第32話 (1/6)
3時間前
14,605年、
収穫の時期 第26日
フレームは馬車に乗って西の駐屯地へ向かった。
目的はティタニアに会うこと。彼女に地上までの同行を頼むつもりだった。
だが、運が悪かった。
猟師たちの詰所に到着した彼を迎えたのは、テスロの部隊だけだった。
食堂の扉を開けた途端、仲間たちに取り囲まれた。
「フレーム!昨日どこ行ってたんだよ!」と、海野が叫ぶ。「すっごく心配したんだからな!」
「今や伝説だよ、君は!」ディリーが彼の腕に絡みつく。「ミスター・ドラゴンスレイヤー!」
ジモンでさえも、珍しく優しい言葉をかけてくれた。「会えてよかったよ。」
フレームは周囲を見回したが、ラヴァレの姿はなかった。「モスは……どうしてる?」
「彼は……大丈夫だよ。」海野の声にすすり泣きが混ざる。「でも、悪い知らせがあるんだ。」
その場にいた全員の表情が一気に曇った。
「その……」海野が言い淀む。「ラヴァットが……ラヴァットが……」
フレームの喉がカラカラになった。「知ってる。」
声が掠れて、高く、不自然な調子になった。
目に熱さを覚え、胃の奥がきゅっと締めつけられる。
それでも、どこか温かかった。
腕が彼を抱きしめる。ディリーの腕だった。
彼女は何も言わなかった。ただ、彼をそっと抱きしめてくれた。
それだけで、十分だった。
彼女が離れたとき、頬が濡れているのに気づいた。
袖で涙を拭いながら尋ねる。「モスはどこ?」
海野が鼻をすすり、まばたきをした。「彼とエンギノは、今テスロに事情聴取されてる。もうすぐ終わるはず。」
フレームが理由を聞こうとしたそのとき、ふたりがちょうど食堂に入ってきた。
モスは彼を見るなり目を見開き、すぐに駆け寄ってきた。「お前……?」
フレームは微笑もうとしたが、うまくいかなかった。「心配かけてごめん。僕は無事だよ。」
モスは片方の目をこすった。「どうやったんだよ、ゴスター。」
「それ、みんな聞きたがってるよ!さあ、話してフレーム!」ディリーがそう叫んだ。きっと氷竜との戦いの詳細を期待していたのだろう。
――だがフレームはわかっていた。モスが求めているのは、それじゃない。
モスが彼の腕を引いた。「ごめん、ちょっと借りるよ。」
ディリーは手を振って応じた。「どうぞごゆっくり、ラブラブなおふたりさん!」
廊下を出ると、背後から海野の声が響いた。
「いい加減にしろよ、それ。」
モスはフレームを連れて食堂を出て、階段を上り、ロンドを越えてハンガーまで向かった。
そこでなら、誰にも邪魔されずに話ができる。
ふたりきりになるやいなや、モスが勢いよく話し出す。
「お前の彼女、来てたぞ。テスロが捕まえようとしたら、逃げたんだ。で、俺が奴とエンギノをショックさせた。記憶がちょっと曖昧になってるはず。感謝しろよ。それより、どうやったんだよ、それ?」彼はフレームの無傷の肌を指さした。
「……僕の彼女?」それしか言葉が出なかった。
「リサレだよ。」モスが苛立ち気味に睨む。「で、どうなんだよ?」
胸の奥のしこりが、すうっとほどけていく。
リサレは彼を見捨てていなかった。彼のもとを、去ってなどいなかった。