彼方に届けー紅き刀身に映るものー
「魔物の死体の山、その中央にある女性がいる、たった一本の刀で戦い抜く者が。
瞳は紅く、長く美しい白い髪をなびかせ魔の者を狩る者。
彼女の名は紅羽、彼女を知るものはいない、ただ一人を除いて」
約12万といったところか、これほどの数ならば余力も残るが、この数は不自然というものだ、群というよりも軍隊だな、なにかから逃げてきたのか操られていたか...いやこれほどの数を操る魔術師がいるなど聞いたこともない、そもそもありえるものか──ん、あの子はこの村の生き残りか?
「そこの君、近くにはもう魔物はいないから、出ておいで」
戦場から少しした廃村、かつては家の柱であったであろう影に一人の名もなき少年がいた。
彼女は刀を鞘に納め少年に寄る
「きみ、この村の子かい?」
少年は首を縦に振る
「そうか、人に会うのは何年ぶりか」
たしか最後にあの村に寄ったのは2...いや3年だったなもうそろそろ行かねばならんな
彼女が遠い目をしていると、少年が鞘に納められた刀を指差す
「これが気になるのかい?」
紅羽が刀を鞘から引き抜き少年に見せる、少年は目を輝かせ興味を示す
「こいつに目をつけるとは、こいつは桜花爛漫私の相棒だ、親友にもらった大切な...」
彼女の持つ刀、桜花爛漫は今は亡き彼女の親友、さくらが打った名刀、さくらの最後にして最高の業物
これは今から5年ほど前、刀の聖地と呼ばれていた多くの名刀を生み出してきた村での出来事
「紅羽!ついにできたわ!」
さくらができたばかりの刀を持って紅羽の家に走って入ってきた
「おお、ついに!」
「これよ!」
さくらは紅羽に刀を見せる、ほのかに赤みがかり魔力を放つ刀身に、桜の木から作られた柄、鍔はない刀鍛冶でなくともわかるほどの名刀
「こいつはすごいな...」
「でしょ!6ヶ月かけただけあるってものよ!」
さくらはこの一本のために、体内に高純度の魔石を持つ魔獣を狩り、龍種の中で最も硬い鱗を持つとされる鋼龍の巣へ行き鱗を採取し、剣豪サウスの大剣に使われた鉄の取れた鉱山へ行き鉄を採取し、それらをさくらの家に伝わる秘伝の魔術により混ぜ合わせ刀を打った。
「それで、名前は決めたのか?」
「うん!桜花爛漫って名付けたの」
「いい名前だな」
この刀を打ったことでさくらは村一番の刀鍛冶として認められた、がしかし
桜花爛漫が打たれてから数日後、村は魔物の襲撃を受けた、ただの魔物の襲撃ならばすぐに対処できたが今回の襲撃してきた魔物の中には変異種と呼ばれる通常の魔物よりも強い者、特殊な力を持つ者がいたため村の戦力では足らず村は瓦礫の山と化していた
「さくら!」
魔物の襲撃を受けたと聞き急ぎ村へと戻った紅羽がさくらのもとへ到着した
「紅羽...無事で...よかった...」
さくらには右肩から左横腹にかけて魔物の爪で負ったであろう深い傷があった
「喋るな!すぐ片付けて、魔術師の治癒を受けさs」
魔物の方へ行こうとする紅羽の袖を掴み、引き止めた
「わかるの...もう...だからこれ..あなたに...使って、生き..てね...」
村は壊滅、瓦礫と炎の中、さくらは紅羽に桜花爛漫を譲ったそして彼女は息を引き取った。
「さくら?おっおい!返事をしてくれ!」
どれだけすごい刀を打っても死んだら意味もないだろう!さくら───私がお前の刀を未来につなぐ、繋いで見せる悠久の彼方まで...
「さくら悪い、使わせてもらう」
紅羽は桜花爛漫を手に取り変異種の元へ向かった
グオォ!
魔物はまだ暴れたりぬのかブレスを吐き散らかし手当り次第に建物を破壊していた
こいつが村のみんなを、さくらを!
