第43話 (2/3)
「すみません。」
海野は、ぶつかった看護師に謝った。彼女の服装は、明らかに病院の職員であることを示していた。
胸元に刺繍された小さなフェニックスの紋章が、その証拠だった。
しかし、彼の注意を引いたのは、その耳当てだった。病院の廊下は、雪の積もった風景を模しているかのように白く冷たい印象を与えていたが、実際のところ耳当てが必要なほど寒くはなかった。
「失礼しました。」
看護師は素早く頭を下げた。顔を上げたとき、彼女の視線は海野の盗んだ看護師用の制服のフェニックスの紋章に留まり、そして彼の顔にほんの少し長く止まった。
「ここであなたを見たのは初めてですね。」
彼女の目は茶色の前髪の下から、浅野先生へと向けられていた。
海野は、どう言えば疑われずに済むか、必死で考えた。
このことは誰にも知られてはならなかった。
彼の体温は上下し始め、冷や汗が首筋をつたって流れ落ちた。
「先週、あなたのことを見かけたよ」と浅野が突然言った。「患者さんにあれほど思いやりを持って接する人は、なかなか忘れられないからね。」彼は微笑みながら続けた。「10号室の患者に鎮痛剤を増量してあげてくれないか? かなりつらそうだったから。」
看護師はうなずいた。「分かりました。」
そして海野に鋭い視線を投げかけた。
膝が崩れそうになった。
見抜かれた……
彼女の視線が自分を解剖するように鋭く、呼吸すら忘れてしまいそうだった。
だが次の瞬間、彼女はふいに背を向け、何も言わずに去っていった。
「危なかった……」汗だくになった海野はつぶやいた。「助かりました、先生の機転で。」
浅野はニヤリと笑った。「機転じゃないさ。10号室の患者は、俺たちが病院に入ったときから苦しみでうなっていた。ドア越しにも聞こえたよ。」
海野は尊敬の眼差しで顎を上げた。「先生は、すごいお医者さんです。」
二人は廊下を進み、第二国家魔法使い・ネッスーノが入院している病室にたどり着いた。
そこには中尉キエロ・パブロンさんも入院していた。
二人の火傷はだいぶ癒えてきていたが、いくつかの傷跡は残っていた。
浅野は白衣の内ポケットから注射器を取り出し、キエロの腕の静脈を探した。
その間、海野は入り口を見張っていた。
キエロは、触れられた感触に反応して体を震わせた。
彼の目がかすかに開き、うめき声を上げたが、浅野は慌てずに作業を続けた。
静脈を見つけると、麻酔薬を注射し、それはパブロンさんの血管にスムーズに流れ込んだ。
キエロのまぶたが再び閉じた。
浅野は次の注射器を準備し、国家魔法使いのベッドへと向かった――そのとき、海野が足音を聞いた。
彼は浅野に、注射器を隠すよう合図した。
先ほどの看護師がドアを開け、二人をじっと見つめた。
海野は、すぐにバレるだろうと思った。それほどまでに、彼女の視線は鋭く、知性に満ちていた。
彼女は海野の横を通り過ぎ、中尉のベッドへと歩いていった。
消毒薬の香りが、まるで香水のように漂っていた。
「もう処置は終わりましたか?」
海野は震えをこらえた。
彼女はストッパーを外し、ベッドを移動させる準備を始めた。「では洗浄室へ運びますね。」
海野も浅野も、安堵の息をついた。互いに視線を交わした。
「私がやります。」海野はそう言って看護師を手伝い、反対側のストッパーを外した。
その時、彼は彼女の名札を読むことができた――香取。
香取は顔を上げ、浅野を見た。
「分かりました。何かあれば知らせてください。」
彼女はドアを開け、海野がパブロンさんを廊下に出しやすいようにした。
だが彼は手を振って断った。「大丈夫です、ありがとう!」
香取が去ったあと、浅野は再びネッスーノの静脈を探し始めた。
適切な場所を見つけると、彼女が既に眠っていたにも関わらず、再び麻酔を投与した。
念のための処置だった。