第42話 (3/5)
現在
授業が始まる前、香取は前回の講義内容をもう一度読み返していた。
「まさか、一晩中寝てなかったの?」ヴァヴァリーは折りたたみ椅子の間をすり抜けてやってきて、自分の鞄をテーブルの上に置いた。
香取はノートから目を離さずに答えた。「そんなにわかる?」
ヴァヴァリーは鼻を鳴らした。「もう少し体調に気を使いなさいよ! ほら、これ食べなよ。」
そう言って彼女は箱を取り出した。中にはラベンダーシロップを添えた月花団子が並んでいた。
「ありがとう。」香取は一つ団子を取って眺め、それからヴァヴァリーを見た。「断食期間なのに、全然平気そうだね。文句言ってるの、あなただけ聞いたことない。」
ヴァヴァリーは肩をすくめた。「弟が神経をやられてから、アラナはもう花料理しか作ってないのよ。」
「でも、弟さんも猟師じゃなかったっけ?」
「そうよ。」ヴァヴァリーは席に腰を下ろし、筆記用具を取り出した。「彼の頭の中がどうなってるのか、私にも分からないわ。もう何年も口をきいてないし。」
「それはつらいね。何があったの?」
ヴァヴァリーはペンのキャップを外しながら言った。「知らない。私も知りたいぐらい。」
そこへ真が入ってきて、隣に座った。彼女の赤い髪には、ピンクと淡い青のメッシュが入り、星を閉じ込めたようにきらめいていた。
香取はまばたきした。「それはマズいよ。」
真は顎を上げた。「何が? これ?」彼女はきらきらした髪に手を通した。
「叔母さんに見つかったら…」
真は無関心に肩をすくめた。「ちょっと小言言われるくらいでしょ。別にいいじゃん。」
ヴァヴァリーが香取の前腕に手を置いた。「放っておきなよ。スタージス家の人間には、私たちとは違うルールがあるの。」
香取は納得がいかずに言った。「魔法は民のもの。」それは全魔法使いの標語だった。「つまり、公共のためにしか使ってはいけないってこと。あの髪型は明らかにそうじゃない。」
「間違いね。」真は言った。「でも、私が可愛くなれば、みんな得するでしょ? 別に誰にも迷惑かけてないし、いいじゃん。」
そこに、真の叔母――教授の直美・スタージスが講義室に入ってきた。
彼女のパンプスが大理石の床を打つ音とともに、室内は一瞬で静まり返った。
「良い知らせがあります。」教授は言った。「皆さんの知識を証明する絶好の機会がやってきました。」真と血の繋がりがないことは、彼女の漆黒の髪を見れば明らかだった。「決まりました。この中の一人が、次の国家魔法使いになります。この講義室にいる誰かが、間もなくその栄誉ある役職に就くのです。」
講堂内にざわめきが走った。
早すぎる選出に、皆が驚きを隠せなかった。
「明日から試験を開始します。私は、絶対的な機密保持と規律を求めます。精密さを極めた者には、輝かしい未来が開かれるでしょう。ですが、自らの思考を制御できない者は、その思考に支配されることになります。皆さんが国家魔法使いにふさわしいことを私に示してみせなさい。魔法にふさわしい者であることを、この国民に証明しなさい。」
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講義が終わると、教室内は興奮で沸き立った。
活発な議論があちこちで交わされ、空気が熱を帯びて震えていた。
皆が急いで教室を出ていった。
意気込みに満ちた香取の同期たちは、勢いよく建物を飛び出していった。
アカデミーの中庭の大きな芝生には、すでに最初の瞑想グループが集まっており、集中を深める者、読書に没頭する者の姿が見られた。誰もが次の国家魔法使いになりたかった。
誰もが歴史に名を刻み、永遠の名誉と富を手に入れたかった。
真は芝生のそばを通り過ぎながら、あくびをした。「誰が選ばれるかなんて、もう決まってるでしょ?」彼女は香取の方を見た。「アンタでしょ、うちのガリ勉ちゃん。」