紅羽は刀を抜き構えた、魔物は紅羽に向かい火を吐き、腕から生えた剣で斬りかかる
紅羽は炎を切り敵の斬撃をいなし、背後に回る
「さくらの敵だ!」
緋月流 拾の太刀 桜梅桃李
紅羽の繰り出した力強くしなやかな斬撃は魔物の胴体を絶った
そして魔物は死んだ、村の剣士が敗れたのが嘘のように、あっさりと
これがさくらの刀...すごいな、さくらは──さくら...敵は討ったぞ...
その日紅羽はさくら達を埋葬し、このようなことが少しでも世界からなくなるように、願わくば魔物によって失う命がなくなるように、彼女は魔物を倒す旅に出た
それから数年立った今でも紅羽は刀身を見るたび、さくらのことを思い出す
少年が紅羽の袖を引き不思議そうに見つめていた
「おっとすまない、少し昔のことを思い出してね」
「さて、このあたりは魔物も多い、ひとまず近くの村を探そうかね」
彼女は少年を連れ戦場をあとにした
移動中何度か魔物に遭遇したものの、魔物は瞬く間に真っ二つに、彼女にかかれば魔物の数十、数百など虫も同然
「少年、君は言葉は話せないのか?」
少年は首を縦に振る、やはり言葉の理解はできているようだが話すことはできないようだ
紅羽は村を目指しながら少年に言葉を教えることにした。
「私の名は紅羽だ、名前を言ってみろ」
「べには?」
「ほう、すんなりと」
さしずめ話せなかったのは村でのショックが原因か...
「なら、次は...」
それから少しして少年は村に着く頃には難なく話せるまでになっていた
「師匠、どちらへ向かっているのですか?」
「名前でいいと言っているだろう」
「いいえ、命を救ってもらった上、剣を教わっているので」
「まだ基本だが...まあいい、昔世話になった村がこのあたりでな、そこに向かおうと思う」
「わかりました」
過去、魔物たちに襲われているところを助けた、紅羽の数少ない知り合いのいる村
「ここだ」
「おお、紅羽殿!お久しぶりです!」
「やあ、爺さん3年ぶりかな?」
この爺さんは紅羽が数年に一度、刀の点検を頼むために訪れる鍛冶屋の店主
「もうそんなにですか、今回はどうされましたか?」
「いつも通り刀の点検と、それからこの少年に刀を打ってもらいたい」
「よろしいのですか、師匠?」
少年は目を輝かせ聞いた
「ああ、君も戦えないといけないからね」
「わかりました、紅羽殿の頼みとあらば、この老いぼれ、全身全霊で打たせてもらいましょう!」
そう言うと爺さんは鍛冶屋の作業場に入っていった
「少年、刀は少し時間がかかるから、他の装備を見に行くとしようかね?」
少々この装備では少年にはキツかろう
「はい!」
少年は嬉しそうであった、師匠とともに戦えるのだと。
二人は防具屋を訪れた、少年は初めて見る光景に心躍らせていた。
「師匠!見てください!見た目は普通の鎧なのにとても軽いです!」
「ああ、それは中に魔法陣があって装備に様々な効果をつけてあるのだよ」
「師匠のその服にもなにか効果があるのですか?」
「いいや、私のはただの服だよ」
「魔法陣をつけないのですか?」
「私は魔力が少ないからね、つけてもそう長く続かないのだよ」
紅羽が刀鍛冶にでなく剣士となった理由はこれである、あの村の刀鍛冶は魔術を使い刀を打つため魔力の少ない者は剣士または商人などの他の職につく、
「そうだね、これなんかいいんじゃないか?」
紅羽は軽量化と硬度上昇の込められた胸当てと、服を指した
あまり効果の高いものでは装備に頼りすぎてしまう、そうして死にゆく者も少なくないからな
「では、これにします」
少年は新しい装備に着替え紅羽と鍛冶屋に向かった
