表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

125/218

第33話 (8/15)

 

 リサレが目を覚ましたとき、鼻先に漂っていたのは甘くて優しいアイリスの香りだった。

 ぼんやりと上体を起こすと、目の前には小さなグリルがあり、その周りに子供たちが集まっていた。

 全部で七人。

 驚いて後ずさりした彼女は、背中をレンガの壁にぶつけた。

「大丈夫、大丈夫!」隣でネオンが言った。

「オレの仲間たちだよ! 紹介するね。こっちから――ミジー、ロイ、ガラフェル、ビッツィー、友倫、エルウェン、フリドリン。オレたちはニューシティで一番の盗賊団! 警察だって、オレたちを捕まえられたことなんて一度もないんだぜ!」

 リサレの視線は、ネオンがフリドリンと紹介した少年に向かう。

 彼は病の症状を明確に示していた。

 こめかみには銀色の繊維が浮かび、髪のすぐ下には小さな角のような突起が現れ始めている。

 それでも幸せそうに、花を串焼きにしたものをもぐもぐと食べていた。

 ネオンがその串を一本、リサレの鼻先に突き出す。

「ほら、君も食べる?」

 断れるわけがなかった。

 彼女は串を受け取り、焼かれたアイリスの花にかじりつく。

 ――おいしい。

 胃が、感謝の声をあげた。

「じゃあ、飯の借りは働いて返してもらうね!」ネオンは笑顔で言った。「今日から君は、オレの盗賊団の一員だ!」

 リサレは半分まぶたを下ろして言う。「……あんたの盗賊団で働くつもりなんてない。」

「盗みに行かなくてもいいよ」ビッツィーと呼ばれた女の子が口を挟む。「でも、ひとりで外で寝るのはダメ。ここら辺、危ないから。変なヤツらに見つかったら、怖いよ。」

 思い出すのは――360度の森で、あの男たちに襲われかけたときのこと。

 リサレは、ぶるりと震えた。

「ねえ、大丈夫?」ネオンが心配そうに手を振って彼女の目の前で呼びかける。「何かあった? 話したいなら、オレ、聞くよ。」

 泣きたくなった。

 どうして、こんなに優しくされるのか――わからなかった。

 自分は、不幸を呼ぶ存在なのに。

「お水、いる?」フリドリンがコップを差し出してくる。

 その顔は、かつて鏡に映った自分の姿に重なった。

 ――あのときから、すべてが始まったのだ。

 リサレの目から涙がこぼれた。

 もう逃げたくない。

 名前も持たない孤児として、新しい人生をやり直せるかもしれない。

 自分の素性を隠せば、もう誰も探してこないかもしれない。

 ベッドで眠る日々が、また訪れるかもしれない。

 涙が止まり、少し気持ちが落ち着いたころ――

 リサレは、ためらいながらも彼らの申し出を受け入れた。

 そしてセント・ウィリアム孤児院へと、みんなと一緒に向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