その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 16
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『———憤怒に燃える災厄の分け身が、本能に従いその姿を変える———』
『堕龍・タイタン型が真の力を解放する!』
『緊急! 堕龍・タイタン型が暴乱狂モードに移行!』
「What’s!?」
「はぁ!? なんだそれ!?」
突如として鳴り響いたゲームアナウンスに、二人の困惑の声が漏れる。
と同時、骨が軋むような音を立てながら堕龍の身体が不自然に蠢き始める。
ゴキッ! という音と共に堕龍の首が背中側に大きく折れ曲がり、手足も先から体の中心に向かってメキメキと折りたたまれていく。
そして……
およそ十秒後。
身体の突起部分を全て収納した、黒ずんだ肉色の球体がそこにはあった。
「いやいやいや……その変身は生物への冒涜だろ……」
「Ah~……あれだネ。パニックアクションゲームとかによく出てくるやつ」
「アネファンはゾンビパニックゲーだった? ……んなわけあるかよ。あ~ぁ、また行動パターン調べ直しかよ」
「No no。ここはこんな短時間で第二形態を引っ張り出せたことを素直に誇ろうぜ?」
実際、ワイバーン型を相手にカローナ達が百人単位で1時間かけたものをたった二人で、しかも数十分と経たずに達成したのは快挙だろう。
しかし、全身の装甲が剥がれ、二足から球体に変化した堕龍の行動は大きく変わってくる。
「Gyararababababababababababa!」
「うわっ、キモッ!?」
球体となった堕龍の中央が縦に裂け、そこから大量の固形物が混じったどす黒い何かを大量に吐き出した。
思わずドン引きするSEと共に地面に広がったそれはゆっくりと立ち上がり、怪しい光を灯す一つ眼を二人に向ける。
「「「「「Gyararararara……」」」」」
「「ヤバいな……!」」
新しく増えたのは10体か。
1mぐらいの大きさで、見た目はずんぐりとした人形みたいな見た目のモンスターだ。
みたいなというのは、腕も足も4本になっていたり、顔には堕龍と同じ巨大な一つ眼がついていたり……明らかにただのモンスターではない部分が存在しているからだ。
(いや、見た目は『魔導機兵』に似てる……ということは、こいつは食ったやつを手下として吐き出したってことか)
Mr.Qの予想は半分当たっていた。
もう半分は、魔導機兵の身体の一部が堕龍のものでできているという点である。
(となると厄介だな……雑魚敵とはいえ、2対10は不利すぎる。それに、堕龍も同時に相手にしなきゃいけないとなると……)
頭の中で様々な作戦を立てつつ、武器を替える。
右手には『ネグロ・ラーグルフ』を。
左手には、ある魔物から採れる糸を加工した魔糸を装備する。
堕龍がどのように動くか分からない今、エクスカリバーを使うには少々リスクが大きい。
「スター、サポートできないと思うから自分でなんとかしてくれよ?」
「OK!」
「「「「Gyararararara!」」」」
妖しい光を灯す一つ目にMr.Qとスターストライプを捉え、歪な姿の魔導機兵が殺到する。
が、直線的な動きが通用するはずもない。
Mr.Qは最も前に出ていた魔導機兵の鋭い爪を弾き返し、直後に左手から放たれた魔糸が魔導機兵をがんじがらめに縛り上げる。
「頼むぜ幸運! 【マリオネット・オーダー】!」
魔導機兵を縛り上げるMr.Qの魔糸が、黒い光を放って魔導機兵を包み込む。
『操糸術師』の隠し上位職業、『マリオネッター』。
糸で捕らえた相手を操り、さながら操り人形のように手駒とする職業である。
当然全てのモンスターに通用するわけではなく、『一定以上ステータスが低い相手』に『LUC参照の確率で』成功するアビリティだが……今回は成功したようだ。
Mr.Qに捕らえられた魔導機兵は、一度ガクンッと脱力した後、くるりと反転して別の魔導機兵へと襲いかかる。
横から迫る別の魔導機兵をネグロ・ラーグルフで弾き返しつつ、実力が拮抗する敵と操り人形へ切っ先を向け———
「【ペネトリースパーダ】!」
強力な貫通攻撃が2体の魔導機兵を貫き、特大のノックバックで纏めて吹き飛ばす!
クリティカルが発生し、【ペネトリースパーダ】の効果である『クリティカル特攻』がその火力を跳ね上げ、2体の魔導機兵に致命的なダメージを叩き込む。
身体をバラバラに砕かれながら吹き飛んだ魔導機兵は、夥しいダメージエフェクトと共に破片となって辺りに散乱した。
「次……は?」
【ペネトリースパーダ】で一緒に貫かれてしまった魔糸を新しいものに替え、次の【マリオネット・オーダー】の獲物を狙うMr.Qは、堕龍に起こった変化を見逃さなかった。
「何だ? 穴が開いて……っ!?」
突如として発生した『引っ張られる感覚』に、思わず足を踏ん張る。それは堕龍へと向かっており……
「なるほど、そういうことかよ!」
辺りに散乱していた魔導機兵の破片が次々と堕龍へと吸い込まれていき、その体内でゴキゴキと生々しい音を立てる。
そして数秒後、ベチャッと吐き出されたそれは、4本の足で起き上がり、妖しく光る2つの眼をMr.Qへと向けた。
「Gyararararara!」
「キ◯ーマシーンかよ! 2体分の破片を合わせて1体のモンスターを産み出したってか? 何だその理不尽なモンスター製造機!?」
倒したはずのモンスターから、さらに強力なモンスターが産み出されるのだ。Mr.Qが『理不尽』と叫びたくなるのも当然だろう。
もし多くのプレイヤーが堕龍に食われていたとしたら、魔導機兵とプレイヤーのハイブリッドモンスターが産み出されていたため、この場に二人しか居ないのは不幸中の幸いであった。
「Hey! そっちは俺に任せな!」
「頼んだ!」
強化された魔導機兵の前に躍り出るスターストライプを見て、Mr.Qも即座にスイッチを判断する。
まだ他にも魔導機兵が複数居る状況で、強化個体に時間を割くのは難しい。となると、よりDPSが高いスターストライプが対応するのが妥当だと判断したのだ。
モンスターを産み出すだけで、堕龍が動かないのはラッキーだ。
強化個体を派手に殴り飛ばすスターストライプを横目に、Mr.Qは再び【マリオネット・オーダー】を発動した———
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