「今おかえりですかな?」
「ああ、また一段とにぎやかになったな、この村は」
「ええ、おかげさまで」
「ああ、それから点検が終わりましたよ、刃こぼれもなく3年前と何ら変わっておりませんでした」
「かなり凄腕の刀鍛冶が打ったようですな」
「ああ、私の知る限り、世界一の刀鍛冶がね」
紅羽は誇らしそうに言い、桜花爛漫を受け取り鞘に収めた
「それから、少年殿の刀の方はもう少しかかるのでその間はうちに泊まってくだされ」
「そうか、では世話になるとしようかね、ああそれから、適当に刀を借りれるかい?」
「ええよろしいですがなぜ?」
「少年に刀を打っている間、私の剣術を本格的に教えようと思ってね」
「よろしいのですか!?」
少年は驚いたように聞いた
「ああ、基本は旅の途中に教えたが刀がなく、教えきれなかったからね」
「今日はもう遅い、明日から教えようかね」
「はい!」
それから数日爺さんが刀を打っている間に紅羽は少年に剣術を教えた
そしていつもどうり剣術の指導をしていると
「魔物だぁぁあ!」
魔物が村に攻めてきた、あまりにも急の出来事に村はすぐに混乱に飲まれた
「爺さんと少年は避難誘導を頼む!」
「わかりました!紅羽殿もお気をつけて!」
「ああ」
「師匠!私も戦います!」
「いや、だめだ!君の刀はまだ完成していないそれに君は剣術を習得しきれていないだろう」
「わかりました...」
「その代わり、私の逃した者が居れば任せる」
「わかりました!」
少年と爺さんは村人たちの避難を、そして紅羽は魔物の群れのもとに向かった
「そなたら、運が悪かったな私のいるときに攻め込むとは」
そう言うと紅羽は桜花爛漫の柄に手をかけ構える
「見せてやろう、赫月流の剣術を!」
すると魔物たちが紅羽めがけ襲いかかる
赫月流 壱の太刀 月光
目にも止まらぬ速さで抜かれた刀身は魔物の首に一直線で飛び気がつけば魔物の首が落ちていた
「さあ、どんどん掛かってこい!」
魔物の群れは紅羽を包囲し一斉に襲いかかった
「少しは、頭を使ったか、が...むしろ好都合」
捌の太刀 夜桜・乱舞
紅羽は周囲をものすごい速さで切り斬撃で周囲を包んだ、魔物たちは瞬く間に粉々となった
♫〜♪〜
奇妙な音がかすかに聞こえる
「今の音どこかで...ん」
すると紅羽の前に先程とは明らかに違う魔物が一匹いた
背丈はさっきの魔物たちの約3倍、巨大な爪と翼を持つ魔物
「そなた...魔族か?」
このような魔族は見たこともない、無論魔物であっても
魔物というよりも魔族のような姿に疑問を思い紅羽は聞いた、が次の瞬間魔物の爪が目の前にあった
紅羽はその攻撃をいなし刀を構える
「おっと、危ないじゃないか、返答のないあたり新種の魔物ということか、ならば切り捨てるまで」
参の太刀 花風一閃
音速を超える速さで魔物の首めがけ飛んでゆく
いつもならば相手の気がつく間もなく切り捨てたはず、が今回は受け止められた
なっ...こいつ、変異種か
「少しはやるようだね」
変異種にしてもやはりこの魔物はどこかおかしい、そう思いつつ次の攻撃に移る
拾のt
ガアァァ
「ぐっ..」
攻撃を仕掛けようと構えた瞬間、魔物が突撃してきた間一髪で爪を刀で弾いた
「すこし、本気を出さねばならないようだね」
そう言うと紅羽は二度目の突進を避け桜花爛漫を目の前に構えた
「思念開放...」
すると桜花爛漫の刀身は更に紅くなり炎に包まれた
思念開放...武器が使用者の思いに呼応し武器に眠る力を開放する
参の太刀 花風一閃
紅羽の繰り出した斬撃は魔物の首を焼き切った
グオオォ?
