンバーたちも岸に到着し、彼と一緒にその“小さな人魚”を氷水から引き上げた。

 エンギノの体はびしょ濡れで、全身がガタガタ震えていた。

「テント張った方がいいな。」彼の仲間がリュックを地面に置きながら言った。「このまま死なれたら面倒だ。」

「ネイ、ネイ、ネイ、ナイ……」エンギノは舌ったらずに呟いた。「……先に進もうぜ。」

「今ここでストーブの前に座らなかったら、ほんとに死ぬぞ。」モスが言い放つ。「馬鹿言うな。」

「ネイ……ネイ……ナイ……」エンギノは怒り顔になったかと思うと、そのまま崩れ落ちた。

 仲間が地面に頭を打つ寸前で受け止める。

「やべぇ。もう時間がねぇ。どうする?」

 モスはため息をついた。

 そして、彼もまたリュックを肩から降ろし、テントを組み立て始めた。

 五人で協力すれば作業は早く、まもなく電気ストーブの電源も入った。

 エンギノの顔色は死人のように青白かったが、まだ呼吸はしていた。

 ストーブの暖かさが効いてきた頃、モスは意識を失ったパブロンさんの服を脱がせ始めた。

「ちょ、ちょっと何してんの!?」とチームメイトの一人がパニック気味に叫んだ。

 その横で、モスの女性隊員は突然鼻血を吹き出した。

 ティッシュを探しながら、「ホホホ……」と笑い声を漏らし、見つけたティッシュで鼻を押さえながら言った。「夢みたい……!」

 鼻血を止めつつ、彼女はモスがパブロンさんを最後の一枚まで脱がせる様子をじっくり見守った。

 他の隊員たちは、気まずそうにそっぽを向いた。

 誰もがこの子みたいに、好奇心と変態精神が強いわけではなかった。

「ディリーちゃん、お願い。」

 モスがそう言いながら手を振って、後ろを向けと促すと、彼女の顔が一気に真っ赤になった。

「まさかここで……ってことじゃ……」慌てて言いかけた彼女を、モスはピシャリと遮った。

「お前が思ってるようなことじゃねえ!」

 ディリーはおとなしく彼の言葉に従い、横を向いて口笛を吹きはじめた。

 モスもまた、自分の服を肌着まで脱ぎ始めた。

 乾いた暖かい服はエンギノに着せ、濡れた服はストーブの前に干す。

 すべて終えると、自分には非常用のブランケットを巻いた。

「全部乾くまでここで待ってたら、勝負に負けるな……」仲間の一人がぼそっと呟いた。

「負けるより、死なない方がマシだろ。」別の仲間が、同じように低い声で返す。

 そこへ、ディリーが突然自分の服を脱ぎ始めた。

 モスは呆然と彼女を見た。「……何してんだ?」

「エンギノの服を借りるの。」ディリーはきっぱりと答えた。「そうすれば、早く出発できるでしょ。替えの下着ならリュックにあるし。履く?」

 そう言ってリュックをごそごそと探り、モスの鼻先にピンクのパンツを突き出した。

 仲間たちは一斉に吹き出して笑い出した。

 モスは顔をしかめながら、それをひったくった。

「……ありがとよ。」

 ディリーの行動に触発され、他の仲間たちも服を脱ぎ、濡れていない服や半乾きの衣類を譲り合って、全員に一着ずつ行き渡るようにした。

 こうして彼らは予定より早く出発できた。

 残りの道のりは六人一緒に進んだ。

 順位争いを諦めることにはなったが、そうしなければ意識を失ったパブロンさんを無事にゴールまで連れていくことはできなかった。

 長い行軍の末、彼らはついにベースへと到着した。

 エンギノは眠っていたが、生きていた。

 そして、そのグループは最初の到着チームとなった。

 医療ステーションでは、ディリーとモスがエンギノのベッドのそばを離れず見守った。

 やがてパブロンさんが目を覚ましたとき、二人の姿が視界に映った。

「なんで……俺をそのまま溺れさせなかったんだよ……」エンギノは、かすれた声で呟いた。

「そのうち俺が氷に落ちたとき、お前が助けてくれるようにな。」モスは淡々と返した。

 ディリーはいたずらっぽくニヤリと笑った。「裸、見てみたかっただけー。」


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