第32話 (4/6)
10年前
14,595年
光の時期 第90日目
彼と父さんは、街道の市場に立ち寄っていた。
昼食のために――(ヴァヴァリーが学校から帰ってきて、母の死を知らされるそのときのために)――必要なのは、新鮮な妖精が数匹だけだった。
フレームは黙って、テロンが商人に代金を渡す様子を見つめていた。
彼の目は泣きすぎて赤くなっていたが、誰ひとりとして理由を尋ねる者はいなかった。
誰も、その涙の理由を指摘するような無神経さを持ち合わせてはいなかった。
家に戻ると、父さんはフレームを食卓につかせ、おもちゃを渡した。
それから彼に背を向けて、キッチンのカウンターに向かい、料理の支度を始めた。
フレームは遊びたくなかった。
ただぼんやりと虚空を見つめ、包丁の刻む音に耳を傾けていた。
カッカッカッ――チューリップ一つ。
カッカッカッ――二つ目。
カッカッカッ――三つ目。
ふと、視界の隅に動く影が映った。
窓の外、何かが動いた。
トントン……小さなノック音。
え……?と思って見たときには、もう姿はなかった。
好奇心が彼をベンチから押し出した。
立ち上がり、居間を出て廊下へ、そして玄関へと足を運ぶ。
彫り込まれた雪の結晶に指をそっと当て、取っ手を下ろした。
扉をほんの少しだけ開ける。ほんの短い一瞬だけ、外を覗く。
何かが彼の横をすり抜け、家の中へと入り込んだ。
あまりに一瞬で、何が起きたのか目では追えなかった。
だが――鼻だけは正確に反応していた。
ガーデニアの香り。
それは亡き母を思い出させる匂いだった。
フレームはしばらく呆然と立ち尽くし、瞬きを繰り返したが、次の瞬間、足を動かしていた。
花の茎ほどの大きさのその存在を追いかけて、台所へ駆け出した。
テロンはフライパンを手に取った。
だが、それをコンロに置くことはせず、バットのように構えた。
カウンターの上には、洗われ、焼かれるのを待っている新鮮な妖精たちが並んでいた。
――ただ、一匹を除いて。
そいつは台所の中央をふわふわと漂っていた。
ゴンッ!
もう漂ってなどいなかった。
テロンが一撃でそのモンスターを床に叩きつけたのだ。
それはキッチンのタイルの上に叩きつけられて潰れた。
テロンは、戸口に立つ息子の姿に気づいた。
「心配いらん。」そう言って彼は続けた。「一匹だけ、まだ生きてたみたいだ。もうすぐごはんできるから、席に戻ってなさい。」
フレームは父の言葉に従い、また座って虚空を見つめ始めた。
――ヴァヴァリーが帰ってくるまで、ずっと。
そして、三人で食事をした。
フレームが口の中で揚げた妖精の味を感じたとき――
母が死んでからの数時間、何も感じなかった心に、久しぶりに何かが戻ってきた。
その味は、彼の心を少しだけ癒してくれた。