平穏な日々
突然ルゥたちの頭上が暗くなる。
「きゃっ!!!」
ハピィがルゥを後ろを見て叫び声を上げた。ミラもハピィの後ろに隠れて震える。
ルゥは何が起こっているか分からず、後ろを振り向くとオルトロスがルゥを見下ろしていた。
「あ。オルトロスだ」
「ルゥ、ケルベロスはどうしたんだ?あいつは一緒のはずじゃ……」
「あーえっとー、かくれんぼしてて……」
ルゥはすっかりケルベロスのことを忘れて、ハピィとミラと話すのに集中してしまっていた。
「ルゥ……オルトロス様と知り合いなの…?」
あの元気なハピィがプルプル震えながら怯えているようだった。
「ん?オルトロスはケルベロスのおにちゃん。いつも遊んだ後にお迎え来てくれるよぉ」
ルゥはオルトロスの足元に慣れたように寄りかかる。
「でも、まだ帰る時間じゃないよー?どしたの、オルトロス」
呑気なルゥをみて少しため息をつくオルトロス。
「ガーゴイルから、報告があったんでな。ルゥが初めての魔物と遭遇してるって」
オルトロスはちらりと、ハピィとミラに目を向けた。
魔王の側近にあたるオルトロスに睨まれるなんて死を覚悟するしかない——ハピィとミラはブルブルと震えていた。
あぁ、またやってしまった、とオルトロスは反省していた。
大きな体に鋭い牙、するどい眼差しは下級魔物達からしたら尊敬の気持ちよりも、恐怖が勝った。ましてや子供なら特にだ。
「ハピィ、ミラ、どした?オルトロス、怖いことしないよ」
ルゥがオルトロスから離れ、ハピィとミラの頭を撫でる。
「大丈夫よー、怖くない」
オルトロスはそんなルゥを姿を見ながら、赤ん坊だった頃を思い出した。
「昔からルゥは俺たちのこと、怖がらないな」
「ハーピー、アルミラージ、すまない。怖がらせるつもりはなかったんだ。ルゥと仲良くしてやってくれ」
そういうと、森の中へとオルトロスは消えていった。
ルゥは森の中へバイバーイと手を振る。
それとほぼ同時に、ルゥを探すケルベロスの声が聞こえてきた。
「「「ルゥ!!!」」」
オルトロスよりは小さいが、頭の数は一匹多いケルベロス。
そんなのが今度は勢いよくルゥに近寄ってくる。
「わぁーーーーーーー!!!」
いよいよ、ハピィは泣き出してしまった。
「「「えぇ!??」」」
突然泣き出すハピィに狼狽えるケルベロス。
ルゥはそんな状況を冷静に見つめながら、なんかちょっと面倒だなと感じていた。
「ハピィ、落ち着いて。ケルベロス遊ぶの大好き」
「「「あそぼ!!ハピィ!!!」」」
一匹がベロンとハピィの顔を舐める。
「やぁぁああああああ!!うわーーーこわいいーーーー」
ハピィはさらに大泣き。ミラは放心状態。
「あー……」
ケルベロスは泣き出したハピィにびっくりして走り回る。
もうカオスな状態にルゥも座ってどうしようかと考えていた。
ルゥの頭にコツンと何かが落ちてきた。
「イテッ」
続いて、2個3個と茶色いきのみのようなものが落ちてくる。
上をふと見上げても特に何かがいるわけではなさそうだった———ルゥの目では見つけることができなかった。
おちてきたきのみが、1つハピィの前に転がる。
「あ!!!これ、おいしいやつ!!!」
ハピィが突然目を輝かせて泣き止んだ。
「こんな茶色で固いものが?」
ルゥは初めて見るきのみが美味しそうには見えなかった。
「えっとねぇ、これはこの皮を剥くのよ。がんばって……えっとぉ……」
ルゥも手でやってみようとするがあまりに硬くてむけそうにない。ミラも角ではできないし、小さい歯では歯の方が傷ついてしまいそうだった。
「「「がりっ」」」
ケルベロスが牙できのみを真っ二つにした。中にはふわふわの白い身。それぞれの頭が3つ分、割ってあげるとルゥとハピィ、ミラに半分渡してあげた。
「あ……ありがと……」
ハピィとミラはおそるおそるケルベロスから半分のみを受け取った。
ルゥも受け取り、かじる。
「んーーーー!あまい!!!」
初めて食べるきのみにルゥは大喜び。
その様子を見たケルベロスも大喜び。
「ふふ、ケルベロス様はルゥが大好きなのね」
ミラがその様子を微笑ましく見ている。
「「「ケルベロスでいいよ!!!みんなともだち!!!」」」
今度は怖がらせないようにケルベロスが頭をゆっくり近づけると、ハピィとミラも頭を合わせる。
「こわがってごめんね……」
ようやく仲良くなった様子を見て、ルゥは良かったとおもいながら、ケルベロスが残していたきのみをかたっぱしから食べまくっていた。
食いしん坊?