第31話 (1/3)
園香はサロンの扉をノックしてから、取っ手を下ろし、少しだけ隙間を開けて顔をのぞかせた。
三人のスタージスがテーブルの周りに立ち、広げられた地図を前に議論していた。
ウェザロンが彼女に気づくと、ため息をついて話を中断した。彼はサロンを出て、扉を閉めた。
二人きりになる。
「なぜ戻ってきた? 今度はそう簡単には逃がさないぞ。」その声に込められた怒りは明白だったが、彼女にはそこに少しだけ安堵も混じっているように思えた。あるいは、それは願望だったのかもしれない。
「わかってる。」彼女の声は震えていた。「もう、どこにも行けない。どこへ行っても、私は一生逃げ続けることになる。そんな人生、もう嫌なの。」
「少なくとも、無事でよかった。」ウェザロンはかつてと同じ目で彼女を見つめた。期待と、心配と、恋。
園香はその視線に耐えられず、視線を逸らした。心が壊れてしまいそうだった。「本を見せてくれたら、あなたと結婚する。両親たちもきっと喜ぶわ。」
彼は眉をひそめた。「君は……それで幸せになれるのか。」
「約束はできない。その本に何が書いてあるか次第よ。」彼女は正直に言った。「ウェザロン。」彼女は彼の手を取った。「あなたに私を幸せにする力なんて、最初からなかった。ただ、この世界だけが、それをできる存在なの。」彼の瞳の中に、彼女の顔が映っていた。「だから、一緒に世界を変えましょう。」
彼の目の輝きがかすんだ。シアンの色は、太陽のないくすんだ空のように濁っていった。
「……もし、世界が変わらなかったら?」
「それでも、私たちはやってみたってことになるわ。」
ウェザロンはジャケットのポケットに手を入れた。小さな箱を取り出し、それを開いた。
ダイヤモンドの氷のバラが彼女に微笑みかけた。スタージス家の象徴だ。
彼は園香の手を取り、慎重に指輪をはめた。「君を図書館まで連れていこう。」