魔物の友達
「トロじぃー、おはよー?」
肩までのふわふわのシルバーグレーの髪にまんまるの紫の瞳。
あの時の赤ん坊———ルゥは、もう一人で歩けるまでに成長していた。
ルゥは小さな体で一生懸命ベッドへ登ると、まだ寝ているトロール爺さんの白い髭を引っ張り始める。
「ルゥ、もう起きたのか。早起きじゃの」
トロ爺は、髭を引っ張られながらも優しくルゥの頭を撫でてあげる。そばの机に置いてあったメガネに手を伸ばすと、ゆっくりと起き上がった。
「朝ごはんは何にするかい?」
「んー今日はね、果物食べたい」
「果物か、何か残ってたかの。見に行こうか」
ベッドから降りたその時、家の外が騒がしくなる。
「「「ルゥー、あーそーぼー」」」
「あ。ケルベロスだ!!」
ルゥが急いで玄関に向かうと、3匹の頭がついたケルベロスが嬉しそうに1本の尻尾を振ってる。
「おはよー、けるべろすー」
1匹ずつ頭を撫でてあげるととても嬉しそうだ。
「「「おみやげ、もってきたー!!!」」」
葉っぱに包まれた、果物を加えていた。
「わ、果物。ありがと!!食べたかったの。一緒に朝ごはんにしよ」
庭にある椅子とテーブルに腰掛けると、ケルベロスがそばに腰を下ろす。
ちょうど、トロ爺がミルクのたっぷり入ったコップと、ケルベロス用にお皿に入ったミルクを3つ持ってきてくれた。
「今日もケルベロスと遊びに行くのかい?」
「ん。そのつもり!」
果物を口いっぱいに頬張りながら、ルゥは答えた。
「気をつけて遊ぶんだよ、あまり遠くに入っちゃダメだからね」
「はーい、気を付ける」
ケルベロスたちは先に食べ終わると、森の方へ走り出してしまった。
ルゥも負けじと果物とミルクを口に頬張ると、慌ててケルベロスの後を追う。
「ちゃんと、片付けもしないとダメだぞ」
トロ爺の一言でルゥは慌てて戻り、ケルベロスと自分の皿をキッチンへ運んだ。
「じゃあ、いってくるーお昼は森で食べてくる!」
ルゥはケルベロスにまたがると森の中へ消えていった。
「魔物との暮らしにあんなに馴染むとはなぁ……」
トロ爺は、少し呆れながらも嬉しそうに笑っていた。
「ねぇ、ケルベロス、今日は何する?」
「「「かけっこは???」」」
「えぇ、かけっこケルベロス早すぎるんだもん、かくれんぼにしよー」
「「「ルゥかくれるじょうず!!!」」」
森の中でルゥをおろすとケルベロスは地面に伏せて目を閉じた。かくれんぼの始まりの合図だ。
「んー今日はどうしようかなぁ……」
ルゥは隠れ場所を探しながら歩いた。
大きな木の株の周りをぐるっと回っている時に何かにぶつかる。
「「わっ」」
尻餅をついたルゥは目を開けると、そこにはルゥと同じぐらいの背丈の女の子——ルゥは初めて見るがハーピーの姿があった。
「わぁ!!!あなたがルゥ?ルゥでしょ!!ママが話してるの聞いたことあるの!!ニンゲンの子がいるって」
「??あなたはだーれー?」
「あたしはハーピー!早く会ってみたかったの。ママはもう少し大人になってからって言われたんだけど……でも、たまたま出会ったなら運命よねっ!」
「ハピィ……?」
あまりに勢いよく話す初めて見る種族にルゥは少し尻込みした。
「ハピィ!?何それかわいい呼び方!あたしのことハピィて呼んで!!ね?ね?おねがい!」
少し後退りをしながらルゥは必死で頷く。
「何してるのハーピー……?」
草陰からモゾモゾとふわふわした塊が出てきた。
頭には一本の角と2つの長い耳——アルミラージだ。
「アルミラージ!やっと会えたの、ニンゲンのルゥに!!」
「ルゥ……さんですか?」
おずおずと寄ってくるアルミラージはふわふわの毛に包まれていて、思わずルゥは手を伸ばし撫でていた。
「わ!仲良く慣れそうね!!そうだ、ルゥせっかくならアルミラージの呼び方もかわいいのにしてあげてよ〜!」
「ア…ル……ミラ??」
あまりに早く話すハーピーについていけず、ルゥは聞き返す。
「ミラ!!!ミラってかわいいー!!」
そんなのはお構いなしに、ハピィはどんどん勘違いと聞き間違いを加速させていった。
少し置いてけぼりになっている、アルミラージ——ミラとルゥは顔を見合わせてふふッと笑った。
「ルゥも、ミラも可愛い〜〜!!」
きゃーとはしゃぐ3匹の背後から何か大きな魔物が少しずつ近づいていた。
アルミラージ、もふもふ可愛い