魔物の頭は切られたことに気づかぬまま地に落ち灰となった
「ふう、久しぶりに骨のある奴だったね───さて戻るとするかね」
紅羽は少年の元へと戻った
「師匠!ご無事ですか」
「ああ、見ての通り」
「紅羽殿、ご無事で何より、戻られたということは..」
「ああ、魔物はもういないはずだよ」
「また、助けられてしまいましたな」
「なに、私もこの村には世話になっているからね」
迅速な対応により村の被害は無いに等しいほどに抑えられた
それから数日、少年の刀が完成した
「ほれ、できましたぞ」
「これが、私の刀...」
「ああ、これで君も戦えるな、それと名は何にするのかね?」
「はい?名前ですか?」
「ああ、刀はその刀を打ったもの、または刀の所有者が名付けを行うのだよ」
「この爺さんは基本的に、店の商品にすら名付けないんだよ、変わってるだろう?」
「名前ですか...」
少年は少しの間考えた、が思いつかない
「師匠がつけてくれませんか?」
「いいのか?」
「師匠につけてほしいのです」
「そうか、なら───」
紅羽は刀を見た、薄く青みがかった刀身を
そして
「雲外蒼天、なんてどうだい?」
そう名付けると少年は嬉しそうに刀を握った
「ありがとうございます!大切にします!」
「では、もう行けれるのですかな?」
「ああ、また数年後に来るよ」
「そうですか、ではお待ちしております、紅羽殿、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「爺さんも元気でな」
そう言い紅羽と少年は爺さんに別れを告げ、村を去っていった
「師匠、次はどちらに?」
「そうだね...まあ行き先も無くさまようのもいいだろう」
「そうですね」
「そういえば少年、名は何というんだい?」
「今更ですね...それが、私には名前がないのです、なのでお好きなように呼んでください」
「だがあって困るものでもないだろう、旅の途中考えておくよ」
「いいのですか?」
「ああ」
少年は少し嬉しそうに微笑んだ
そして2年ほど時が経ち、ある森を通りかかったある日
「今日はこのあたりで野宿するかな」
「では準備を──」
「待て、誰かいる──こっちだ!」
紅羽は声のする方へ走った、少年もその後を追うそして森を抜けた先の平原に少女がいた、魔物とともに
ガアアァァ!
「いっいや!」
魔物が少女めがけて火球を吐く
キンッ!!
少女に当たる寸前、少女と魔物の間に入った紅羽が火球を切った
少し遅れて少年が合流する
「君、無事かね?」
「はっはい!」
♫〜♪〜
すると村で聞いた音が聞こえる、今度ははっきり聞こえた、歌声が...
「今のは...」
ウガアァァ!
「なにっ!グッ」
魔物は体が元の3倍まで大きくなり巨大で鋭い爪を生やした
紅羽に向かい爪を立て降り掛かったそして先程とは比べ物にならないほどの火球を吐いた
ガウバァァア!
「まずい!少年!彼女を連れて避難を!」
私と今の少年なら大丈夫だろうが、少女は無事では済まないだろう
「はっはい!」
少年は少女を抱え遠くに走る
赫月流 肆の太刀 花吹雪
紅羽は前方に何度も切りつけ火球を打ち消した
「おお、やるね〜」
「何者だ!」
上空から何者かの声が聞こえる、声のする方を見るとそこには、青い長髪を持ち白いワンピースを身に包んだ少女が宙に浮いていた
「やあ!ボクの名前はレヴィ!みんなはエンヴィーって呼ぶけどね」
「エンヴィー...?まさかあの七雄のではないだろう?」
「そうだよ?ボクこそが、かの偉大なる七大七雄の嫉妬と呼ばれるレヴィなのさ!見てわかんない?」
七大七雄とはこの世界の最強の七人のこと、彼らは順に嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食の名を持つ、太古に選ばれてから今までこの順位は変わらない、七雄以外の者が名を上げることもなく七雄内でも変動はなかった、それほど七雄の存在は強大なのである
あの子供のような見た目に合わぬ程の膨大な魔力、嘘ではないということか、七雄は傲慢 剣豪サウスを除いて、もう死んだまたは存在しないとされてきたが、まさかこのような場で目にすることになるとは
「ならば、なぜ七雄がこんなところにいる」
「んーとね、それは君に用があるからさ!」
「私に?」
「そう!だって君、強いんだもん、魔物たちを送ってもみーんな倒しちゃうんだよ?」
「魔物を送る?まさか爺さんの村を襲ったのはお前の仕業か!」
「そうだよ、でーも!それだけじゃない、旅の途中の不自然な数の魔物の群れ、それに」
レヴィが不気味な笑顔を浮かべる
「君の故郷の時もさ!」
「なに?」
ヒュン!
