第36話 (4/6)
現在
園香は銀のトレイを手にしていた。彼女の肌には火傷の痕ひとつなく、以前と変わらぬ滑らかさを保っていた。欠けているものはなかった。ただ、その目の輝きだけが失われていた。冷たく、空っぽで、感情のないまなざしだった。
「後悔はしていません」
そう言って、彼女はトレイを配膳口に差し込んだ。
「人間はみんな美しいと思っていました」
目を閉じて、続けた。
「でも、そんなことはどうでもいい。大事なのは、私たちが愛する人たち。――家族です」
彼女は背を向けた。
「どういうことだよ……?」フレームが叫んだ。「人を救いたいって言ってたじゃないか!園香!」
彼女は振り返らなかった。去っていき、看守がその後に続いた。
彼女がいなくなると、フレームは失望のあまりベンチに崩れ落ちた。
「わからない……なぜこんなことを……なぜ彼女はまだ生きてる? ウェザロンも……」
アサノもまた混乱しているようだった。「彼女の名前は、サリンじゃなかったのか?」
「彼女は園香ブラックウォーターだ」フレームは小さくつぶやいた。
「先生にも、僕にも、嘘をついたんだ」
下の階からは、いまだにユニコーンたちの悲鳴が響いていた。耳を突くその叫びが、フレームの鼓膜を容赦なく打ち続ける。
「問題は、なぜ嘘をついたかだ……」