表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/218

第32話 (1/6)

 

 3時間前


 14,605年、

 収穫の時期 第26日


 フレームは馬車に乗って西の駐屯地へ向かった。

 目的はティタニアに会うこと。彼女に地上までの同行を頼むつもりだった。

 だが、運が悪かった。

 猟師たちの詰所に到着した彼を迎えたのは、テスロの部隊だけだった。

 食堂の扉を開けた途端、仲間たちに取り囲まれた。

「フレーム!昨日どこ行ってたんだよ!」と、海野が叫ぶ。「すっごく心配したんだからな!」

「今や伝説だよ、君は!」ディリーが彼の腕に絡みつく。「ミスター・ドラゴンスレイヤー!」

 ジモンでさえも、珍しく優しい言葉をかけてくれた。「会えてよかったよ。」

 フレームは周囲を見回したが、ラヴァレの姿はなかった。「モスは……どうしてる?」

  「彼は……大丈夫だよ。」海野の声にすすり泣きが混ざる。「でも、悪い知らせがあるんだ。」

 その場にいた全員の表情が一気に曇った。

「その……」海野が言い淀む。「ラヴァットが……ラヴァットが……」

 フレームの喉がカラカラになった。「知ってる。」

 声が掠れて、高く、不自然な調子になった。

 目に熱さを覚え、胃の奥がきゅっと締めつけられる。

 それでも、どこか温かかった。

 腕が彼を抱きしめる。ディリーの腕だった。

 彼女は何も言わなかった。ただ、彼をそっと抱きしめてくれた。

 それだけで、十分だった。

 彼女が離れたとき、頬が濡れているのに気づいた。

 袖で涙を拭いながら尋ねる。「モスはどこ?」

 海野が鼻をすすり、まばたきをした。「彼とエンギノは、今テスロに事情聴取されてる。もうすぐ終わるはず。」

 フレームが理由を聞こうとしたそのとき、ふたりがちょうど食堂に入ってきた。

 モスは彼を見るなり目を見開き、すぐに駆け寄ってきた。「お前……?」

 フレームは微笑もうとしたが、うまくいかなかった。「心配かけてごめん。僕は無事だよ。」

 モスは片方の目をこすった。「どうやったんだよ、ゴスター。」

「それ、みんな聞きたがってるよ!さあ、話してフレーム!」ディリーがそう叫んだ。きっと氷竜との戦いの詳細を期待していたのだろう。

 ――だがフレームはわかっていた。モスが求めているのは、それじゃない。

 モスが彼の腕を引いた。「ごめん、ちょっと借りるよ。」

 ディリーは手を振って応じた。「どうぞごゆっくり、ラブラブなおふたりさん!」

 廊下を出ると、背後から海野の声が響いた。

「いい加減にしろよ、それ。」

 モスはフレームを連れて食堂を出て、階段を上り、ロンドを越えてハンガーまで向かった。

 そこでなら、誰にも邪魔されずに話ができる。

 ふたりきりになるやいなや、モスが勢いよく話し出す。

「お前の彼女、来てたぞ。テスロが捕まえようとしたら、逃げたんだ。で、俺が奴とエンギノをショックさせた。記憶がちょっと曖昧になってるはず。感謝しろよ。それより、どうやったんだよ、それ?」彼はフレームの無傷の肌を指さした。

「……僕の彼女?」それしか言葉が出なかった。

「リサレだよ。」モスが苛立ち気味に睨む。「で、どうなんだよ?」

 胸の奥のしこりが、すうっとほどけていく。

 リサレは彼を見捨てていなかった。彼のもとを、去ってなどいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