紅羽の刀がレビィめがけ降り掛かったが、軽く避けられた
「おーこわいこわい」
「貴様がさくらを!!」
「いいのかな?忘れてるよー?」
レヴィが指差す方を見ると先程まで静止していた魔物が動き出し、少年たちの方へ向かうところだった
「少年!」
紅羽が魔物に攻撃しようと背を向ける
「はいっすきあり♪」
紅羽の背をレヴィの放った水弾が襲う
「グッ!」
ギンッ!
かろうじて声の聞こえた少年が魔物の攻撃を受け止めた
「師匠!」
「少年!彼女を連れて村へ迎え!道は彼女が知っているだろう!」
「ですが、2体を同時に相手することに!」
「時間稼ぎならできるはずだ、だから行け!」
少年は少女を連れ村の方へと走る
「いいの?ボクたちを同時に相手する気?」
「やってみなければわからんだろう?」
「思念かいh」
ドンッ
「ガァッ!」
思念開放を使おうと刀を構えたところを魔物に殴られる
「やらせないよ、その力は厄介だ、だからあの村を燃やしたんだよ、なのに残ってるんだから面倒なことに」
また怒りに飲まれそうなのを抑え刀を構えた
緋月流 陸の太刀 零れ桜
突きにより衝撃波を生み出し魔物を吹き飛す
肆の太刀 花吹雪
次にレヴィめがけ斬りかかるが
♪〜〜
ギンッ!
レヴィが歌で生み出した魔力壁に止められる
レヴィは魔力を歌にし高等魔術を操り、あるときは相手を魅了し操り、またあるときは自身や仲間を強化する、身体強化魔術は本来使えば体がその負荷に耐えられず死に至るためか、レヴィはその時しか使わない使い捨て魔物、または細胞自体を数十年かけて慣らした魔物にのみ魔術をかけ操る
「ざんねーん!」
♫〜♫〜
紅羽めがけ水の槍を飛ばす、紅羽は魔力壁を蹴り後ろに避けるが
ガアァァア!
避けた先で魔物の攻撃を受けた
流石に2体はきついか...ひとまず魔物を片付けるとしよう
紅羽は刀を魔物に向け構える
参の太刀 花風一閃
「水球式日光圧縮光線!」
レヴィの周囲に水球が6つ現れ日の光を当て一つに集め水球に当て圧縮された光線が紅羽を襲った
かに思えたが光線の当たった紅羽が消えた
「えっ!?消えた!」
玖の太刀 朧月夜
残像を生み出しレヴィの気を引く、
拾の太刀 桜梅桃李
本物の紅羽が魔物に斬りかかり魔物は肩から横腹にかけて真っ二つになった、これであとはレヴィのみ
「あとはそなただけだ」
レヴィがまた不気味な笑みを浮かべる
「それはどうかな?」
「なに?」
真っ二つになった魔物の体が引き合いくっつき元通りになった
「この子には再生力を上げる魔術をかけておいたのさ!だからそう簡単には倒せないよ」
また2対1か
ガアァァ!
♪〜♪〜
魔物が火球を吐く
捌の太刀 花吹雪
紅羽は何度も火球を切り、散らす
少し遅れてレヴィが水の渦を放つ
「師匠!」
伍の太刀 葉桜
少年が水の渦を魔力を散らす技で受け止めるが散らしきれず弾かれ吹き飛ぶ
「少年!無事か!」
紅羽が少年のもとに寄る
「はっはい!少女は無事村に送り届けました」
「よくやった、一瞬任せられるか?」
「はい!お任せください」
「一人増えたか〜まっ関係ないけど」
ウガアァァ!
