第33話 (4/15)
その後の数日間、リサレはただ生き延びるために過ごした。
彼女は人魚と協力し、食料を探して回った。
森の中では少女が、湖の中では人魚が――それぞれの場所で採集に勤しみ、探索が終わると水たまりの縁で再会し、獲物を分け合った。
夜になると、リサレは冷たい地面の上で眠った。
枕代わりに落ち葉を集めたが、毛布のようなものはない。
それでも、不思議と寒さを感じることはなかった。
「本当なら、とっくに死んでるはずなんだよね……」
ある食事のとき、リサレは人魚にそう打ち明けた。
「でも、なぜかずっと温かい。これって……神さまの贈り物なのかな?」
彼女の新しい友だちは、困ったように笑い、肩をすくめた。
「そうか……君にもわからないんだね。だったら、感謝するべきなのかも。」リサレはそっと目を伏せた。
――そのとき。
遠くから、人の声が響いた。
リサレはすぐに立ち上がる。
「……人間の声!」彼女はささやくように言った。「隠れて! あの人たち、モンスターを憎んでるの! 私みたいに……」興奮のあまり鼻から出た鼻水をすすりながら、そう言った。
人魚は、ジェスチャーで「君も逃げた方がいい」と伝えてきた。「私は大丈夫。」リサレはそう答えると、横向きに生えた木から伸びる枝に登った。「この上なら見つからない。君は水の中にいて!」
素早く枝を伝い、垂れ下がった木の葉の陰に身を隠す。
「信じられない場所だな、この洞窟!」男の声がした。
「まだモンスターは見てないが……隠れてるのか?」もう一人が答える。
「そう長くは隠れてられないさ。」
彼はバックパックから何かを取り出し、リサレが乗っている枝の真下に投げた。
それは銀色の球体だった。
数センチ転がったあと、そこから煙が噴き出し始める。
リサレは咳を我慢しようとしたが、無理だった。
咳が漏れた。
男たちは気づいた。
一人がサンダーガンを抜いて発砲する。
フックは正確にリサレの腕に食い込んだ。
冷たい金属が氷の爪のように感じられた。
――これは、猟師の武器……
彼が電流を流せば……
そう思った瞬間――
リサレの内側に、熱がこみ上げてきた。
全身が、焼けつくように熱くなる。
あまりの高熱に、フックの金属が溶け始めた。
金属は液体になり、下の枝にぽたぽたと滴り落ちる。
リサレは肩で息をした。
「は?」撃った男が戸惑ったような声を漏らす。
何も起きなかったからだ。
彼はサンダーガンのフックを引き戻し、目を見開いた。
「なんだこりゃ……?」
仲間が懐中電灯で上を照らすと、光がリサレの目に突き刺さる。
「マジかよ!上にいたのは、あの逃げた子じゃないか!」
「なんだって?まだ生きてたのか?ピーターは死体を回収しろって言ってたぞ。」
「しかも、けっこう元気そうじゃねえか。」
懐中電灯の微かな明かりの中で、男の顔の陰影がゆがみ、異様な仮面のように見えた。
「こりゃ……排除するしかねえな。」
リサレは歯を食いしばった。「やめてよ!あっち行って!」
もう一人が傷んだ武器を一瞥すると、それをしまい、近くの木に登り始めた。
「来ないでってば!!」リサレは叫び、他の枝へ飛び移れないかと視線をめぐらせた。
でも、届く範囲には何もなかった。
――もっと運動神経があれば……もっと身体能力があれば……
そうすれば、右側の、壁から生えた木にある枝まで飛べたかもしれない。
彼女はごくりと唾を飲んだ。
男は着実に登ってきており、もうすぐ彼女のいるところまで届きそうだった。
――目をつぶって、飛ぶしかない。
リサレは覚悟を決めた。
やるしかない。
勇気を振り絞り、勢いをつけて飛ぶ。
掴もうと手を伸ばす――が、指先は目標をかすめ、空を切った。
~ドンッ!~
全身が石の地面に叩きつけられ、激痛が走る。
めまいがして、視界がぐるぐる回った。
気がつくと、二つのブーツが彼女の前に立っていた。
両腕を掴まれ、ズルズルと引きずられて、木の幹にもたれかけさせられる。
男の服にはスタージス家の紋章が縫い付けられていた。
――氷のバラ。
その紋章が、リサレの視界にどんどん近づいてくる。
魔法使いが身をかがめ、彼女の目の前でその紋章が細部までくっきり見える距離になった。
白く、無垢な花々。
リサレはその色の意味を知っていた。
――それは「悲しみ」を表している。
魔法使いが、彼女を木に押し付ける。
手がリサレの肌に触れ、拘束しようとした瞬間――
彼女の内側で怒りが爆発した。
熱が体を駆けめぐる。
その熱は、男が触れた部分すべてを焼き焦がした。
男は鋭く悲鳴を上げ、飛び退く。
「どうした!?」仲間が駆け寄り、今度は自分でリサレを押さえようとする。
だが、同じように手に火傷を負って、手を引っ込めた。
リサレはよろめきながら、水たまりのほうへと後退する。
「どうやった、今の……?」
二人の男は足音を響かせて彼女に迫り、包囲する。
そのうちの一人が、ナイフを抜いた。
リサレの頬を、涙が伝って流れた。「来ないで……!」
すすり泣きながら叫んでも、男たちはさらに近づいてくるだけだった。
ナイフを構えた男が腕を振り上げたその瞬間――
リサレは目をきつく閉じた。全身が震えていた。
――ちゃぽん!
音に驚き、リサレはまぶたを開けた。
そこには、もう男の姿はなかった。
人魚が、彼を水の中へと引きずり込んでいたのだ。
希望が、リサレの胸に灯った。
……けれど、それは長くは続かなかった。
もう一人の男が、サンダーガンを抜いたのだ。
人魚が再び姿を現し、今度は彼を引き込もうとした瞬間――
彼は発砲した。
電撃が走り、人魚はその場で痙攣し、そして――石のように沈んでいった。
「やだっ……!」リサレの叫びが、洞窟内に響き渡る。 「やだぁぁぁぁぁ……!」
猟師は、別の武器――ナイフを抜いた。
人魚はもう助からない。
そして、リサレはひとりきりになった。
彼女は必死に考えた。
どうすればいい? 何ができる?
頭に浮かんだのは――
「死にたくない」
……このまま、こんなふうに、ただ殺されるなんて絶対に嫌だ。
その瞬間、リサレは決めた。
生きると。
もう、犠牲にはならないと。
逃げるばかりの自分を終わらせると。
今度は、自分の手で、自分の運命を掴むと。
男は圧倒的に強かった。
それでもリサレは――真正面から突っ込んだ。
全力で、体をぶつけた。
彼女の肌は、火の中の鉄のように灼熱となり、男の制服に火をつけた。
それは、ドラゴンの炎に耐える素材で作られていたはずだった。
だが、リサレの発する熱は、モンスターすら出せない温度に達していた。
「たすけてくれ!誰か!!」男は絶叫した。
けれど、彼の声は――
炎の轟きにかき消された。
リサレは肩で息をしながら、男が燃え尽きていく様子を見ていた。
すぐそばに、水たまりがあったにもかかわらず――
彼は、自分の命を救うことができなかった。