第38話 (3/3)
ガーデニアの香り。
それは幻覚なんかじゃなかった。あのとき家に入ってきた妖精――あの子はその匂いがした。なぜなら……なぜなら……彼女は……。
「違う……」フレームは呟いた。「違う……!」
彼は今にも発狂しそうだった。「そんなはず……ない!違う!!」
膝から崩れ落ちた。
ゴドは頭をフレームに寄せた。「ごめん……」
フレームは、父さんと自分がしてきたことを受け入れられなかった。
今までに何人の人間を食べてきた?これまでの年月、皿に乗っていたのは誰だった?
毎日毎日、咀嚼し、飲み込み、味わっていたのだ。
フレームはその思考に耐えられなかった。
「まさか、すべてのモンスターが人間だったのか?」
「あり得ると思うよ」とゴドは答えた。「元は人間だった可能性が高い。でも、すべてのモンスターが人間として生まれたわけじゃない。スノーとか……あの施設にいた他のユニコーンたちも……」
「そうだな」フレームは上体を起こした。「モンスターとして生まれた存在もいるんだ」
信じられなかった。「俺たちは皆、人食いだ」
「いや、皆がそうなわけじゃない」とゴドは反論した。「あのときから……俺はもう二度とモンスターを食べなかった。スノーのこともあるし……お前のこともあるからだ」
「俺もだよ……」フレームは囁いた。
そして彼の脳裏には、アサノ博士が言っていた仮説――すべての病人に共通する要素――がよぎった。
予想していたことが、今、確信へと変わった。
「園香は分かってたんだ」フレームは突然気づいたように言った。
「それが彼女が図書館で知ったこと……そして彼女は、ある結論に達したんだ」
――どんな結論だったのか?
彼は虚空を見つめた。
「おい……何の話か分からないけど、先生が言ってたじゃん」
ゴドは言った。
「人類はそうせざるを得なかったんだって。先生が黙ってたのは――“血まみれの世紀”がまだ終わってないってことだけさ」
フレームはスーツの布を掴み、指が肉に食い込むまで力を込めた。
「花は十分あるじゃないか!それなのに、意味が分からないよ!」
「でも、“治療の花”はない」
「あるよ、ちゃんと。たとえなかったとしても……」
フレームは深く息を吸い込んだ。
「いっそ、全員がモンスターになればいいんだ。俺たちの本当の姿に――」
「俺は、人間のままでいたかったよ」とゴドは言った。
「他のみんなも、たぶんそう思ってるんじゃないかな」
そのとき、海野が62号の世話を終え、彼らの前に立った。「出発していい?」