第33話 (13/15)
啓示の日――リサレは仲間たちと一緒に市場広場へと向かった。
今日、彼らはフリドリンを大勢の人々の前で癒すつもりだった。
そうすることで、スタージス家とその魔法使いたちが民衆に隠してきた真実を明るみに出すのだ。
リサレは先頭を歩き、その隣をネオンが並んで歩いた。
目的地まであと少しというところで――
二人の黒い影が路地から飛び出し、フリドリンの両腕をつかんだ。
制服には氷の薔薇の紋章が輝いていた。魔法使いだ。
「助けて!」フリドリンが叫んだ。
リサレとネオンは慌てて走り出し、フリドリンを助けようと魔法使いたちへ向かった。
だが、その前に、もう一人――
さらに別の男が、路地の闇から静かに現れた。
黒いローブに身を包み、フードを深くかぶっていた。
それでも、その下からは燃えるような赤髪が覗いていた。
――ピーター・スタージス。
彼は、ゆっくりと、まるで散歩するかのような足取りで、孤児たちの横を通り過ぎていく。
そして、それぞれの頭や肩、腕にそっと触れていった。
そのたびに、ひとり、またひとりと、子どもたちは意識を失い、その場に崩れ落ちていく。
やがて、リサレ一人を残して、全員が倒れた。
ピーターは、彼女の目の前で立ち止まった。
左手には、あの癒しの花――ネオンから奪った花を握っている。
「君が……あの泥棒コバヤシの娘か。」ピーターは、感情の見えない目でリサレを見下ろしながら言った。彼の炎のような瞳は、くすぶる熾火のように鈍く光っていた。「君の父親は、誰もが犯す過ちを犯した。いや――過ちですらなかった……それは、君を愛してしまったということだ。」
そして、右手を伸ばし、彼女に触れようとした。
左右には魔法使いたちが立ちはだかり、逃げ道を塞いでいた。
さらに三人が別の路地から現れ、彼女を完全に包囲した。
ピーターの手がリサレの頭に触れた――その瞬間。
「ッ……!」
彼は焼けたような痛みに反応して、驚きとともに手を引っ込めた。
――熱すぎたのだ。
その隙を逃さず、リサレは崩れたネオンのもとへと駆け寄った。
彼の頭を抱き上げたとき――
口から血が滲んでいることに気づく。
「……っ!」リサレは目を見開いた。
――心音が、聞こえない。
リサレはスタージス家の長に向き直り、叫んだ。「あなたは、あの子たちの友達だった! 一緒に遊んでたのに! どうして、こんなことができるの!?」
ピーターは静かに答えた。「大人は時に、自分の望まないことをしなければならない。時には……優先順位をつける必要があるんだ。」
彼は一歩、また一歩と彼女に近づいてきた。
周囲の魔法使いたちも、彼女を取り囲もうと動き出す。
「もしできるなら、君を見逃してやりたい。」ピーターの声は、まるで些細なことを語るかのように、落ち着いていた。「だが――君を黙らせる方法が他にない限り、リスクを取るわけにはいかない。」
「……あんたが、私の家族を全部……全部、殺したのよ……」リサレは震えながら泣いた。「……本当のモンスターは、あんたよ……!」
彼女は心臓の鼓動を失ったネオンをそっと地面に寝かせ、その耳元にささやいた。「ごめんね……」
一粒の涙が、ネオンの動かない体に落ちた。
その瞬間、一人の魔法使いが彼女に触れようとした――
だが、その手に触れた瞬間、彼の体が炎に包まれた。
リサレはその隙を逃さず、炎の中の隙間を駆け抜け、全速力で走り出す。
「捕らえろ!」ピーターの怒声が飛ぶが、彼自身は追わず、燃える仲間の元へ向かった。
魔法使いたちは人間離れした速さで彼女を追いかけてくる。
もっと速く、もっと速く――負けられない。
リサレはその足に、全てを込めて走った。
――なぜか、それができた。
足が、信じられないほど軽くなり、彼女は石畳の上を飛ぶように駆けた。
逃げ込んだのは、道が複雑に入り組んだ地区。
追手をまくには、十分すぎる場所だった。
リサレは大きなゴミ箱の中に身を潜め、息を殺してじっとしていた。
鼻を突くのは、腐ったユニコーンの肉の悪臭。
だが、そんなものは気にならなかった。
彼女の胸の中にあるのは、ただひとつ――失った者たちへの想いだけだった。
何時間ものあいだ、リサレはゴミの中にうずくまり、悲しみと恐怖に支配されていた。
外で何かが動くたびに、魔法使いの足音ではないかと怯えた。
次にゴミ箱から顔を出した時には、あたりはすっかり闇に包まれていた。
水を探さなければ。
リサレはまるで幽霊のように、人気のない街を歩き回った。
そして、ある裏庭で、水がいっぱいに入ったじょうろを見つけた。
水は濁っていたが――それでも、水だった。