第33話 (5/15)
残された選択肢――そのすべてが、リサレには恐ろしかった。
ここに留まり、まるで何もなかったかのように振る舞うこと。
それは、言葉にできないほど重く感じられた。
かといって、街へ戻るなんて、なおさら無理だ。
何を選んだとしても、最後に待っているのは「危険」。
そして――自分が動かない限り、何も変わらないという確信。
誰かが彼女を探し続け、毎日、何十人もの人々が病に倒れていく。
――スタージス家のせいで。
そして、それを知っているのは、リサレだけだった。
リサレは五つの小さな墓を作った。
一つは人魚のために。
二つは両親のために。
残りの二つは、彼女の「敵」のために。
三つの墓にグラジオラスを供え、残りには小石を置いた。
その瞳からは、涙がこぼれ落ちた。
そして、彼女は決意する。――出発することを。
崩れそうになる足をなんとか踏ん張りながら、
リサレは黒い迷宮の通路を進み続けた。
その体は疲れきっていたが、彼女の「生きたい」という意思は、足のしびれにも勝っていた。
迷宮の出口にたどり着くと、リサレは耳をすませた。
誰かが近くにいて、自分を見張っていないか。
だが――周囲には誰の気配もなかった。
フェニックスの太陽はその光を弱め、夜の訪れを告げていた。
この層に人の気配はまったくなかった。
――ここまで来る者など、いないのだ。
命を奪う迷宮に、好んで近づく者はいない。
街に入ると、リサレは常に暗い路地を選んで歩いた。
絶対に誰にも見つかってはいけない。
敵が誰で、味方が誰なのか、彼女にはもう判断できなかったからだ。
スタージス家はニューシティの四大富豪の一角。
つまり、街に住む人々の四人に一人は、直接的か間接的に、彼らの影響下にあるということになる。
疲れが、身体を支配しようとしていた。
もう、少しでもいいから、休まなきゃ。
風車の陰、二軒の家の間にある排水溝のそばで、リサレはごみ箱の後ろにしゃがみ込んだ。
臭かったけれど、そこには「安心」があった。
誰かが通りかかったとしても、こんな暗闇の中では、彼女を見つけるのは難しい。
石畳に腰を下ろしたその瞬間、まぶたが落ちた。
――歩き通した道のりは、思った以上に過酷だったのだ。
家の壁のざらざらした外壁が背中に食い込んでくるのも忘れ、リサレは深い眠りに落ちた。