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第33話 (1/15)

 

 リサレは警官に続いて庭へと出た。

 柵の穴をくぐり抜けたところで、すぐに追っ手がついてきた。

 彼らとの距離は近く、隠そうとする様子もない。

 灰色の制服が、彼らを警察の使いとして示していた。

 リサレはルディに目を向けた。「ねえ、あいつら何なの?」

「いつもいるよ。」

「いつも? どうして?」

「前にも言っただろ。俺はルディ・フォールドだ。」そう言って彼は細い路地へと入った。

 そこには、彼の乗用モンスターが繋がれていた――白い一角獣だ。

「スタージスの死を願ってるのは、君だけじゃない。信じてくれ、あいつらには敵が山ほどいる。」彼は手綱をほどきながら言った。「今から君を家に連れて帰る。そこで、今後の動きについてゆっくり話そう。」 そう言って、紳士的に手を差し出し、鞍に乗る手助けをしようとした。

 リサレはその手を無視し、自分一人でモンスターの背に登った。

 彼女が座ったのを確認すると、ルディも鐙に足をかけて彼女の背後に腰を下ろした。

「で、君の家ってどこ?」

 彼は手綱を鳴らしながら答える。「フェニックスの館さ。」

 一角獣が歩き出す。

 ふたりは路地を抜け、テラスを駆けた。

 ひづめの音が耳に響きそうになるが、風の防壁がその騒音を吹き飛ばしてくれた。

 リサレは崖下、クレーターの底を見下ろした。

 花々の海のどこかで、葬儀人たちがフレームの遺灰を撒いている。

 その想像に、彼女は鋭く息を吸い込んだ。

 ~私は、犠牲にならない。~

 目を閉じる。

 ~私は、犠牲になりたくない。~

 目を開ける。

 ~私はもう、犠牲者じゃない。~

 ふたりの目の前には、大統領の宮殿がそびえていた。

 彼らはその正面へと進んでいく。

 ~もし、どちらかしか選べないなら……私は、加害者になる。~

 鉄の門の前で、ふたりは一角獣から降りた。

 従者が駆け寄り、乗用モンスターを厩舎へと連れていく。

 その数秒後には、追っ手たちも馬に乗って到着した。

 常に護衛に見張られているのは、さぞかし息苦しいことだろう。

 リサレは、ルディの無表情な顔に何かしらの感情を探そうとしたが――

 彼の氷のような灰色の瞳には、無関心しか見つからなかった。

 彼は、リサレがなりたかった存在。――殺人者だった。

 フォールドは彼女を伴って、階段を上り、柱廊へと進んだ。

 六本の巨大な円柱が、破風を支えてそびえ立っている。

 それは、揺るぎない力と計り知れない富を象徴していた。

 ――だが、死に至る病を前にしては、どちらも無力だ。

 スタージスを消したいと願う者が他にもいることに、リサレは何の驚きも覚えなかった。

 むしろ、痛いほどよく理解できた。

 ルディはリサレを館内に案内した。

 ピラスターに囲まれたホールには、豪奢なシャンデリアが輝いていた。

 フレームのような双開きの扉の上には、フェニックスの紋章が守護者のごとく掲げられていた。

 大理石の床は、かつて彫刻家たちの指先に宿っていた優美さを永遠に留めていた。

「今からある人物に会わせる。」ルディはそう言って、リサレを手招きしながら廊下へと誘った。「君はもう知ってるかもしれない。」

 リサレは彼のあとに続き、赤い絨毯の上を無言で歩いた。

 やがて、ふたりは会議室にたどり着いた。

 廊下からは、続くガラス窓越しに中の様子がうかがえた。

 リサレは、そこで誰が待っているかに驚きはしなかった。

 フェニックスの館が誰のものか――それは誰もが知っていることだった。

 ルディが会議室の扉を開けると、ふたりはその主の前に立った。

 レジーナ・フォールド。

 つい先ほどまで側近と話し込んでいた彼女は、手元の書類から目を離し、リサレに視線を向けた。

 ――鋭い目つきだった。

 その女の視線は、リサレの身体を隅から隅まで切り裂くように分析し、

 その冷徹な灰色の瞳で彼女の一部始終を読み取っていった。

 リサレという存在を分解し、バラバラの断片をつなぎ合わせ、

 ひとつの像として組み立てていた。

「君のお父さんは、魔法使いだったんでしょ?」

 リサレはまばたきをした。「……はい。」

「なるほどね。」大統領は意味ありげに微笑んだ。「君はコバヤシの行方不明だった娘ってわけね。」彼女は首をかしげ、ランプの光の中でその灰色の髪がきらりと光った。「よくやったわ、ルディ。」

 彼は黙っていた。

 レジーナは立ち上がり、リサレのまわりを一周するように歩いた。「どうやって魔法を覚えたの?」

「私は……魔法なんて使えません。」

「興味深いわね。」レジーナは側近にメモを取るよう手振りで示した。 「ねえ、あなた。そもそも魔法が何なのか、わかってる?」

 リサレは黙ったまま、大権を握るこの女の顔を見つめた。

 どれだけファンデーションを重ねても隠しきれない皺。

 湿った砂袋のように、たるんだ頬が口元に垂れていた。

「魔法っていうのは、エネルギーを意志で導く力のことよ。で、あなたは一体何をしているつもり?結局のところ、私たちはみんな魔法使い。

 上手いか下手かってだけの違いよ。」

 リサレはルディを見た。「スタージスを殺すんじゃなかったの?」

 彼は黙っていた。

「心配いらないわ、可愛い子。」レジーナは椅子に腰を下ろし、足を優雅に組んだ。「すべてはタイミングよ。あなたが知っていることを早く教えてくれればくれるほど、私たちも早く行動に移せるわ。」

「……何も知りません。」リサレはそう言い張った。「ごめんなさい。」

「目撃者の証言では、違う話みたいだけど?素手で触れるだけで人に火傷を負わせられるって話よ。」レジーナが身を乗り出す。「……どうやってるの?」

「ただ……やってるだけです。」リサレは寄木張りの床を見つめた。

 エンギノが密告したに決まってる。

 レジーナは不満げな表情を浮かべた。そして、もう書かなくていいと側近に目配せした。

「……もう一度、よく思い出してごらんなさい。」


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