魔物が二人に殴りかかり、レヴィが水の槍を飛ばす
弐の太刀 桜陰
陸の太刀 零れ桜
少年は槍をいなし、魔物を衝撃波で突き飛ばした
「思念開放!」
少年の稼いだ一瞬を使い刀を炎で包む
「よくやった少年!」
「げっめんどい!」
漆の太刀 残桜
捌の太刀 花吹雪
紅羽は魔物の体を反転させ避け魔物の首を焼き切り四肢をも切った
「これで再生はできまい」
「あーあ、やられちゃったか」
傷口を焼かれた魔物は再生できずそのまま灰となった
「あとはそなただけだ」
「そーだね、でもそれがどうかした?ボクは七雄なんだよっ!」
「水球式日光圧縮光線・乱!」
レヴィが先程の光線を周囲に乱射する
「ガッ!」
「少年!」
「隙ができたね」
♬〜♫♪〜
歌声が電撃の衝撃波となり二人を襲う
「カハッ!」
紅羽は膝をつき少年は気を失った
「もー手間かけさせないでよ!」
レヴィは地面に降りてき、紅羽を蹴り飛ばす
「ガハッ!」
紅羽は体制を整え刀を構え直す
「まだ動けるんだ、もうめんどくさいし本気出してさっさと終わらせよーと」
レヴィは自身の周りに複数の魔法陣を出し歌い出す
♪〜〜♫〜♪〜♬
レヴィは体に魔力を纏う
「そっそれは!」
「そう、身体強化魔法だよ」
「ありえん!なぜ、死なん!」
身体強化など、この世の道理に反している、なぜ使える!
「さー?なんでだろうね?君が知る必要はないさ」
気がつけばレヴィは紅羽を殴り飛ばしていた
「うっ!」
紅羽は急いで構え直す
一か八か...
「じゃあね、紅羽ちゃん」
レヴィが拳を振り上げる
「緋月流 奥義 紅桜!」
無数の小さな斬撃と強力な一撃をレヴィに食らわせた
「ギャッ!ガハッ!、ははっ、まだ、足掻くんだ、無駄だって!」
これなら奴に効くようだな
「師匠!」
「ウグッ!」
レヴィの拳により放たれた連撃が紅羽を襲う、目を覚ました少年は止めに入ろうとしたが間に合わない
紅羽のもとに少年が駆け寄る
「師匠!大丈夫ですか!」
やむを得ん、このままやり続けても、最後には負けるだろう、もうこれしかないか...
「少年、起きたか、少し下がっていろ」
「えっ!師匠なにを!」
紅羽は殺意も敵意も消しレヴィに近づく
「やっと諦めたの?じゃあ今度こそバイバーイ」
紅羽の胸をレヴィの腕が貫く
「ウッ!」
「師匠!!うっ嘘だ!師匠...」
少年は膝から崩れ落ちた
「やっとか、じゃああとは君だね少年くん?──ん?あれ抜けない?」
「おい、私がただで殺されると思ったか?」
「えっ何する気?今更、人間の君に何ができるっての?」
「この距離なら...殺れるだろう!」
紅羽は刀を強く握る、そして呼応するかのように刀の炎が強くなる
「緋月流...」
「うっ嘘でしょ?」
「零の太刀...」
「そんな捨て身!」
レヴィはひたすらに腕を引き抜こうともがくもびくともしない
「紅蓮!!」
紅羽の繰り出した斬撃は思念開放による炎をも上回る業火とともにレヴィを切りつけた
「ウガアァァァア!なにさ!この炎!」
「いっイヤ死にたくなっ!お助けを!創造神様!!」
レヴィは炎に包まれ、もがいている
零の太刀は紅羽の作った奥の手、思念開放の力を最大限引き出す太刀
レヴィの腕を引き抜き紅羽は倒れた、そこに少年が急ぎ駆け寄る
「師匠...嫌です!死なないで!」
「少年...私は人だ...いつか死ぬ...それが..今だった...それだけだ」
「でっでも!」
紅羽は少年の頭に手をおいた
「泣くな、カナタ」
「えっ?」
「言っただろう?...名前を...つけてやるって...」
「これが...師からの...最後の贈り物だ」
「ありがとう──ございます」
少年は涙を拭き精一杯の笑顔を見せた
「そうだ...爺さんによろしくな...それとこいつを...任せた...お前は...自慢の弟子だ.....」
紅羽は少年に桜花爛漫を授け息を引き取った
「はっっはは!やっと死んでくれたか」
レヴィについた炎は紅羽の死とともに消え、レヴィは生き延びていた
グッ
少年は涙を止め桜花爛漫を握りしめた
師匠あとはお任せください...
