その翼に誇りを、その瞳に覇天の輝きを 15
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『アネックス・ファンタジア』内のアビリティは、プレイヤーのレベルが上がるにつれて進化することができる。
カローナが【ピアースレイド】→【ピアースレイドⅡ】→【ペネトリースパーダ】と進化させてきたのがその例だ。
そして、それらは各プレイヤーのスタイルに合ったものが厳選されていく。
ならばレベルが上限まで達するまで、ひたすらに火力を追求したプレイヤーが手にするアビリティは、どこに辿り着くのか。
———それは、人智を超えた神の御業。
『神技』の名を冠する究極の一撃は、一握りのプレイヤーにのみ許された、極限の領域。
「【究極の神技———ティタノマキア】!」
「Gyararararararara!?」
仰向けに倒れた堕龍の背中側、人間で言う心臓の位置に、黄金の光を灯す極大の一撃が叩き込まれる。
いったいどれほどの威力があったのだろう。
大地を揺るがす轟音とともにスターストライプを中心にドーム状の衝撃波が広がり、超重量の堕龍の巨体が、比喩表現ではなく本当に浮いたのだ。
破裂音を響かせながら堕龍の全身の装甲が弾け、それでもなお抑えきれない衝撃が、遥か上空の雲を吹き飛ばして斜陽を覗かせる。
アビリティの炸裂から一拍、アビリティの直撃によって浮いていた堕龍がようやく地面に落下し、ズンッ———と砂煙を巻き上げた。
「Sit! 今のでも致命傷にはなっていないみたいだネ」
「仕方ないだろ、あの装甲がなければもっとダメージ出てたんだろうけどな」
Mr.Qもスターストライプも、世界でトップレベルの実力を持つプロゲーマーである。当然、頂点を目指して二人は何度も戦ってきたし、お互いに相手の手の内を知り尽くしているといっても過言ではない。
だからこそ、これほどまでに息が合う。
お互いに『やりたいこと』が分かっているからこその、見事なコンビネーション。
その結果が、たった二人で堕龍を圧倒するという快挙だ。
「ヒューッ! 魔導機兵の素材が大量だネ! 軽く百はあるんじゃないかい?」
「回収は後でいい。せっかく転ばせたんだ、ここで削るぜ!」
「仕方がない……ネっ!」
迫ってきた触手をスターストライプが殴り飛ばし、体を起こそうと地面についた腕を、Mr.Qが糸で絡めとって引き倒す。
簡単に起き上がれないように堕龍の頭を地面に縫い付けつつ、Mr.Qは装甲がはがれた皮膚の表面が不自然に蠢き、新たな触手が生えてきたのを見てドン引きした。
「Gyararararara……」
「いやキモいっ! 物理的に手数を増やすとか聞いてないんだが!?」
「Oh……アキバとかにある薄い本でこういうの見たことあるよ」
「言ってる場合か!」
ここにきて新しい行動か。最初からこうしなかった理由は……いや、できなかったのか、殻が硬すぎて。
「つまりなんだ。俺らは装甲を壊すと同時に、こいつの蓋も開けちまったってことか?」
「Gyararararararararara!」
堕龍の腹部から生えた無数の触手が、Mr.Qとスターストライプに殺到する。頭を押さえられて姿が見えていないのか、狙いは雑だ。
しかし、それが逆に逃げ場のない攻撃と化していた。
「下がれ、スター! んで、対群勢チャートに変更!」
「OK! クウは!?」
「切り札を一枚切る!」
殺到する触手を前に、高速でインベントリを操作したMr.Qの手元に現れたのは、白い刀身を持つ、鍔すらついていない無骨な直剣だ。
銘を、『ストリームライン付与剪断特化5段階強化 アルブス・グラディウス』。
摩擦を極限まで減らし、剪断能力を極限まで追求したその直剣は、代わりに耐久力を犠牲にしている。
それこそ、たった一振りで破壊されるほどに。
しかし、剣は振るわれるためにある。
たとえほんの一瞬しか輝けない剣だとしても、たとえつぎ込んだ素材が無に返るとしても。
その一瞬こそ、アルブス・グラディウスの存在意義なのだ。
その直剣を握って一振り。
音すらも無く振りぬかれたその直剣は、装甲の無くなった堕龍の触手をまとめて両断し、それでも止まらずに堕龍の腕までも斬り落として見せた。
再び崩れ落ちた堕龍を横目に見つつ、ウィンドウに赤文字で『耐久値が0になりました』と表示されているアルブス・グラディウスの残骸をインベントリに放り込む。
「Gyararararararararararara!?」
「うぐぐぐ……これで600万Gかぁ」
「たっっっっっか!?」
「使い捨てにしちゃあちょっと高すぎるが、せっかく札束アタックで稼いだ時間だ。準備はいいんだろうな!?」
「Of course!」
そう陽気に返したスターストライプが、トンッと軽いステップで一気に間合いを詰める。先ほどまでの硬くて重い鎧を脱ぎ捨て、軽い道着に身を包んだ彼のスピードは、さすがはトッププレイヤーと言えるものだ。
「One to dozen! 【ドゥルガー・スマッシュ】!」
「ふっ……!」
スターストライプの拳に白い輝きが灯り、その矛先が堕龍の触手へと向けられる。
【ドゥルガー・スマッシュ】は、1発の攻撃が多段ヒットする攻撃アビリティだ。
効果時間は3撃まで、1撃が12ヒットにまで増大するうえ、強力なノックバックも与えることができる。
そんなアビリティがヒットする直前———Mr.Qの糸が無数に宙を滑り、『アルブス・グラディウス』によって斬り落とされ、再生しかけていた触手をまとめて雁字搦めに締め上げる。
糸によって触手を縛り、せっかく斬った触手がノックバックによって散るのを防ぎたかったのだ。
Mr.Qによって一纏まりにされたことによって、触手はバラけることなく【ドゥルガー・スマッシュ】に弾き飛ばされ、堕龍を守る盾がなくなったその瞬間———
「One more time!」
「Gyararararararararrara!」
堕龍の鳩尾に2撃目、3撃目と突き刺さり、激しくダメージエフェクトを吐き散らす。
「OK、そのまま攻め込め!」
「Of course!」
攻勢を続けるスターストライプは、もはや触手に見向きもしない。信頼できる相棒が居るのだから、その程度なんとでもなるのだ。
一纏まりにされた極太の触手を、Mr.Qが『ネグロ・ラーグルフ』で弾き返す。その間にもスターストライプが次々と攻撃アビリティを叩き込み、見て分かるほどに堕龍を削っていく。
起き上がろうとする行動を邪魔しつつ、一先ず作戦通りだと安心するMr.Q。
だが考えて戦うのは、なにもプレイヤーだけではない。
すなわち———このまま立ち上がれないのであれば、立ち上がる必要のない姿になれば良い———
『———憤怒に燃える災厄の分け身が、本能に従いその姿を変える———』
『堕龍・タイタン型が真の力を解放する!』
『緊急! 堕龍・タイタン型が暴乱狂モードに移行!』
お読みくださってありがとうございます。