「あっあとは君さえ殺せばっ!」
参の太刀 花風一閃
少年はレヴィの喉を切った、喉を切られたレヴィは声が出せなくなった
「ガハッ!」
「これでもう声は使えないだろう?」
「ヴッ!(こっ声が!)」
レヴィは少年に背を向け逃げ出した
「師匠お借りします....零の太刀 紅蓮!!」
「ヴゥゥヴ!(こんなやつに!)」
レヴィは水弾を乱射するも実は焼かれ、喉を切られ歌も使えない、焦って精度も低い魔術では大したダメージもない
少年は水弾のことには目も止めずただレヴィを見ている
「この世から立ち去れ、レヴィ」
「ヴッ(いっいや!)」
瀕死のレヴィには型など不要ただ刃を上から下へ振り下ろす、それだけ、思念開放がされていないため火力は低いがレヴィを倒すには十分だった
「師匠、終わりましたよ」
少年改め、カナタは師の死体を背負い少女を送った村へと向かった
「お兄さん!」
村に入ってすぐ、助けた少女とその両親が出迎えてくれた
「お兄さん、お姉さんどうしたの?」
「疲れて眠っているんだよ」
カナタは少女に心配させまいと嘘をついた
「ほら、お兄さんは用事があるからお家で遊んでようね」
「うん」
両親は察したようで少女を家に返した
「すみません、師匠を火葬したいのですが」
「わかりました、村の魔術師を呼んできますね」
カナタは魔術師に頼み師の遺体を焼き、壺に骨を拾い一晩村に泊まった
「お兄さん!また来てね!」
「ええ、必ず」
少女に別れを告げ、カナタはある場所に向かった、あの鍛冶屋のお爺さんのいる村に
「おお、少年殿!紅羽殿はどちらに?」
「お爺さん...師匠は壮大な戦いの中、息を引き取りました」
「そうですか...儂より先にいってしまわれるとは」
「それで師の墓をお爺さんの家の庭に立てたいのですがいいでしょうか?」
「儂は構いませんがこのような場所でよろしいのですか?」
「ええ、ここが師にとって帰るべき家のような場所ですので」
そうして紅羽の骨は鍛冶屋の庭にある過去に紅羽が植えた桜の木の下に埋められた
「そうだ、私の刀の修理をお願いできますか?」
「ええ、構いませんよ、お急ぎですかな?」
「いえ、次に来たときにでも渡してもらえれば」
「それではもう行かれるのですか、少年殿」
「ええ、師匠の旅の続きに、それと少年ではなくカナタ、ですよ!」
「そうでしたな、ではいってらしゃいませカナタ殿」
「行ってきます!お爺さん数年後にまた!」
そう言ってカナタは旅に出たいつの日か師を超えるため、大罪七雄 嫉妬のカナタとして。
そのカナタの後ろに一人の魂がいた
「まったく、別に旅まで継ぐ必要もないというのに、それじゃあ、これからは見守らせてもらうとするかね」
「それでは参りましょう、紅羽様」
「ああ、わかっている、そう急かすな」
しばしの別れだ、龍族の君がどれだけ長生きするかはわからぬが、私は待っているだからゆっくり来るといい
またな、少年
そして一人の魂と少女が空へと登り消えて行った
「そうこれが世界最強の男、後に魔龍神帝カナタと呼ばれる男の、始まりの物語だ」。